48.障壁の先で
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地上に無数の破片が注ぎ,落ちる前に飽和する。
それと同時に,魔王領の闇が草原に溢れ出した。
重く黒い“闇”がベリー達の方に流れ込む。
「リリーナ!」
キャサリンが叫ぶと,リリーナが杖を構えた。
「聖なる防御」
一行を覆う程の巨大な半透明の壁が,“闇”の流れを止める。
“闇”は数秒動かなくなってから,魔王領の方に流れて行った。
「……べりー,凄いね」
「凄いでしょ」
再び静寂が訪れ,ゆめが放心したように呟く。
「ちょっと勝てないかもしれない」
腕力には自信があるリオンが,そっと視線を逸らした。
流石のリオンでも,自分の三倍程の大きさがある泡立て器を持てる気はしないらしい。
「あー……あはは」
それを聞いたベリーは,そっと明後日の方向を向く。
あの泡立て器は魔力で巨大化したので,実は重さは殆ど無いのだ。
なのでベリーからすれば,普通の泡立て器を持っている感覚だったのだが……。
誰も気付いていないようなので,ベリーも口には出さない。
「兎に角,魔王領に入れるようになりましたね」
「絶対魔王に気付かれたけどね」
崩れた障壁の奥には,果ての無い荒れた大地が広がっている。
青黒い闇に覆われている景色は,酷く不気味だった。
「……ゆめ,怖い」
「まろんもこわい」
ゆめが震えた声で呟き,犬状態でキャサリンの腕の中に収まる。
まろんも魔王領に一瞬視線を向けてから,ベリーの頭の上に飛び乗った。
しれっと有り得ない高さを飛んでいるが,誰も気にしない。
「……あの先に,魔族が暮らしているのであろう街が見えます。あそこに行きましょう」
不意に,リリーナが魔王領の奥を指差した。
ベリー達が目を凝らすと,不毛の大地の向こうに建物の群れが見える。
「絶対戦うことになるよね」
睨むように街を見ていたリオンが,鎌に手をかけた。
ミーシアも敵を見定めたような,鋭く冷たい目で杖を構える。
「……そうですね。私達の目的は,四天王が言っていた『少し変わった魔族の一族』を探すことです」
「つまり,あの街にいる魔族に丁寧にお願いしたら,教えてくれるかもってことだね?」
リリーナの言葉を,キャサリンが引き継いだ。
二人の言葉を聞いて,ベリーも気合を入れるように泡立て器を握り締める。
「よし! ぜんはいそげ! 行くぞー!!」
「おー!」
ベリー達は拳を突き上げて,声を一つにした。
そのままベリーを先頭に,荒れた魔王領を駆けて行く。
ーーーーーーーーーーーー
ベリー達が目指す街の,更に奥。
暗闇の中でも圧倒的な存在感を放つ巨大な城の上部。
魔王の執務室で,その部屋の主は伏せていた瞼を開けた。
「____破られた」
静かな部屋に,冷たく澄んだ声が響く。
「何がです?」
偶々同じ部屋で作業をしていた四天王ルシフェリオが,魔王の方を向いて首を傾げた。
視線を受けた魔王は,夜空色の瞳を細める。
「魔王領を護る障壁が,何者かによって砕かれた」
「は?」
ルシフェリオが目を丸くした。
魔王領を護る障壁。
それは最高権力者である魔王による魔法で,四天王全員が全力を出さないと壊れないような代物だ。
そんな障壁が,何者かによって砕かれたという。
魔族最強の一角を担うルシフェリオからすれば,信じられない話だった。
「……ちなみに,何者の仕業か目星はついているんでしょうか?」
手にしていた書類を机に置いて,ルシフェリオが尋ねる。
「それは__」
「お菓子の国の王女だね」
魔王の言葉が,扉を開けて入ってきた人物に遮られた。
「お菓子の……と言うと,あのベリーって名前の?」
突然の乱入者に,二人が驚いた様子は無い。と
ルシフェリオの言葉に,入ってきた人物__四天王グロースは,少しつまらなそうな表情で頷く。
「そ。上から見てたんだけど,ヤバかったよ。こう……巨大泡立て器でめきょっと」
グロースが身振り手振りで説明すると,魔王とルシフェリオが困惑を浮かべた。
「……泡立て器は,武器にはならないのだが」
そっと視線を逸らした魔王に,ルシフェリオが同意する。
「というか,あのメンバーは大概じゃないわよ。神狼国の英雄と女神の使い,あと聖女が居るわけだし」
突然現れた声が,会話に混じった。
四天王ローゼリアの呆れたような声音に,一同が何とも言えない表情になる。
「何なら,神狼国の明星もいるしね。……あの時始末しておくんだった」
言葉を補足したグロースが,不意に声のトーンを落とした。
それを聞いて,魔王は小さく息を吐く。
「……王女の一人,生き残った所で問題無いと思っていたのだけど……。そうも戦力を集めてくるとは」
そこで言葉を切って,窓から見える闇を睨んだ。
「流石はカランティの孫娘,と言わざるを得ない」
「カランティ……? 人間の魔法使い,ですよね? 王女の祖母なんですか?」
ルシフェリオが驚いたように返すと,魔王は小さく頷いて肯定する。
四天王二人は知っていたのか,特に反応は無い。
「稀代の大魔法使いの血が流れている,くらいじゃないと,あの異常な強さに説明がつかないでしょ」
魔法の扱いは人間よりも遥かに優れている魔王軍に,そう言わしめるのだ。
ベリー本人が認識していないだけで,彼女の異常さは人外の域である。
若干遠い目になった三人を見て,魔王が少し眉を顰めた。
「……王女ベリーは,幼い頃にカランティに魔法を教わっていたらしい」
「え? 直伝ってこと?」
グロースが驚いたように問い返すと,その情報を持ってきたローゼリアが溜息を吐く。
「冗談じゃないわよね。幼くて無邪気な大魔法使いが,知らない間に爆誕してたってわけ」
「えー……そう言われると怖いな」
投げやりな説明に,ルシフェリオが苦笑した。
その様子を眺めつつ,魔王は静かに瞳を細める。
「……同じ過ちを,繰り返さなければ良いのだけど__」
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:魔王領に入ってきたので,魔王サイドも増やします。
主人公の影……まだ濃いですね。セーフ。




