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お菓子の王女は魔王討伐の旅に出る  作者: 冬桜 美狐
第二章 一期一会の旅人達

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28.目の前の暗雲

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感想,レビュー等大歓迎です。

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「……ホントに魔王領に来ちゃった……」

 ベリーが目を丸くして呟く。

「正確には,魔王領近辺の草原ですね」

 地図を見ていたリリーナがそう訂正した。

「……凄(すご)いショートカットしてるね」

 キャサリンが地図を覗(のぞ)き込んで感嘆の声を漏らした。

 転移魔法を使った張本人であるミーシアは,成功したことに安堵(あんど)して胸を撫(な)で下ろす。

「失敗すると……身体がバラバラになるんですよね」

「ん!?」

 さらっとそう告げられて,ベリー達が震え上がった。

 先に教えてよそれ……! と言いたげな視線に苦笑しつつ,ミーシアは杖をくるっと回して続ける。

「先に教えたら,怖くて拒否されるかもしれないと思ったんですよ」

 話を聞いていたリリーナが,それはそうだろうと同意した。


「あー! 何かあるー!」

 いきなり魔王領に突撃するのもあれだから,と窘(なだ)められて草原を駆け回っていたゆめがいきなり叫ぶ。

「どしたの」

 暇だったらしいリオンが問うと,ゆめが黒橡(くろつるばみ)の瞳を丸くして地面を指差した。

「何かここ,真っ黒いの!」

「本当だ……。魔力の残滓(ざんし)が見えるね」

 リリーナ達との会話を中断して,飛んできたキャサリンが呟く。

「ざんし? って何?」

「残っている魔力ってことですよ。ここで何か大きな魔法が使われたみたいですね」

 ベリーが首を傾げると,若干(じゃっかん)呆れたような表情のリリーナが答えた。

「……うーん,そんなに昔のじゃないね。てか結構最近?」

 人間が一人収まるような大きさの黒ずんだ地面を様々な角度から見て,キャサリンがそう結論づける。

「……魔王軍の攻撃でしょうか?」

 キャサリンに地図を押し付けられていたミーシアが,そう口にしながら魔王領の方を見た。

 つられて視線を暗雲の方に向けたリリーナが,少し考え込んでから首を振る。

「魔王軍(・)の攻撃ではこれで済まないでしょう。魔族個人,ではないでしょうか」

「なんだろ。戦ってた,って感じには見えないんだよね」

 そんなことまでわかるんですか……? と言いたげなミーシアと違い,ベリー達はいまいち理解できないのか,つまらなそうな表情だ。

「……まぁ,警戒はしておきましょうか。何となく嫌な予感がしますし」

「嫌な予感?」

 ベリーが尋ねると,リリーナは視線を少し上げる。

「あれ,鳥獣人なんですよね。多分魔王側の」

「ぅえ!?」

 驚いたような声が聞こえたのか,上空を滑空していた緑の鳥が慌てたように逃げていった。

「……緑」

「めずらしー!」

 ミーシアがぽつりと零(こぼ)すと,ゆめが目を細めて鳥が向かった方を見る。

 鳥は凄まじい速度で風を切り,魔王領の暗雲の中に溶けていった。

「……これはちょっと不味くない?」

 キャサリンが杖を握り直して呟く。

 空を眺めていたリリーナも,同意するように頷いた。

「我々のことを魔王が認知しているかはわかりませんが,ここまで来たら流石に気付かれてそうです」

 微妙な表情で警戒を見せる二人を見て,ベリーは少し考え込む。

 それから,軽く息を吐いて小さく笑った。

「でもまぁ,ウェルフィマと戦った時点で知られてるでしょ! 今更って感じ!」

「そーだよ。むしろいきなり来られて,焦(あせ)ってるんじゃない?」

「ゆめ達魔王びっくりさせちゃうもん!」

 リオンとゆめが言葉を重ねると,リリーナ達も苦笑を返す。

「……まぁ,それもそうですね。それにこちらの戦力を完璧に把握(はあく)されていることはないでしょう」

「ウェルフィマと戦った時と違って,ミーシアもいるし」

 キャサリンに笑みを向けられたミーシアは,若干視線を逸(そ)らしつつ「頑張ります……」と答えた。


「……それで,どうする? このままだと,魔王領の目の前で呑気(のんき)にご飯食べることになるけど」

「それも良いねぇ」

「宣戦布告(せんせんふこく)感半端ない」

 キャサリンが問うと,ベリーとリオンがそれぞれ頷く。

 地図を見ていたリリーナが顔を上げて,少し考えるような仕草を見せた。

「……そうですね。何もわかってない状態で魔王領に向かうのもあれですし,ここで休みますか」

 その言葉を聞き終える前に,ベリーが巨大テントを取り出す。

 それからゆめとリオンを巻き込んで,食事の準備まで始め出した。

 キャサリンとミーシアは苦笑いしつつ,ベリー達の好きにさせることにする。



 ーーーーーーーーーーーーー



 ベリー達が眺(なが)める暗雲の下,天を突くような巨大な城に,二つの影が立っていた。

「__もう来たのね,あの子。ちょっと早くない?」

 暗い空だけが見えるテラスの椅子に腰掛(こしか)け,高飛車な態度の少女__四天王の紅玉(ルビー)は呟く。

『転移魔法とか使ったんじゃね? ありえなくはないだろ』

 紅玉(ルビー)に返すのは,彼女の背後に忠実に控(ひか)える紅色の獅子だった。

 尊大(そんだい)な態度の獅子は,何かを思い出すように遠くを眺めている。

「……まぁ良いわ。迎撃(げいげき)するだけだもの」

 紅玉(ルビー)は立ち上がって,繊細(せんさい)な装飾(そうしょく)で飾られたテーブルに置かれた赤い果実を手に取った。

 赤く熟(う)れた林檎(りんご)に,鋭い犬歯が食い込む。


 無言になって咀嚼(そしゃく)する紅玉(ルビー)に呆れたような視線を向けつつ,獅子はテラスを飛び降りた。

『さっさと行くぞー。アイツのこと放っておくと,絶対変な方向に向かうだろ』

「……それもそうね」

 艶のある目を細め,紅玉(ルビー)は林檎(りんご)を投げ捨てる。

『食べ物を粗末にすんなよ……』

「良いじゃない別に。あの鳥頭共が食うわよ」

 彫像のような獅子の顔に,わかりやすい不満が浮かんでいた。

 そんなことはどうでもいい,と言いたげに,紅玉(ルビー)は豪奢(ごうしゃ)なドレスを揺らして獅子の前を進む。


「……まぁ,楽な任務になりそうだけど」

 隣を進む獅子に聞こえるか微妙な程の声量で,そう呟いた。


 赤黒い魔力に覆(おお)われた二つの影は,霧(きり)のようにその姿を薄れさせ,魔王領を後にする。



最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:さらっと閑話三の種明かしをしています。

   あの草原を通るのは成長したベリー達ではなく,ショートカットしちゃったベリー達でした。

   というかさらっと四天王が出ましたね。

   決して文字数が足りないから急遽詰め込んだわけではありません。

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