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お菓子の王女は魔王討伐の旅に出る  作者: 冬桜 美狐
第二章 一期一会の旅人達

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39.5.獣人達の因果

誤字,脱字報告受け付けております。

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感想,レビュー等大歓迎です。

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「……あれ? もう終わり?」

 静かな公園に,底抜けに明るい声が落ちた。

 沈黙の中で,空虚な言葉が反響する。

 幾重(いくえ)にも折り重なった木々の隙間から,杖の宝石飾りが覗(のぞ)いていた。

 その持ち主の姿は,木々に押し潰されて見えない。

 緑髪の少年が視線を巡らせると,怯えたような黒橡(くろつるばみ)の瞳と目が合った。

「きゃさりん……しんじゃったの?」

 ゆめが震えた声で問う。

 対してグロースは,わざとらしく首を傾げた。

「さぁ? まだまだ戦いはこれからだー! とは思ってたんだけど」

 こんなに弱いなんて想定外だよ と続けて,困ったように笑う。

「……きゃさりんは弱くないよ! みんな,強いもん」

 潤(うる)んだ目で反論するゆめを,グロースは呆れたような表情一つで否定した。

「じゃあ,何で今負けたの? ……本気で僕達四天王に勝てると思ってた?」

「……うぇるふぃまには,勝ってるし」

 ゆめが小さく答えると,グロースは少し眉を上げる。

「あー,それね。これってネタバレしちゃって良いんだっけ? あ,ダメか」

 一人で話し始めたグロースに,ゆめは目を瞬いた。

 だが,それと同時に思い出す。


『……勝てなかったらどうなるんだろう』

『その時は全力疾走だね』


 ウェルフィマとの戦いの時,ベリーが言っていた言葉だ。

 キャサリンの安否がわからない今,ゆめは完全に負けている。

 なら,敵の注意が逸(そ)れている間に,逃げなくては。

 キャサリンが死んだとは思いたくないが,ベリー達を呼んできて助けてもらうことは出来るかもしれない。

 そう判断して,ゆめは静かに後退(あとずさ)る。


 息を潜(ひそ)めて後退し続け,公園の端に辿り着いた。

 グロースは未(いま)だに一人で何かを喋り続けている。

 あと少ししたら,全力疾走しよう。

 そう心に決めたゆめは,更に一歩後退る。


 __運が悪かった。

 パキッという軽やかな音が公園に響く。

 ゆめが涙目で足元を見ると,綺麗に折れた枝が転がっていた。

 音に反応してグロースが振り返る。

 その目は呆れているようで,面白がっていた。

「逃げれると思ったー? もうここは,僕の縄張りなのに」

 可笑(おか)しそうに笑うグロースの背に,大きな緑の羽が広がる。

 ゆめは息を呑み,人化を解いて駆け出した。

 本来の犬の状態の方が速く走れるが,鳥の飛行速度には勝てない。

 一瞬で追いつかれたゆめは,頭を掴まれて宙に浮く。

「はーなーしーてー!!」

「やーだねー!」

 けらけらと子供のように笑って,グロースは空を飛び回った。

 ゆめが悲鳴を上げて暴れる。

「あのさー,そんなに動いたら落ちるよー?」

「ひえっ!?」

 木の上に立って,グロースがまた笑った。

 下を見て青褪(あおざ)めるゆめを目線の高さまで持ち上げて,黄緑の目を細める。

「ここなら二人で話が出来るでしょ? 僕はお前に聞きたいことがあるんだ」

 突然声のトーンが落ち,冷たい表情に変わった。

 震えるゆめに,言葉を重ねる。


「お前は,神狼国(ヴェステリエ)の『明星(コーア)』だよね?」


 沈黙が落ちた。

 恐怖で揺れていたゆめの目が,一点で停止する。

 その瞳が持っていた光が消え,虚空(こくう)を覗くような黒の目に空が映った。


 数秒の静寂のあと,ゆめは静かに瞬(まばた)く。

「……どうして貴方が,それを知ってるの?」

 怯えるような,困惑したような声だった。

 グロースは少し考えるように間を空ける。

「見ればわかる。僕も同じだから」

 ゆめの目が大きく見開かれた。

 困惑が驚きに変わり,初めて相手をはっきりと視認する。

 そして気がついた。

 ずっと笑みを浮かべていた表情の中で,その黄緑の瞳は微塵(みじん)も笑っていなかったことに。


「それで,同じ明星(コーア)としてお前に提案があるんだ」

 同じ高さにある瞳を眺めて,グロースが笑う。

 ゆめは困惑と警戒が入り混じった表情で,続きを促(うなが)した。


「お前達犬獣人も,魔王軍に入ってくれない?」


 風が一層強く吹く。

 静かに告げられた言葉が,ゆめの耳に届くまでにラグを生み出した。

「……どういう,こと?」

 ゆめの声が震える。

 グロースは落ち着いた様子で言葉を続けた。

「僕達鳥獣人と,お前達犬獣人はかつて争った歴史がある。だから今でも仲が悪く,僕達はわざわざ魔王軍に入ってまで敵対の意思を示してきた」

 犬獣人であるキャサリンから聞いていた話とは乖離(かいり)がある。

 淡々と語りは続いた。

「でも,僕達はどうだろうって思うんだよね。現に明星(コーア)であるお前とは,これが初対面だ。なのに,争う必要なんてあるのかな?」

「……確かに」

 反論しようとした言葉が霧散(むさん)し,ゆめは小さく頷く。

 まだゆめの内心が揺れているのを見越して,グロースは明るい笑みを貼り付けた。

「どうせなら,誰も戦わなくて良い世界の方が,楽しいんじゃない?」

 ゆめの表情が驚きに変わり,瞳が輝く。

 小さく口が開いた。


 だが,ゆめの言葉が発されることはない。

 二人の後ろに突如現れた影が,一瞬でゆめを引き摺(ず)り落とす。

 鋭い風が刺さり,グロースの腕がローブ越しに引き裂かれた。

「あのさ。私のゆっちゃんに何言ってるの?」

 黒い影が,言葉を発する。

 大事に抱え込まれたゆめの双眸(そうぼう)が見開かれ,安堵の涙が溢(こぼ)れた。

 腕の痛みに顔を歪めたグロースに,容赦ない雷が落ちる。


 現れたそれは,黒い毛並みの狼だった。

 犬獣人であるキャサリンの,本来の姿。

 本来の力を解放した狼は,目の前の敵を冷たく眺めていた。



最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:この回では殆ど二人しか喋っていません。

   ……誰にもわからないような話で一話使ってるんですね。

追記:誤字を発見しました。(7/20 修正済み)

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