53.繋がる歴史と答え
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サイファの朗々とした語りは続く。
*……*
その策というのは,簡単な話だ。
魔王軍に戦を仕掛けた。
まず,魔王城に勤めていた一族の者を使って,魔王軍の中で内部分裂を起こした。
すぐに魔王城内は争いが頻発し,その企みは成功したと言える。
それが間違いだったと気付くのは,それから数年経った時のこと。
魔王城内で生まれた不和の種は,やがて魔王領全土を巻き込んだ。
いつの間にか各地で派閥争いが始まり,魔王領は混沌とした時代を迎えた。
中立派を守っていたスラメジート家は,着実に戦の準備を進めていた。
その矢先のこと。
突然,スラメジート一族は滅んだ。
*……*
「え? 何で?」
ベリーが思わず呟く。
話に引き込まれていたからか,身体が若干前のめりになっていた。
「そうだね〜。……何でだと思います?」
ニコッと笑って,サイファが問う。
リリーナ達が真面目に考え始めたのを横目に,ベリーが元気よく手を上げた。
「その時の魔王領みたいに,家族で仲が悪くなっちゃった!」
「ベリーが賢いこと言ってる……」
思ったより真面目な回答に,キャサリンが目を丸くする。
むっと頬を膨らませたベリーに苦笑しつつ,サイファは人差し指を交差させてバツを作った。
「一族は最後まで団結して,危機を乗り越えようとしていたね」
「……さいふぁさんは,その時居たの?」
茶菓子を口に放り込んでいたゆめが,ふと首を傾げる。
「うん。まだ幼かったけどね」
サイファは少し表情に陰を落とした。
「……それで,結局一族が滅んだ理由とは何なんですか?」
沈黙していたリリーナが問うと,サイファは小さく頷く。
「これはもう,続きを話すのが速いね。魔王領で圧倒的な力を持っていた我が一族が滅んだ理由を,実体験も交えて話そう」
*……*
『最近,魔王領付近の森が焦土になったらしい』
そんな噂が流れ始めたのが,事の発端だった。
本当かどうかも分からない曖昧な噂なんてすぐに消える,と皆思っていた。
だから,戦の準備で忙しいスラメジート家は意にも介さない。
それから,数日経ったある日,一人の魔族が転がり込んできた。
対して強くもなさそうな魔族で,一族の誰かと面識があるわけでもない。
他の一族から来たスパイかと思ったが,その魔族は妙に怯えていた。
興味を持った当時の当主__私達にとっての祖父__は,その魔族から話を聞くことにした。
その魔族は,こう言ったらしい。
『現魔王など脅威にならないような,恐ろしい魔族が現れた』
一族の者の大半は,ただの戯言だと笑った。
少数の者は,気付いてしまった。
その魔族がやってきた方向に,最近焦土になったという森があることに。
森一つを焦土にしてしまう魔法なんて,間違いなく魔王級の魔力量が必要。
当時の魔王は愛する妾を失い,その子供を追放した。
しかも各地では内乱が絶えない。
そんな状況なので,姿を表すことも無くなったという。
“第三勢力が現れた”。
その事実に気付いた一部は,すぐに行動を起こすべきだと当主に提言した。
しかし,その時にはもう遅かった。
それはまさに,私の父やその他一部が当主と話している時だった。
一年を通して朝の訪れない魔王領に建つ屋敷の,窓の外が光に包まれていた。
ちなみに,私の中にそこからの記憶は無い。
ただ覚えているのは,一瞬だけ見えた影。
部屋の中に居た筈なのに,視界いっぱいに空が映っていた。
その中心に浮かぶのは,銀髪の女だった。
蔑むような冷たい瞳で,地上を睥睨していた。
認めたくは無いのに,あの圧倒的過ぎる風格は,魔王と呼ぶに相応しいと思えた。
*……*
「……それって」
ベリーの表情が引き攣る。
銀髪の女。魔王と呼ぶに相応しい。
「そう。その女が現魔王デスグラシアだよ。スラメジート一族は,彼女が魔王になるための第一歩として,呆気無く滅ぼされたんだ」
真逆そう繋がるとは思わなかったのか,ゆめやリオンも唖然としている。
リリーナとキャサリンは中盤で半ば予想していたのか,微妙な表情を浮かべていた。
「……あれ? でも,滅んだのにサイファさん達は生きてるよね?」
違和感を覚えたベリーが尋ねる。
「……当時幼かった私とサイファ,そして私達の母親だけが生き残った」
返答に困るように沈黙したサイファの代わりに,その隣に立っていたシャディルが答えた。
「生き残った私達は,覇道を歩むデスグラシアから隠れるように各地を転々として来た。たった三人なので,見つかるということはなかったね」
サイファが自嘲するように笑う。
それから,静かに視線を上の方に向けた。
「その道中で,私達は沢山の“仲間”を集めた。デスグラシアは次々魔族の名門を滅ぼしていたから,仲間もどんどん増えていった」
「……じゃあ,この一族の人は,皆違うところから来たの?」
ゆめが問うと,シャディルが頷く。
「あぁ。元は家を失った子供達を保護していたのだが,いつの間にか相当な規模になっていたから……。面倒になって,サイファを当主とした新しい一族を作ったのだ」
「面倒になったら新しい一族が出来るんだ……」
キャサリンが目を瞬いた。
それには同意なのか,ミーシアやリオンも「魔族って不思議だな……」という目になる。
「それで,新しく生まれた一族がこの“クラーウィス家”だ!」
何故か最後はソルトーダが締めた。
ずっと端の方で座っていて暇だったのかもしれない。
「……新しい一族を作って,魔王……デスグラシアにバレなかったんですか?」
リリーナが疑問符を浮かべると,サイファは笑いながら答える。
「丁度同じ時期に,あの女は魔王になった。此方に気を回す余裕なんて無かったんだろうね」
その言葉には,少なく無い嘲りがあった。
不意に,ベリーが目を丸くする。
「……もしかしてなんだけど」
「ん?」
思わず呟いたベリーに,三兄弟が首を傾げた。
ベリーは何度も瞬いたあと,小さく続ける。
「もしかして……サイファさん達は魔王のことが,だいっきらいなの?」
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:なかなか重要なことがさらっと過去話になりました。
あと,さらっと出たんですが,この一族は『クラーウィス』です。
(流れていきそうなので念押し)




