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32.人間と 魔族と

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「……ベリー,大丈夫?」

 微動びどうだにせず空を眺めていたベリーに,キャサリンが不安そうに声をかけた。

 ベリーはハッとしたように首を左右に振って,ニコっと笑う。

「うん! びっくりしたけど,よく考えたら納得。……正直なこと言うと,ローズ姉が元気そうで良かった」

「ベリーはお菓子の国の王女って言うより,ポジティブの国の女王ですよね」

 リリーナがボソッと呟くと,リオンが確かに……と言いたげな視線を送った。

 進化した! と喜ぶベリーに苦笑しつつ,ずっと沈黙していたミーシアが首を傾げる。

「そういえばベリーさん。少し気になっているのですが」

「ぬ?」

 ベリーがくるっと振り返って言葉の続きを待つ体制になった。


「……四天王のローゼリアと戦わない道を探す,と言ってましたよね。それはつまり『魔王軍と戦わない』ということなんですか?」

 思いのほか真剣な紅の瞳で問われ,ベリーは少し真面目な表情を作る。

「うん。私は少なくともそう思ってるよ。だって,戦わずに済む世界はあるはずだもん」

「そんな根拠はどこにあるの?」

 キャサリンが苦笑しながらそう呟いた。

「ベリーのことだから,いつかはその結論に辿り着くだろうと思ってました」

「右に同じー」

「ゆめに同じ!」

 リリーナ達も各々同意する。

 それを見ていたミーシアは,何か言うべきか迷うような素振りを見せた。


 少し目を伏せてから,ささやくように告げる。

「……では,この話は頭の片隅にいれて頂ければ良いんですが。私の知り合いに,魔族と親しくしたいと思っていた人間がいまして」

 遠い昔を思い出すような目で,ミーシアは空に視線を投げた。

「その人は,魔族のフリをして,同じくらいの年齢の見た目をした魔族と親しくなったそうです。でも,人間であることがバレてしまったんですね」

 ベリー達は本の続きを待つような表情で,話に耳を傾けている。

 ミーシアは空から視線を外して,悲しげな笑みを浮かべた。

「魔族は自分を騙した人間が許せなかったんでしょうね。その人は殺されて,骨だけが戻ってきました」

「ひぇっ……!?」

 ゆめが飛び上がって震えると,キャサリンがすかさず抱き締めてでる。

 小動物のように震えるベリー達に,ミーシアが申し訳なさそうに笑った。

「すみません。急にホラーになりましたね」

「夜じゃなくて良かった……!」

 日が沈みだしそうな空を見て,ベリーが小さく叫ぶ。

「……まぁ,そういう前例もありますから。本気で魔族と戦わない世界を望むなら,正面から行くべきですよ」

 妙に実感のもった冷たい声は,風に紛れて消えていった。


「__それで,あっちの村だっけ」

 日が暮れて恐怖から復活したベリーが,食器を用意しながら呟く。

「そう言ってましたね。何かある村なんでしょうか」

 リリーナが食事を取り分けながら答えると,キャサリンも手伝いながら同意した。

「ローゼリアの話を信じるなら,四天王が二人来るわけでしょ? 絶対なんかあるんだろうね」

「ゆめもそう思う!」

 キラキラな笑顔で食事を待つ姿勢になっているゆめが賛同する。

 ちなみに,リオンはすでに無言でサラダを食べていた。


「とりあえず言ってみるべきだと思うけど……どんな村があるの?」

 ローゼリアは,その村の方角しか示していない。

 それを思い出したベリーが問うと,リリーナは食事を取り分け終えてから地図を取り出す。

「……うーん,この方角には“国”はあれど,村は殆どないんですよね……」

 困ったようにそう答えると,地図をのぞき込んだキャサリンが首を傾げた。

「ここから出てる道を辿ったら,魔王領の近くの村に辿り着くんじゃない?」

 地図に指をなぞらせると,その先の魔王領の手前に,一つの村がある。

 いまベリー達がいる場所からは離れているが,ローゼリアが示した方角の道を使えば早く辿り着くことが出来るだろう。

「何ていう村?」

 リオンが食事を咀嚼しながら問うと,リリーナが地図に視線を戻した。

「えーと……ヘルト村,ですね」

「……え?」

 一瞬,ミーシアの表情が抜け落ちる。

 それはすぐに普段通りの曖昧あいまいな笑みに戻ったが,赤い瞳は困惑を浮かべていた。

「……どうしたの?」

 ベリーが尋ねると,ミーシアは少し視線を彷徨さまよわせてから微笑む。

「いえ……行ったことがある村だったので。あ,転移魔法使えますよ」

「ほんと!? すごーい!」

 話を逸らすように杖を取り出したミーシアに,ゆめが目を輝かせた。

 リリーナ達は少しいぶかしげにしていたが,特に何か言うこともなく,夕食は終わる。


 その夜。

 皆が眠りについたのを確認してから,ベリーはそっとテントを出た。

 満天の星空が,琥珀こはくの瞳を輝かせる。

 リリーナが元通りにした草原に寝転んで,ベリーは静かに夜空を眺めていた。

「……夜は悲しい色なんだよ」

 誰かに聞かせるわけでもなく,ベリーは呟く。

 実の姉のように信頼して,大切に思っていたローゼリアが言った言葉だ。


「……魔王は,悲しいのかな」

 ベリーは思い出す。

 グラッセリアを滅ぼした魔王の姿を。

 何処までも冷たい夜空色の瞳が,妙に記憶に残っていた。


 それ以上何か語ることもなく,ベリーは明るい瞳を閉じる。

 テントの影で,赤い光が明滅した。



最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:初登場時と登場人物一覧の魔王の目の色が食い違っていることに気付きました。

   正しくは基本黒系統で,極稀に赤系統になります。

   目の色が変化するというややこしい方なんですよね。

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