43.束の間の
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「……行っちゃったね」
ベリーが不満気に口の端を尖らせて言った。
いつの間にか円盤状のまろんから降りて地に立っている。
まろんは何故か,大役を終えたと言わんばかりの自慢気な態度で転がっていた。
「何と言うか……早く魔王領に来いということでしょうか」
「ちょっと寄り道し過ぎではあるよね」
リリーナが困ったように呟くと,キャサリンが苦笑する。
ルシフェリオの言葉を信じるなら,魔王領に行くしかローゼリアの言葉の謎を解き明かす方法はない。
「もうさ? 素直に教えてくれれば良いのに」
ベリーが頬を膨らませる。
「まぁ,魔族って意地悪なイメージあるからね」
リオンが座り込んで鎌をメンテナンスしながら答えた。
「……魔族側も方法がわかっていない,という可能性もありますけど……」
小さな声でミーシアがそう述べる。
尤もらしい正解は出ず,一行に沈黙が落ちた。
「……考えてても仕方ないね! そろそろ行く?」
不意に,ベリーが明るい声を上げて立ち上がる。
一行は目を瞬いたあと,小さく笑って同意した。
「そうですね。……あ,長老さんに挨拶していきますか?」
ふと思い出したようにリリーナが問う。
ベリーはハッとしたように動きを止めてから,何度か頷いた。
「忘れ物……よし,ない! しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
ゆめがベリーの真似をして腕を突き上げる。
それを見届けてから,一行は公園をあとにした。
「……というわけで,私達は魔王領に向かうことになりました」
長老の家は特に被害もなく,来た時と変わらない質素な造りをしている。
家主である長老本人も今回は何もなかったのか,鷹揚に頷きながら話を聞いていた。
リリーナが説明を終えると,長老は少しの間考え込むように目を伏せる。
「……四天王が言っていたという『本来の目的』が気になりますね」
冷静な声音に,リリーナ達が同意した。
ベリーは最初説明しようとして失敗し,大人しく出された茶菓子をゆめと分けている。
「あの二人は恐らく,元々この村に用事があって来たんだと思います。だから……」
キャサリンが自分の意見を述べると,長老の表情が強張った。
「……わざわざ魔王軍の最高戦力二人が出向くということは,余程の大きな事を起こす気かもしれないのですね」
それこそ,過去に滅ぼされたときのような。
言葉にしなくても,それは一行にとって明らかだった。
「でも,それだったら変じゃない……ですか?」
リオンが挙手すると,視線がそちらに向く。
「変,とは?」
隣に座っていたミーシアが代表して問うと,リオンは下ろした手を茶菓子に伸ばしながら言葉を続けた。
「もしこの村を滅ぼしたりする気なら,あんなに派手に登場したり,戦ったりしないと思う。むしろ,ああやって目立ってから,『本来の目的』はこっそりやる,とかありそう」
珍しくリオンの言葉が冴えている。
リリーナが説明している時は寝ていたのも関係しているのだろうか。
一同に納得の空気が流れる中で,長老が難しい顔をした。
「……四天王二人でこっそり行うこととは,なんでしょう……?」
「そこだよね……ですよね」
思い出したように語尾を直しつつ,リオンが頷く。
考え込む沈黙が満たした頃,そっと扉が開いた。
「あのー……一つ良いですか?」
控えめな態度で,ゼーデルが入ってくる。
ずっと扉の前で待機していたのか,会話の内容を把握しているようだった。
「どしたの?」
一瞬ゼーデルの存在を忘却していたベリーが,取り繕うように問う。
「……その,先程の二つの魔族の気配は,まだこの村に留まってるみたいなんです」
ゼーデルは,魔族の気配を察知する能力を持っていた。
普段は隣の魔王領のせいで充分に発揮できていなかったが,こういう時は非常に役に立つ。
一行は顔を見合わせたあと,小さく頷き合った。
「四天王二人が何をしでかすかわからないので,もう少しこの村に滞在させてください」
リリーナが代表して告げると,長老が硬い表情で首を縦に振る。
「お願いします。この村は魔王軍に目をつけられないように,武力を持つ者が居ませんから」
その日,ベリー達は長老の子である現村長の家に泊まることになった。
ちなみに現村長は,ゼーデルの祖父母でもある。
「この村を守ってくださるなんて,本当にありがたいです」
出迎えてくれたのは,ゼーデルさんに似た穏やかそうな夫婦だった。
ただ開口一番にそう言うあたり,村を束ねるに相応しい強かさを感じさせる。
夫婦はそこまで魔王軍に脅威を感じていない世代なのか,ベリー達の話を聞いているときも終始穏やかに笑んでいた。
「……なんか,長老さんの家族なんだなって思った」
「わかる」
布団を敷かれた部屋で,ベリーが呟く。
「……逆に,ゼーデルさんがちょっと不思議なんだよね」
長老や村長夫妻は,物腰柔らかだが威厳も感じさせるタイプだ。
それに対して,ゼーデルは“臆病”と言えば納得する感じの雰囲気をしている。
「まぁ,そういうこともあるでしょ。遺伝が全てってわけでもないし」
どこからか取ってきたお菓子を咀嚼しながら,リオンが答えた。
「……遺伝が素晴らしく現れている子もいますが」
リリーナがジトッとした目でベリーの方を見る。
視線を受けたベリーは,何とも言えない表情で固まった後,ぎこちない苦笑を浮かべた。
「と,とにかく! 今日はもう寝よ! 一番乗りー!」
「二番乗りー!」
「さんばんのりー!」
ベリーが慌てたように布団に滑り込むと,すかさずゆめとまろんが真似る。
「ちょっ!? 多分それ狭いよ!?」
「一人一枚布団使ってくださいねー」
一行の夜は賑やかに更けていった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:なんか平和な感じで終わりましたね。
ついでに言うと,ダイジェスト感が凄い回。




