51.魔族の兄弟
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「……あ」
静寂に響いたのはベリー一行の誰かの声か,それとも少年魔族の声か。
屋敷の屋根に,一つの影があった。
頭上で揺れる光には目もくれず,その影はベリー達を見ている。
風に流れる蒼銀の髪に,冷たく光る鋭い金色の目。
少し険しい顔立ちを除けば,その容姿は目の前の少年魔族によく似ていた。
「……強いね,あの人。もしかしたら__」
キャサリンがそう呟いた瞬間,リリーナの光の網が消滅する。
「えー!?」
思わず叫んだベリーに,少年魔族が驚いたように振り返った。
ベリー一行は慣れているので,特に反応は無い。
「……誰?」
一番屋敷の近くに居たリオンが尋ねると,屋根の上に立つ影は地上に降りた。
「__シャディルという。其奴の兄で,この地域を治める一族の代表をしている」
端的な口調で名乗り,小さく会釈する。
いきなり攻撃してきた少年魔族の兄とは思えない程,慇懃な態度だ。
ベリー達が顔を見合わせて目を瞬くと,シャディルと名乗った青年魔族は困ったように言葉を続ける。
「愚弟が本当に申し訳ないことをした。言い訳など聞きたくないかもしれないが,人間である貴女方に話したいことがある。一時で良いので,私を信じてくれないだろうか?」
静かにそう言い切って,ベリー一行の反応を待つ体制になった。
ベリー達は,驚きと困惑を浮かべたまま固まっている。
「……もしかして,なんですけど」
不意にリリーナが,シャディルには聞こえないくらいの声で呟いた。
全員の耳に届いていることを確認して,リリーナが続ける。
「四天王が言っていた『少し変わった一族』って……」
ベリー達が,目の前の魔族の方に視線を向けた。
明らかな隙を見せているベリー一行を,襲ってくる気配も無い。
「……話を聞いてみる価値は,ありそうだね」
キャサリンが小さく答え,ベリー達はシャディルに向き直る。
「良いよ。お話聞いてあげる」
代表してベリーが告げると,シャディルは少し安堵したように頷いた。
弟だという少年魔族を連れて,屋敷の方に歩を進める。
ベリー達も,慌てて後を追った。
屋敷に入ると,一際立派な造りの部屋に通される。
客室として使用されている部屋なのか,いくつか椅子が置いてあった。
ベリー一行が椅子に座ったのを見て,シャディルは上座に座る。
「改めて,貴女達には悪いことをした。一族を代表して,謝罪させてもらう」
深く頭を下げられ,ベリー達は顔を見合わせた。
「あー……別に,あんまり怒ってないし……」
「うん。別にその子弱かったし」
ベリーが困ったように答えると,戦っていた本人であるリオンが付け足す。
ちなみに,弱いと告げられた少年魔族はあからさまに不機嫌そうな表情になった。
「そー言えば,その子のお名前は?」
ゆめが疑問符を浮かべると,シャディルが目を瞬く。
「……真逆,名乗らずに一方的に勝負を仕掛けたのか……?」
「そだよー。いきなりどっかーんってするの,よくないよ!」
信じられないものを見るような目でシャディルが呟くと,まろんが答えた。
しれっと出された茶菓子を両手で抱えている。
「あー。コレはソルトーダ。私達の弟で,一応次期当主だ」
「私達? 他にも兄弟がいる……んですか?」
キャサリンは言葉遣いに悩んだのか,一瞬沈黙した。
それに対しては特に言及せず,シャディルは頷く。
「あぁ。当主一族である私達は三兄弟で,ついでに血の繋がっていない弟も一人居る」
「四人ってこと?」
「そーだぞ」
丁寧な説明をベリーがざっくり纏めると,大人しくしていた少年魔族__ソルトーダが肯定した。
実の兄に信じられないものを見るような目をされたため,かなり落ち込んでいる。
それを面白そうに見ていたゆめが,ふと思い出したように首を傾げた。
「しゃでぃるさんは,何でまぞくなのにゆめ達を倒さないの?」
純粋な瞳で問うゆめに,ベリー達も賛同するように視線を向ける。
シャディルは少しの間,どう答えるべきか悩むように沈黙した。
「……話せば長くなるんだが,聞いて行くか?」
零された言葉は,少し困ったような響きを持っている。
「構いません。そもそも,話を聞きたいと思ってついてきたんです。今更ですよ」
少し逡巡した後,リリーナがまとめてそう言った。
一応リーダーであるベリーも,興味津々という様子である。
キャサリン達も各々興味を示したり,茶菓子に夢中になっていたり。
流石に魔王領なので,リオンも寝ずに神経を尖らせていた。
そんな姿を見て,シャディルは僅かに苦笑を浮かべる。
「……では,もう一人の兄弟を呼んで来ても良いだろうか? この手の説明は一番得意なんだが」
「良いよー。あ,このお菓子おかわりください」
金平糖のような魔王領特有のお菓子を頬張っていたベリーが,頷きつつ手を振った。
ソルトーダが睨んでいる気がしたが,全く気にしない。
シャディルは感謝するように表情を綻ばせて,襖の奥に消えて行く。
「……どう思う?」
「どう思うも何も……ねー」
完全に襖が閉まったのを確認して,ベリー達は作戦会議に入った。
その半数が残り少ない茶菓子を手にしている。
「何か,敵意は,あんまり,感じない。強いけど,人間を,侮ったりとか,そういうのは,無さそう」
硬めの煎餅を食みながら,リオンが自分の考えを口にした。
「私も,あのシャディルっていう魔族からは敵意を感じなかった。本当に申し訳無いって雰囲気」
「此処に来るまでに魔族とも何回かすれ違いましたが,私達に攻撃的ではありませんでしたね」
キャサリンとリリーナも,同じように意見を述べる。
「あれじゃない? あのー……ソルトーダって子が勝手に襲ってきただけじゃないの?」
「聞こえてるぞ」
わざとらしくベリーがソルトーダを指差すと,本人から不満そうな返事があった。
「ねーねー。なんでまろんたちのことをやーってしたの?」
自分と同じくらいの大きさの茶菓子を飲み込んでから,まろんが問う。
それに対して,ソルトーダは返答に悩むように座り込んだ。
「……だって,雷落としたのはお前らだろ?」
ぼそっとそう呟かれ,キャサリンが目を丸くする。
「そうだけど……?」
思わず答えると,ソルトーダは眉を顰めて続けた。
「そのせいで,オレの弟の宝物が壊れたんだ! 仕方ないだろ!」
怒気を孕んだ言葉に,ベリー達の目が点になる。
数秒沈黙した後,静かに顔を見合わせた。
「……何だよ?」
何処となく拗ねたような雰囲気が漂うソルトーダ。
ベリー達は,何とも言えない生暖かい笑みを浮かべた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ベリーが生きるこの世界には,可愛いキャラしかいません。
こういうタイプ,書きたかったんですよね……!




