55.言葉の綾
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「…………え?」
長い沈黙を空けてから,ベリーが声を零す。
あからさまに眉を下げて困ったような表情になったソルトーダが,静かに言葉を続けた。
「まぁ,正しく言うと……。魔族は基本的に,人間は自分達とは違う生き物だし,関わる必要も無いかって思ってるんだよ。実際,今の魔王になるまで争うことも無かっただろ」
「……あ」
リリーナが自分の記憶と照らし合わせて,小さく頷く。
かつての人間と魔族は,関わり合うことの無い種族だったのだ。
同じ大陸に住んでは居たが,価値観や考え方が全く違うため,相容れなかったという。
だが,互いが互いを認識した頃はまだ,大陸は文明も無い荒れた土地だった。
故に争うことはせず,距離を取ったのだ。
それが今まで続き,魔族は魔王領に籠もり,人間達はそれ以外の土地を発展させていった。
しかし,最近になって新しい魔王は,その古来からの不文律を破り,人間の土地を滅ぼしている。
「……それだったら,魔王が嫌な魔族は多いんじゃないの?」
ベリーが率直な疑問を述べると,ソルトーダは少し不満そうに腕を組んだ。
「いや。悔しいけど,あの魔王の政治は素晴らしいんだって。だから表立って不満言う奴はオレ達以外居ない」
「政治すごいんだー……」
軽く政治については学んでいるベリーが,感嘆したように呟く。
恐らく,分かっているわけでは無い。
「逆に,表立って不満を言うのって驚かれてる?」
ふと気付いたのか,キャサリンが尋ねる。
「……まぁ。だから,オレみたいな優秀な魔族がいても,魔王軍には入れないんだ」
「自意識高っ」
微妙な表情になったソルトーダに,ゆめが呆れたように言葉を重ねた。
それに苦笑しつつ,リリーナはサイファ達の方を見る。
「……確かに,あの二人は相当な実力者だと思います。魔王軍を倒そうとか,考えたりしないんですか?」
切り込んだ言葉に,ソルトーダは返答に迷うように視線を逸らした。
「兄上達は……やっぱり,かつてスラメジート家が滅んだのを見てるから」
「怖いんだね」
実力はあっても,絶対的な権力者である魔王に勝てる保証は無い。
クラーウィスという一族を背負っている二人は,失敗した時の代償が重すぎる。
「……そるとーだも,こわい?」
唐突に,まろんが問うた。
煽るような言い方に,苛立ったらしいソルトーダが睨む。
「怖く無い! オレは,別に……やりゃ出来るだろ!」
「そうやって浅慮に喋るのは止めようよ……」
いつの間にか話を聞いていたサイファが,困ったように眉を下げた。
シャディルも難しい顔をして話を聞いている。
「ところで……皆さんは,本気なんですか?」
何が,とは言わなかった。
サイファの言葉に,ベリーは大きく頷く。
「本気だよ。じゃなきゃ,魔王領まで来てない」
明るい蜂蜜色の瞳に,強い意思が宿っていた。
「……あの魔王を,人間が本気で討伐出来ると思うのか」
シャディルが小さく問う。
その言葉に嘲りは無く,純粋に答えを待っていた。
一行は,ベリーの方を見ている。
その場にいる全員の視線が,ベリーに向かった。
ベリーは,静かに口を開く。
「ううん。魔王に勝てるなんて,思って無い。魔王の良くないとこを討伐するの」
はっきりと告げ,満足そうな表情を浮かべた。
「……そういう意味に変えたんですか」
「ん? ナンノコトカナ」
ジトッとした目で見つめてくるリリーナを,気不味そうに誤魔化す。
それを横目に,三兄弟はよく似た表情で固まっていた。
「……あの魔王に,人間の言葉を聞くような優しさがあるのかな」
立ち直ったサイファが,言葉に棘を含ませる。
彼の記憶に居る魔王は,一瞬で自分達一族を滅ぼした恐怖の象徴だ。
それこそ,言葉の通じない猛獣に思えてならない。
だが,その問いをベリーは無垢な表情で両断した。
「グラッセリアを滅ぼした魔王は,私に話しかけてきてたよ。だから,頑張れば話せると思うんだ」
本当に話しかけられていたのかはさておき,魔王は確かにベリーに向かって言葉を発している。
“逃さない。グラッセリアの王女”と。
「え? あれって会話だったんですか?」
少し離れた所でそれを目撃していたリリーナが,本気で困惑していた。
そっと視線を伏せて,ベリーは返答を避ける。
そのやり取りを見ていた三兄弟は,眉を顰めた。
「……こういうのは何だけど。まだ若い君達の話を,魔王が聞こうとすると思えない」
「ちょっと待って。重要なのは年齢じゃないでしょ」
サイファが呟くと,キャサリンが反論する。
「と言うと?」
むっと頬を膨らませたサイファの代わりに,シャディルが問い返した。
「魔族は獣人と同じ,実力重視でしょ? なら,実力があれば対等だよ」
「獣人って実力重視なの……?」
何故か純犬獣人であるゆめが目を丸くしている。
それは見ないことにして,会話は続いた。
「魔王と対等の実力? それを貴女達が持っているとは思えないのだが……」
「そりゃそうだけど。相手にされない程弱いとも思ってないよ」
「実際に戦ったことが無いのに,よくそう言えるな」
「実際魔王四天王全員とそれぞれ戦って,今こうやって生きてるからね」
「待て,四天王全員と戦った?」
「そだよ。そのうち一人……うぇるふぃま? には勝ったし」
シャディルとキャサリンの対話に,ゆめも混じる。
「……白熱してる」
「兄さんは戦いについて話すのが好きでね……」
ぽかんと眺めていたベリーに,サイファが苦笑した。
リオンはかなり眠いのか,椅子の上で揺れている。
その隣で,ミーシアも興味無さそうに窓の外を見ていた。
「……つまり,魔王とある程度戦えると自負しているわけか」
「そう。何なら,試してみる?」
小さく口の端を上げたシャディルに,キャサリンが挑戦的に笑う。
「ん?」
嫌な予感がしたベリーが思わず声を漏らすが,もう遅い。
「良いだろう。私直々にその実力を測ろうではないか」
獰猛な笑みを浮かべたシャディルが,手元に魔力の渦を浮かべる。
「……キャサリン,一人でやってもらって……」
「皆仲間だよね! 一緒に挑戦しよ!」
勿論,キャサリンはベリー達を逃す気が無い。
良い笑顔で,ベリーの肩を掴む。
「仕方有りませんね……」
「おけー」
「あら〜……」
「よっしゃいくぞー!」
「おー」
ベリー以外は,皆乗り気だった。
眠そうにしていたリオンまで,少し楽しそうに鎌を担ぎ直す。
「……外でやってね」
「オレ見学する!」
サイファが扉の方を示して,ソルトーダが声を弾ませた。
「えー……もうちょいのんびりお菓子食べようよー……」
ベリーの言葉は,虚しく床に落ちる。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:最近長さを気にせず書いてます。
え? キリが悪いのはそのせい……?
気の所為ですよ♪




