40.それぞれの本気
誤字,脱字報告受け付けております。
見つけた際は遠慮なく報告して頂けると幸いです。
感想,レビュー等大歓迎です。
ブックマークも是非お願い致します。
「……きゃさりん,なの?」
「そうだよ」
ゆめが疑問符を浮かべると,自身を抱える狼は静かに頷く。
どこまでも深い黒曜石の瞳を数秒見つめたあと,ゆめは花開くように笑った。
「すごい! きゃさりん,かっこいい!」
「そっ,れ゙は良かった……!」
至近距離で極上の笑顔を振りまかれて,キャサリンが悶絶しかける。
それから正面を向いて,冷たく笑った。
「一個だけ謝るね。確かに私は,四天王を舐めてた。だから,手加減しない」
雷の直撃を食らって呻くグロースを睨んで,キャサリンは身を沈める。
「ゆっちゃん,下がってて」
腕の中から飛び出したゆめに小さく忠告してから,その場から消え失せた。
吹き付ける風より速く,狼が疾駆する。
咄嗟に防御のために動いた木々を蹴散らして,黒い影がグロースに激突した。
反応が遅れたグロースが吹き飛び,公園を覆う柵にぶつかって止まる。
「……冗談でしょ」
思わずそう呟き,静かに立ち上がった。
先刻引き裂かれた左腕は,もう使い物にならない。
「冗談じゃないけど? これが犬獣人の本気」
キャサリンが嘲るように答えると,グロースの表情が抜け落ちる。
「……そう。じゃあ,僕も本気で行くよ」
風の流れが変わった。
狼と同じくらいの,巨大な羽が広がる。
緑一色の羽を振るうと,草木が暴れ,地面の塗装が剥がれた。
キャサリンは足に体重をかけて堪える。
ゆめは木の陰に隠れて震えていた。
「四天王のことを一瞬でも舐めたら,後悔するって教えてあげるよ」
「上等。かかってきなよ」
挑発するように笑い,キャサリンが一歩踏み出す。
次の瞬間,その姿は吹き付ける風と同化した。
相手を見失ったグロースは,慌てることなく地上から距離を取る。
自分の飛んでいるところの真下に向けて,強く羽を振るった。
飛び込んできたキャサリンが,すんでの所で躱す。
凄まじい勢いで後退して,体制を整えた。
「ったく……私のことだって舐めんなし!」
語気を荒くして,キャサリンが再び飛び掛かる。
一見単純な動きに見えるが,それは風の流れや地面の様子を計算し尽くした動作だった。
物音一つ無く忍び寄る影に,鋭い羽が叩きつけられる。
だが,その羽は宙を叩いた。
グロースの死角から飛び出してきた影が,彼を跳ね飛ばす。
「ほらね。相手が四天王だから勝てないなんて,誰が言ったの?」
無人になった木の上に立った狼は,地に叩きつけられた鳥に冷たく笑った。
比較的近くの公園で,また別の戦いが繰り広げられている。
絶え間なく現れては爆発する毒の粒子が,公園を人工色に彩っていた。
リリーナの防御魔法がパステルカラーに染まる。
だがそれは一瞬のことで,毒を受けた半透明の障壁がどろりと溶けた。
「魔力に干渉してくる毒とか,最悪ですね」
公園の隅に張った防御魔法の中で休んでいるリオンの方に視線を向けてから,リリーナが小さく呟く。
「ベリーさん,特に気をつけてくださいね!」
「りょー」
ミーシアの声に答えるベリーは,空に浮かんでいた。
何故か円盤状に変形したまろんに乗っている。
「……まろん,どしたん?」
「わかんない! なんかできた!」
「そっかー」
ほのぼのとした会話が繰り広げられる真下で,パステルな地獄絵図が展開されていた。
「……あー。凄いね,君達の仲間」
不意に,沈黙していたルシフェリオが呟く。
攻撃の手を止めて,別の公園の方に視線を向けた。
「グロース,倒されちゃったみたい」
「えー!? キャサリンすごー!」
苦笑気味に告げられた言葉に,ベリーが興奮したように飛び跳ねる。
落ちたら危ないから と窘められて座り直すが,その目は輝いていた。
リリーナ達の表情も少し明るくなる。
「では,こちらも勝たないといけませんね」
「油断しないでくださいよ……!?」
闇魔法を駆使して相手の視界を奪っていたミーシアが,慌てたように答えた。
ルシフェリオも苦笑を収めて,再び杖を振るう。
「この調子だと,僕達の本来の目的も達成できなさそうだし……ちょっと本気出すね」
ベリー達が身構えた,その瞬間。
急に公園全体を覆うほどの影が出来た。
「え」
誰かが呟く。
そして全員が頭上を見上げた。
青がかった緑の,巨大な球体が浮かんでいる。
今にも破裂しそうなくらい振動していた。
「リリーナっ!」
防御魔法の中から,リオンが叫ぶ。
一瞬反応が遅れたリリーナは,慌てて無数の障壁を展開した。
だが,間に合わない。
無防備な状態だったベリーとミーシアに,容赦ない毒の雨が降り注いだ。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:希望と絶望をお届け。
前半はキャサリン無双回になってますね。




