41.黒猫と聖女
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「……え?」
困惑の声が響く。
それはリリーナ達の声であり,ベリーとミーシアの声であり,ルシフェリオの声でもあった。
無防備な状態の二人が,公園一体を綺麗に塗り潰した毒の被害を受けていない。
ミーシアとベリーの頭上を,大きな影が覆っていた。
それは,黒い生き物だった。
家一つ分ほどの大きさがある黒猫が,降りかかる毒から二人を守っている。
「えーと……誰?」
猫相手に誰? と尋ねる根性に呆れつつ,リリーナは杖を構え直した。
守ってくれたとはいえ,味方とは限らない。
だが,その不安は杞憂で終わった。
「私はミスラ。ミーシアの眷属なの」
「けんぞく?」
「部下ってことね」
毒を真正面から受けているにも関わらず,ミスラと名乗った猫はのんびりとした態度で言葉を交わす。
話を聞いていたリリーナがミーシアの方に視線を向けると,当の本人は唖然と目を見開いていた。
「……ミーシアの眷属というのは,本当ですか?」
念の為確認すると,ミーシアは小さく頷く。
「はい。危険な旅になりそうだったので,出てこないよう言っていたのですが……」
困った子を見るような目をミスラに向けつつ,そう弁解した。
対してミスラは,鋭い目を伏せて適当に受け流す。
「だって,今危なかったじゃない。私がいなかったら,少なからずダメージを負ってたのよ」
そう言いながら,静かに地上に降りた。
何故ずっと浮いていたのかについては語らない。
ミスラは皆が見つめる中で地上に降り,しゅんっと小さくなる。
「ぅえ!?」
ベリーが驚いたように声を上げた。
ありえないほど大きかった黒猫が,一瞬で子猫サイズに変わる。
それを申し訳なさそうな表情で,ミーシアが拾い上げた。
「本当にすみません。こうなるだろうから出てきてほしくなかったんですが……」
若干遠い目で子猫を抱え,苦笑してみせる。
何とも言えない表情でそれを眺めていたルシフェリオは,大きく息を吐いてから口を開いた。
「まぁ,防がれたのは残念だね。本気で君達のことを,ここで始末するつもりだったから」
さらっと告げられた言葉には,何の嘘も感じられない。
ベリーが少し表情を悪くする。
実際ミスラが出てこなければ,毒をもろに浴びて死んでいたかもしれない。
ミーシアの腕の中で微睡む黒猫に,ベリーは心の底から感謝した。
「ただ,防がれたなら……」
もう一度。
そう言いたげに,ルシフェリオが杖を構え直した。
瞬時にリリーナが無数の障壁を展開する。
しかし,杖が振り下ろされることはなかった。
横から影が飛び出し,杖を跳ね飛ばす。
「なっ……!」
ルシフェリオが目を瞬き,数歩後退った。
「あー! キャサリンじゃない!?」
突っ込んできたのは,黒い毛並みの狼。
背には犬形態ではしゃぐ,ゆめを乗せている。
「正解。あの鳥は焼いて食べたから安心して〜」
「いや食われてないから!?」
慌てたように後ろからグロースが追って来ていた。
片腕が使えない人間形態は不便なのか,本来の姿である鳥形態。
鳥形態には,叩き落された時の傷が残っていた。
「おかえり。……折角分散させたんだけどな……」
困ったようにそう呟いて,ルシフェリオは苦笑する。
「こっちの方が沢山いるもんねー! 勝っちゃうかもよ〜?」
「いや,戦うのは私達ですけどね」
ベリーが煽るように笑うと,リリーナが呆れたように返した。
それから,自身の杖を公園のパステルな地面に突き刺す。
「ただ,戦う前に綺麗にさせてくださいね」
「ぬ?」
疑問符を浮かべる一行の方を見ずに,リリーナは杖に魔力を籠めた。
「……ちょっと待って。それは……」
ルシフェリオが僅かに焦ったような表情を浮かべる。
それに構わず,膨大な魔力は放たれた。
「純然たる聖域」
穏やかで静かな声音が響く。
それと同時に,公園一体を半透明の膜が覆った。
「……不味い。グロース,防御を__」
明らかな焦りを含んだルシフェリオの声が途切れる。
膜に包まれた部分の地面が,一斉に光の柱を立てた。
「眩しっ」
ベリーが慌てて目元を手で覆う。
鮮烈な,けれど温かい光が周囲を包みこんだ。
それは,聖なる祝福。
悪を打ち払う,絶対的な神の加護。
邪心あるものは,塵となって“浄化”される。
それは決して,攻撃魔法ではない。
真に神の使いである神官のみが使用する,恩寵そのものだ。
その始まりが,悪の象徴である“魔”を祓うための魔法であったことは,最早公然の事実。
魔に属する者にとっては,この世で最も危険な魔法である。
その魔法を,人々は神聖魔法と呼んでいた。
そして,絶対的で尊きその魔法を使いこなせる神官は,今の時代に殆どいない。
故に,使いこなせる極めて稀な存在のことを,人々は“聖人”と呼ぶ。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ようやくミスラの登場です。
でもそれを吹き飛ばすのがリリーナの魔法なんですよね。
このパーティー最強は間違いなくリリーナです。断言します。




