47.魔王領の障壁
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ヘルト村を出て,四日後。
次第に太陽の光が弱まり,風が強くなっていった。
「……魔王領っていつもこんなに天気悪いの?」
「恐らく。確か一年中真夜中らしいですよ」
ベリーが頬を膨らませると,リリーナが苦笑しながら答える。
まだ魔王領に入ったわけでもないのに,昼夜の差は薄れていた。
「魔王領まではもう一日あれば行けるかな……」
「緊張するねー!」
キャサリンが地図と前方を見比べながら呟くと,ゆめがにぱっと笑う。
それに対して,まろんも同意するようにくるくると回った。
ちなみにミスラはいつの間にか消えている。
「……魔王領に入った瞬間,魔族が襲ってくるとか……あるかな」
ふと思い出したように,リオンが首を傾げた。
愛用の鎌に手をかけた状態で尋ねられ,ミーシアが考え込む。
「うーん……。魔族は人間の気配を感知するらしいので,有り得なくはないですね」
「ヤバいじゃん」
ベリーが青褪めて,鞄を漁った。
「何出すの?」
興味本位でゆめが問うと,ベリーは鞄から手を出す。
その手には,金属製の泡立て器が握られていた。
「ベリーの最強の武器! これで魔族を倒す!」
「おー!」
ビシッとポーズを決めるベリーに,ゆめとまろんが拍手する。
「いや,ベリーは魔法の方が強いですけどね」
「ほんとそれ」
リリーナが呆れたように呟き,キャサリンが静かに頷いた。
むーっと不満そうな表情になってから,ベリーは軽く咳払いをする。
「あのね? いざという時に出るのは魔法よりパワーなんですよ」
「驚いたらクッキー飛び出す子が何か言ってる……」
ベリーの力説を無視して,リリーナは話を切り上げた。
「警戒するに越したことは無いです。いつでも戦えるようにしといて下さいね」
「はーい」
各々が杖や武器を構え直して応える。
いつの間にか,太陽が見えなくなっていた。
翌日の夕方。
休まず進み続けていたベリー一行は,魔王領の前に辿り着いた。
草原と魔王領の境界に立つベリー達の頭上には,夕焼けと夜空の境が見える。
「……あぁ,矢張り」
眼前の魔王領を見ていたリリーナが,不意に眉を顰めた。
疑問符を浮かべる一行に対して,少し困ったように説明する。
「魔王領には,侵入者を拒む結界が張られています。一部分だけ壊すのも不可能ではありませんが,魔王に居場所を知られてしまう可能性が高く……」
「けっかい……?」
困惑を浮かべるゆめの横で,ベリーが興味を持ったように魔王領に近付いた。
「わぁっ!?」
境を超えようと足を出した瞬間,ベリーが見えない壁に弾き飛ばされる。
一行が驚いたように目を丸くした。
「……魔力の壁,ですか」
「しかも結構強固だね」
冷静に分析したミーシアに,キャサリンが神妙な面持ちで返す。
「まぁ,壊せるだろうけど」
鎌を担ぎ直したリオンが,珍しく難しい表情になった。
ゆめとまろんは,わけが分からず小さくなっている。
「……うーん,何だっけ。壊したらバレちゃうんだっけ」
額を擦りながら起き上がってきたベリーに,リリーナが困ったように頷いた。
それを見て,ベリーが何かを考え込むように沈黙する。
一同が見守っている中で,ハッとしたように顔を上げた。
「壊すっていうのは,何かをぶつけたりするってこと?」
「……まぁ,そうなりますね。魔法を使用した物理と言いますか」
首を傾げたリリーナの返答に,ベリーが微妙な表情になる。
その表情を見て,リオンとミーシアが顔を見合わせた。
「……ベリー今,障壁にぶつかった?」
「__あ」
キャサリンとリリーナが目を丸くする。
ついさっき,ベリーは障壁にぶつかっていた。
障壁に物理的な干渉があると感知されるのなら__。
「もうバレてるじゃん!?」
キャサリンが思わず声を上げた。
誰よりも速くそれに気付いたベリーが,何度も首を縦に振る。
「つまり,もうバレてるだろうし何やっても良いんじゃない? っていう」
「べりー天才!?」
ゆめがすかさず拍手して,ベリーが得意気な笑みを浮かべた。
それを盛大に無視して,リリーナ達は視線を交わす。
「……まぁ,物は言い様ですね」
「良いんじゃないですか? 入るには壊すしか無いんですし」
「壊すこと自体は余裕だね」
「わかる」
恐らく魔王自身が作成したのであろう,魔王領を護る魔法障壁。
その堅牢さは大陸でもトップクラスなのだが,リリーナ達からすれば「まぁ頑張れば壊せるよね」な代物である。
「__というわけで,壊します」
「わーー」
リリーナが端的に結論を述べると,ベリー達が棒読みで手を叩いた。
ゆめとまろんは,ワクワクしながら見ている。
「……誰がやる?」
「誰でも良いよ」
ふとキャサリンが問うと,リオンが鎌を担ぎ直して答えた。
それを聞いていたベリーが,バッと手を挙げる。
「はい! ベリーやりたい! どかーんってしたい!」
「えー……出来る?」
一気に不安そうな表情になったリリーナ達を見て,ベリーが不満気に口を尖らせた。
「ベリーだって強いんだよ? それに,魔王と戦うことになるかもしれないし,練習!」
魔族と戦わない道を望んでいても,魔王と戦闘にならないとは限らない。
ベリーがそれを暗に告げると,キャサリンが頷く。
「良いんじゃない? 失敗したら私達が壊せば良いんだし」
それを聞いて,リリーナは仕方無さそうに障壁の前を空けた。
ミーシアとリオンに至っては,誰が壊すのかは興味ないらしく,離れた所で傍観している。
ゆめとまろんも危険を察知して距離を取り,ベリーは障壁の前に立った。
後ろにリリーナとキャサリンが待機しているのを確認して,泡立て器を構える。
それで壊すの? という一同の視線を背に感じつつ,大きく息を吸った。
「えーと……名前何にしよ」
ぼそっと呟いた言葉が上手く聞き取れなかったのか,リリーナ達が怪訝そうな表情をする。
ベリーは誤魔化すように笑ってから,泡立て器を振り被った。
その瞬間,泡立て器が巨大化する。
「えー!?」
驚きを浮かべるゆめ達の眼前で,泡立て器はベリー三人分程の大きさになった。
何故かそれを軽々と持っているベリーは,大きく口を開く。
「銀泡乱混!!」
威勢の良い掛け声と共に,泡立て器が振り下ろされた。
鈍い音を立てて,障壁とぶつかる。
泡立て器と障壁が激しく火花を散らし,ベリーが後退りかけた。
一行が見守る中で,やがて障壁にヒビが入る。
「あっ」
誰かが声を上げた。
障壁が強く光を発し,無数の破片になって散らばる。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ベリーが活躍してますね。
そう,ベリーって主人公なんですよ。




