52.三兄弟と歴史
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生意気そうな少年魔族ソルトーダが,ただの弟思いの良い奴だと分かったところで,襖が開く。
だが,戻ってきたのはシャディルでは無かった。
「……そっくりさん?」
ベリーが首を傾げると,シャディルによく似たその人物は笑みを浮かべる。
「はじめまして,人間さん。私はサイファ。三兄弟の真ん中だよ」
緑がかった蒼髪に,黄金色の穏やかそうな瞳。
全体的におっとりとした雰囲気を持つ魔族だった。
「……ベリー・グラッセ・ミエルベル」
名乗る声が,いつも明るいベリーとは思えない程小さい。
リリーナ達が驚いたように二度見する。
その様子に,サイファと名乗った魔族も困ったような表情になった。
「人間の国,グラッセリアの顛末については聞いています。……矢張り魔族はお嫌い?」
「……そうじゃない,けど」
ベリーの言葉の切れが悪い。
心配そうな表情になったリリーナに,ベリーはこそっと呟いた。
「……サイファさん,ちょっとだけ誰かに似てるの」
「誰か?」
キャサリンが首を傾げると,ベリーは眉を顰める。
「誰かが,わかんないんだよね。だから何か……」
会話が終わるのを律儀に待っているサイファの方に,一瞬だけ視線を向けた。
「……似ている方というのは,悪い人では……無いですよね?」
リリーナが尋ねると,ベリーは首を上下させる。
「良い人では……あると思う」
その言葉で,ベリー達は話を切り上げた。
それからサイファの方に向き直る。
「……魔族のことは怒ってるけど,嫌いじゃないよ。魔王とちゃんとお話して,ごめんなさいしてもらうんだ」
ベリーがはっきりと伝えると,今度はサイファが面食らったような表情になった。
何度か瞬いた後,少し気不味そうに顔を背ける。
何か良くないこと言った? と焦るベリーに,慌てたように言葉を返した。
「すまない。少し驚いてしまって……。でも,そんな君達なら,私の話を信じてくれるかもしれないね」
「あ,そうだ。お話聞きに来たんだった」
ようやく思い出したらしいベリーが,椅子に座り直す。
いつの間にかシャディルも戻ってきており,当主一族だという三兄弟が揃っていた。
「そっくりだねー」
「カッコいい人と,ほわほわしてる人と,ソルトーダ」
まろんとゆめがほのぼの会話を繰り広げる。
何故か名指しされたソルトーダが不満そうな顔をしたが,気にしない。
気を取り直すように,サイファが軽く咳払いをする。
それからふと遠くの方に視線を向けて,静かに語り始めた。
「私達一族は,元は魔王領の中枢を担っていた,野心ある一族だったんだ」
そんな言葉から始まったのは,一族の繁栄と衰退だった。
*……*
かつての一族__スラメジート家は,魔王領で最も力を持つ一族だった。
魔王軍の精鋭の半分以上と,魔王の側近の大半はこの一族の出身。
しかも当時の当主は,魔王に並ぶ程の実力者だったという。
野心に溢れたスラメジート家の魔族達は,魔王領そのものを手にしようと考えた。
まずは当主の娘を一人,魔王に嫁がせた。
内部から順調に勢力を広げていくために。
だが,そこで困ったことが起こった。
これはスラメジート家の諜報部隊が仕入れてきた極秘情報だったのだが,魔王には愛してやまない人間の妾が居たらしい。
スラメジート家の若者は焦ったが,重鎮達は「所詮人間」と侮って気にもしなかった。
しかし,その侮りが間違いだった。
魔王は本当にその人間に思い入れが深いらしく,嫁がせたスラメジート家の娘とは関わりもしない。
しかも,人間の妾との間に子供が生まれたという話まで届いた。
焦ったスラメジート家は,一族に残っていた優秀な人材を次々魔王城に送り込んだ。
そうして一族の影響力を強めたことで,魔王も正妻であるスラメジート家の娘を無視出来なくなったのだ。
そして次に,残っている障害の排除に動いた。
そう。
人間の妾と,その子供。
妾の方は体の負担が大きく早逝したらしいが,子供の方は元気に成長しているという。
スラメジート家は一族の者達を魔王城で暗躍させ,子供を追放することに成功した。
今となっては,それが一族最大の失敗と言える。
やがてスラメジート家の娘と魔王の間にも,一人の子供が生まれた。
残念ながら男児では無かったが,スラメジート家は大いに喜んだという。
しかし,ここでも想定外のことが起こった。
愛していた妾とその子供を失った魔王は,ついに心が壊れてしまったらしい。
何かが魔王の逆鱗に触れてしまったスラメジート家の娘は,実家に帰されてしまった。
魔王との子供は戻ってこなかったという。
一族の者は落胆し,次の策を実行した。
その策というのが____。
*……*
気付けば,ベリー達は話に引き込まれていた。
瞬きも忘れて,サイファの話に聞き入っている。
ベリー達からすれば,今日初めて会った一族の遠い話だ。
だが,まるで劇を目の前で見ているような,不思議な臨場感を抱いている。
最初にシャディルがちらっと口にしていた通り,サイファの語りは他者を引き込むカリスマのようなものを感じさせた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:情報量が多いですね。
次回も語っています。




