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お菓子の王女は魔王討伐の旅に出る  作者: 冬桜 美狐
第三章 相対する正義と思惑

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55.言葉の綾

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「…………え?」

 長い沈黙を空けてから,ベリーが声を零す。

 あからさまに眉を下げて困ったような表情になったソルトーダが,静かに言葉を続けた。

「まぁ,正しく言うと……。魔族は基本的に,人間は自分達とは違う生き物だし,関わる必要も無いかって思ってるんだよ。実際,今の魔王になるまで争うことも無かっただろ」

「……あ」

 リリーナが自分の記憶と照らし合わせて,小さく頷く。


 かつての人間と魔族は,関わり合うことの無い種族だったのだ。

 同じ大陸に住んでは居たが,価値観や考え方が全く違うため,相容れなかったという。

 だが,互いが互いを認識した頃はまだ,大陸は文明も無い荒れた土地だった。

 故に争うことはせず,距離を取ったのだ。

 それが今まで続き,魔族は魔王領に籠もり,人間達はそれ以外の土地を発展させていった。

 しかし,最近になって新しい魔王は,その古来からの不文律を破り,人間の土地を滅ぼしている。

「……それだったら,魔王が嫌な魔族は多いんじゃないの?」

 ベリーが率直な疑問を述べると,ソルトーダは少し不満そうに腕を組んだ。

「いや。悔しいけど,あの魔王の政治は素晴らしいんだって。だから表立って不満言う奴はオレ達以外居ない」

「政治すごいんだー……」

 軽く政治については学んでいるベリーが,感嘆したように呟く。

 恐らく,分かっているわけでは無い。

「逆に,表立って不満を言うのって驚かれてる?」

 ふと気付いたのか,キャサリンが尋ねる。

「……まぁ。だから,オレみたいな優秀な魔族がいても,魔王軍には入れないんだ」

「自意識高っ」

 微妙な表情になったソルトーダに,ゆめが呆れたように言葉を重ねた。

 それに苦笑しつつ,リリーナはサイファ達の方を見る。

「……確かに,あの二人は相当な実力者だと思います。魔王軍を倒そうとか,考えたりしないんですか?」

 切り込んだ言葉に,ソルトーダは返答に迷うように視線を逸らした。

「兄上達は……やっぱり,かつてスラメジート家が滅んだのを見てるから」

「怖いんだね」

 実力はあっても,絶対的な権力者である魔王に勝てる保証は無い。

 クラーウィスという一族を背負っている二人は,失敗した時の代償が重すぎる。


「……そるとーだも,こわい?」

 唐突に,まろんが問うた。

 煽るような言い方に,苛立ったらしいソルトーダが睨む。

「怖く無い! オレは,別に……やりゃ出来るだろ!」

「そうやって浅慮に喋るのは止(や)めようよ……」

 いつの間にか話を聞いていたサイファが,困ったように眉を下げた。

 シャディルも難しい顔をして話を聞いている。


「ところで……皆さんは,本気なんですか?」

 何が,とは言わなかった。

 サイファの言葉に,ベリーは大きく頷く。

「本気だよ。じゃなきゃ,魔王領(こんなところ)まで来てない」

 明るい蜂蜜色の瞳に,強い意思が宿っていた。


「……あの魔王を,人間が本気で討伐出来ると思うのか」

 シャディルが小さく問う。

 その言葉に嘲りは無く,純粋に答えを待っていた。

 一行は,ベリーの方を見ている。

 その場にいる全員の視線が,ベリーに向かった。

 ベリーは,静かに口を開く。

「ううん。魔王に勝てるなんて,思って無い。魔王の良(・)く(・)な(・)い(・)と(・)こ(・)を討伐するの」

 はっきりと告げ,満足そうな表情を浮かべた。

「……そういう意味に変えたんですか」

「ん? ナンノコトカナ」

 ジトッとした目で見つめてくるリリーナを,気不味そうに誤魔化す。

 それを横目に,三兄弟はよく似た表情で固まっていた。


「……あの魔王に,人間の言葉を聞くような優しさがあるのかな」

 立ち直ったサイファが,言葉に棘を含ませる。

 彼の記憶に居る魔王は,一瞬で自分達一族を滅ぼした恐怖の象徴だ。

 それこそ,言葉の通じない猛獣に思えてならない。

 だが,その問いをベリーは無垢な表情で両断した。

「グラッセリアを滅ぼした魔王は,私に話しかけてきてたよ。だから,頑張れば話せると思うんだ」

 本当に話しかけられていたのかはさておき,魔王は確かにベリーに向かって言葉を発している。

 “逃さない。グラッセリアの王女”と。

「え? あれって会話だったんですか?」

 少し離れた所でそれを目撃していたリリーナが,本気で困惑していた。

 そっと視線を伏せて,ベリーは返答を避ける。

 そのやり取りを見ていた三兄弟は,眉を顰(ひそ)めた。

「……こういうのは何だけど。まだ若い君達の話を,魔王が聞こうとすると思えない」

「ちょっと待って。重要なのは年齢じゃないでしょ」

 サイファが呟くと,キャサリンが反論する。

「と言うと?」

 むっと頬を膨らませたサイファの代わりに,シャディルが問い返した。

「魔族は獣人と同じ,実力重視でしょ? なら,実力があれば対等だよ」

「獣人って実力重視なの……?」

 何故か純犬獣人であるゆめが目を丸くしている。

 それは見ないことにして,会話は続いた。

「魔王と対等の実力? それを貴女達が持っているとは思えないのだが……」

「そりゃそうだけど。相手にされない程弱いとも思ってないよ」

「実際に戦ったことが無いのに,よくそう言えるな」

「実際魔王四天王全員とそれぞれ戦って,今こうやって生きてるからね」

「待て,四天王全員と戦った?」

「そだよ。そのうち一人……うぇるふぃま? には勝ったし」

 シャディルとキャサリンの対話に,ゆめも混じる。

「……白熱してる」

「兄さんは戦いについて話すのが好きでね……」

 ぽかんと眺めていたベリーに,サイファが苦笑した。

 リオンはかなり眠いのか,椅子の上で揺れている。

 その隣で,ミーシアも興味無さそうに窓の外を見ていた。


「……つまり,魔王とある程度戦えると自負しているわけか」

「そう。何なら,試してみる?」

 小さく口の端を上げたシャディルに,キャサリンが挑戦的に笑う。

「ん?」

 嫌な予感がしたベリーが思わず声を漏らすが,もう遅い。

「良いだろう。私直々にその実力を測ろうではないか」

 獰猛な笑みを浮かべたシャディルが,手元に魔力の渦を浮かべる。

「……キャサリン,一人でやってもらって……」

「皆仲間だよね! 一緒に挑戦しよ!」

 勿論,キャサリンはベリー達を逃す気が無い。

 良い笑顔で,ベリーの肩を掴む。

「仕方有りませんね……」

「おけー」

「あら〜……」

「よっしゃいくぞー!」

「おー」

 ベリー以外は,皆乗り気だった。

 眠そうにしていたリオンまで,少し楽しそうに鎌を担ぎ直す。

「……外でやってね」

「オレ見学する!」

 サイファが扉の方を示して,ソルトーダが声を弾ませた。

「えー……もうちょいのんびりお菓子食べようよー……」

 ベリーの言葉は,虚しく床に落ちる。



最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:最近長さを気にせず書いてます。

   え? キリが悪いのはそのせい……? 

   気の所為ですよ♪

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