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28.目の前の暗雲

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「……ホントに魔王領に来ちゃった……」

 ベリーが目を丸くして呟く。

「正確には,魔王領近辺の草原ですね」

 地図を見ていたリリーナがそう訂正した。

「……すごいショートカットしてるね」

 キャサリンが地図をのぞき込んで感嘆の声を漏らした。

 転移魔法を使った張本人であるミーシアは,成功したことに安堵あんどして胸をで下ろす。

「失敗すると……身体がバラバラになるんですよね」

「ん!?」

 さらっとそう告げられて,ベリー達が震え上がった。

 先に教えてよそれ……! と言いたげな視線に苦笑しつつ,ミーシアは杖をくるっと回して続ける。

「先に教えたら,怖くて拒否されるかもしれないと思ったんですよ」

 話を聞いていたリリーナが,それはそうだろうと同意した。


「あー! 何かあるー!」

 いきなり魔王領に突撃するのもあれだから,となだめられて草原を駆け回っていたゆめがいきなり叫ぶ。

「どしたの」

 暇だったらしいリオンが問うと,ゆめが黒橡くろつるばみの瞳を丸くして地面を指差した。

「何かここ,真っ黒いの!」

「本当だ……。魔力の残滓ざんしが見えるね」

 リリーナ達との会話を中断して,飛んできたキャサリンが呟く。

「ざんし? って何?」

「残っている魔力ってことですよ。ここで何か大きな魔法が使われたみたいですね」

 ベリーが首を傾げると,若干じゃっかん呆れたような表情のリリーナが答えた。

「……うーん,そんなに昔のじゃないね。てか結構最近?」

 人間が一人収まるような大きさの黒ずんだ地面を様々な角度から見て,キャサリンがそう結論づける。

「……魔王軍の攻撃でしょうか?」

 キャサリンに地図を押し付けられていたミーシアが,そう口にしながら魔王領の方を見た。

 つられて視線を暗雲の方に向けたリリーナが,少し考え込んでから首を振る。

「魔王()の攻撃ではこれで済まないでしょう。魔族個人,ではないでしょうか」

「なんだろ。戦ってた,って感じには見えないんだよね」

 そんなことまでわかるんですか……? と言いたげなミーシアと違い,ベリー達はいまいち理解できないのか,つまらなそうな表情だ。

「……まぁ,警戒はしておきましょうか。何となく嫌な予感がしますし」

「嫌な予感?」

 ベリーが尋ねると,リリーナは視線を少し上げる。

「あれ,鳥獣人なんですよね。多分魔王側の」

「ぅえ!?」

 驚いたような声が聞こえたのか,上空を滑空していた緑の鳥が慌てたように逃げていった。

「……緑」

「めずらしー!」

 ミーシアがぽつりとこぼすと,ゆめが目を細めて鳥が向かった方を見る。

 鳥は凄まじい速度で風を切り,魔王領の暗雲の中に溶けていった。

「……これはちょっと不味くない?」

 キャサリンが杖を握り直して呟く。

 空を眺めていたリリーナも,同意するように頷いた。

「我々のことを魔王が認知しているかはわかりませんが,ここまで来たら流石に気付かれてそうです」

 微妙な表情で警戒を見せる二人を見て,ベリーは少し考え込む。

 それから,軽く息を吐いて小さく笑った。

「でもまぁ,ウェルフィマと戦った時点で知られてるでしょ! 今更って感じ!」

「そーだよ。むしろいきなり来られて,あせってるんじゃない?」

「ゆめ達魔王びっくりさせちゃうもん!」

 リオンとゆめが言葉を重ねると,リリーナ達も苦笑を返す。

「……まぁ,それもそうですね。それにこちらの戦力を完璧に把握はあくされていることはないでしょう」

「ウェルフィマと戦った時と違って,ミーシアもいるし」

 キャサリンに笑みを向けられたミーシアは,若干視線をらしつつ「頑張ります……」と答えた。


「……それで,どうする? このままだと,魔王領の目の前で呑気のんきにご飯食べることになるけど」

「それも良いねぇ」

宣戦布告せんせんふこく感半端ない」

 キャサリンが問うと,ベリーとリオンがそれぞれ頷く。

 地図を見ていたリリーナが顔を上げて,少し考えるような仕草を見せた。

「……そうですね。何もわかってない状態で魔王領に向かうのもあれですし,ここで休みますか」

 その言葉を聞き終える前に,ベリーが巨大テントを取り出す。

 それからゆめとリオンを巻き込んで,食事の準備まで始め出した。

 キャサリンとミーシアは苦笑いしつつ,ベリー達の好きにさせることにする。



 ーーーーーーーーーーーーー



 ベリー達がながめる暗雲の下,天を突くような巨大な城に,二つの影が立っていた。

「__もう来たのね,あの子。ちょっと早くない?」

 暗い空だけが見えるテラスの椅子に腰掛こしかけ,高飛車な態度の少女__四天王の紅玉ルビーは呟く。

『転移魔法とか使ったんじゃね? ありえなくはないだろ』

 紅玉ルビーに返すのは,彼女の背後に忠実にひかえる紅色の獅子だった。

 尊大そんだいな態度の獅子は,何かを思い出すように遠くを眺めている。

「……まぁ良いわ。迎撃げいげきするだけだもの」

 紅玉ルビーは立ち上がって,繊細せんさい装飾そうしょくで飾られたテーブルに置かれた赤い果実を手に取った。

 赤くれた林檎りんごに,鋭い犬歯が食い込む。


 無言になって咀嚼そしゃくする紅玉ルビーに呆れたような視線を向けつつ,獅子はテラスを飛び降りた。

『さっさと行くぞー。アイツのこと放っておくと,絶対変な方向に向かうだろ』

「……それもそうね」

 艶のある目を細め,紅玉ルビー林檎りんごを投げ捨てる。

『食べ物を粗末にすんなよ……』

「良いじゃない別に。あの鳥頭共が食うわよ」

 彫像のような獅子の顔に,わかりやすい不満が浮かんでいた。

 そんなことはどうでもいい,と言いたげに,紅玉ルビー豪奢ごうしゃなドレスを揺らして獅子の前を進む。


「……まぁ,楽な任務になりそうだけど」

 隣を進む獅子に聞こえるか微妙な程の声量で,そう呟いた。


 赤黒い魔力におおわれた二つの影は,きりのようにその姿を薄れさせ,魔王領を後にする。



最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:さらっと閑話三の種明かしをしています。

   あの草原を通るのは成長したベリー達ではなく,ショートカットしちゃったベリー達でした。

   というかさらっと四天王が出ましたね。

   決して文字数が足りないから急遽詰め込んだわけではありません。

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