31.人間と それ以外と
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草原が,燃えていた。
一瞬で,青々と風に揺れていた草が焼き尽くされる。
その一部分だけが,切り取られたように赤く染まっていた。
広く広大な草原の,ほんの一部。
ローゼリアが立っていた場所。
「……ん!?」
「ちょっと!?」
ベリー一行が目を剥く。
「……きゃさりん?」
炎の発生源__一筋の雷をその目に捉えてしまったゆめが,震えながら呟いた。
キャサリンは,ゆめの声に答えない。
尋常ならざる態度に,ゆめ達が困惑を浮かべた。
それでもキャサリンは,どこまでも冷たく尖った黒い瞳で,目の前で燃え盛る火を見ている。
「__違う」
それから,ぽつりとそう零した。
ゆめ達が驚いたように視線を向ける。
「……何が? 何が違うというの?」
それに答える声が,頭上から降った。
咄嗟に振られたリオンの鎌が,躱されて空を切る。
空中で身を捻って避けたローゼリアは,音を立てずにベリー達の背後に降り立った。
衣服や髪の一部が焦げ,薔薇赤の目が据わっている。
幽鬼めいた動きで,キャサリンがローゼリアの方を振り返った。
それから,深く息を吸う。
「貴女の言ってることは,間違ってる! 人間と,人間じゃない種族が相容れないなんて時代はもう終わった! それは私が,私達が証明できる!」
草原一帯に響き渡った声に,全員がそれぞれの反応を見せた。
ローゼリアは何度か瞬いてから,目を細める。
「……確か犬獣人でしょう? 犬獣人は人間とは仲が悪いって聞くけど……どういう心変わり?」
挑発的なローゼリアの言葉に,ゆめやベリーが悲しそうな表情になった。
「私だって……人間のこと,最初は信じてなかった。でもベリー達と話して,歴史が全てじゃないって思ったの」
キャサリンが反論すると,ハッとしたようにゆめも何度か頷く。
「そうだよ! ゆめは,べりー達に助けてもらった! 人間には,良い人もいるんだよ!」
ベリーとリリーナが,顔を見合わせて嬉しそうに笑う。
リオンも少し表情を緩めて同意を示した。
ミーシアは特に反応を見せず,静かに成り行きを見つめている。
その様子を見ていたローゼリアは,少し不服そうに眉を上げた。
「……なら,何で私とベリーは」
草原に一層強く吹いた風が,言葉の続きを攫っていく。
「……ローズ姉。キャサリンの話を聞いてて思ったんだけどさ」
不意に,ベリーが小さく口を開いた。
訝しげに視線を向けたローゼリアに,ベリーが静かに言葉を重ねる。
「私,あの記憶に,あの思い出に嘘をつきたくないの。……だから,ローズ姉と戦わなくて良い道を探したい。ダメかな?」
ローゼリアが虚を突かれたように動きを止めた。
その瞳には,困惑と警戒,それ以外の無数の感情が渦巻いている。
何かを考えるような間が空いたあと,ローゼリアは少し不満げな表情になった。
「……拍子抜けね。今日は本気で貴女を始末するために来たのに……覚悟は決まっていないわけ?」
呆れたようにそう言う姿は,見た目相応の幼さを持っているように見える。
少し申し訳なさそうな,それでも意志の強い瞳で見つめてくるベリーに,ローゼリアは深く溜息を吐いて首を左右に振った。
「もう良いわ。覚悟が決まったら来なさいな。……私達が戦わなくて良い道なんて,一つしかないんだから」
小さく呟かれた言葉に,ベリー達がハッとしたように顔を上げる。
その様子を見て,ローゼリアはほんの少しだけ苦笑してから身を翻した。
「絶対見つける! どうやったら見つけられる!?」
慌ててベリーがそう問うと,ローゼリアは少し考え込むような仕草を見せたあと,遥か後方の空に視線を向ける。
魔王領とは反対側の,明るい空を。
疑問符を浮かべてそちらに視線を向けるベリー達に対して,ローゼリアは悪戯を思いついたような表情を浮かべて言った。
「あの向こうにある村に,残り二人の四天王が行くわ。その二人に聞いてみれば,何かわかるかもしれないわね」
軽やかな声を残して,深紅の少女は風に乗って去っていく。
どこまでも広い草原に残されたベリー達は,長い間,暗雲の方を眺めていた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:一度ベリーを平仮名で打つと,全て平仮名になってしまいます。
ゆめの台詞以外で平仮名があったら教えてください……。




