25.大魔法使いの記憶
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「お祖母……様?」
ベリーが反芻する。
キャサリンは唖然として声も出ないようだった。
「そうです。ベリーが小さい時はお城にいたんですが,ある時突然行方不明になって……」
「……死んじゃったの?」
感情の籠もらない声が静かに響く。
「いえ,違います。彼女が亡くなれば,彼女が魔法で創ったグラッセリアは消滅しますから」
リリーナは慌てたように否定した。
「それもそれでヤバくない……?」
驚いたようにキャサリンが呟く。
それから,そっとベリーの様子を伺った。
ベリーは本当にその事実を知らなかったのか,ぽかんと口を開いている。
それからややあって,表情が崩れた。
「__そっか。そうなんだ。……良かった」
「……え?」
リリーナが困惑を浮かべる。
弾けるような笑みが,ベリーの顔に浮かんでいた。
二人の驚きに気付いたのか,ベリーは立ち上がってその場でくるりと回ってから,笑みを深める。
「覚えてるんだ,私。お姉さんみたいな女の人。お祖母様って言われてわかんなかったけど,自分のことをラティって言ってたから間違いないね」
リリーナは少し瞬いた後,驚愕したように目を見開いた。
「……じゃあ,カランティ様のことをベリーは覚えてるんですか?」
彼女が姿を消したのは,ベリーがまだ喋ることも出来ないような時期である。
「ふふん。私,記憶力だけは良いから」
「記憶力だけなのね」
呆れたようにツッコむキャサリンは,とうに驚きから逸脱したようだ。
リリーナも疑問符を浮かべていたが,彼女ならあり得るか と思考を放棄する。
「……それで,ラティ姉様の話じゃなかったよね? 何だっけ?」
こんな時ばかりはベリーの記憶力が働かない。
リリーナもその質問が飛んで来ることはわかっていたのか,軽く頭を振って答える。
「ベリーのお菓子魔法はそもそも存在していないという話ですよ」
それを聞いたベリーだけでなく,キャサリンもそういえばという顔をした。
「えーとだから,グラッセリアの建物はラティ姉様の創造魔法で,お菓子の魔法じゃないってことだよね?」
「そうです」
ベリーが内容を整理すると,リリーナが軽く頷く。
「……つまり私は,本当に存在しない魔法を生み出しちゃったってこと……?」
「そういうことですね。でもまぁ,何となく理由はわかりました」
「え?」
キャサリンとベリーが目を瞬いた。
それに対して,リリーナは苦笑とも微笑とも取れない表情を浮かべる。
「……カランティ様はまだ幼いベリーに,魔法書を読み聞かせていましたからね。無意識に覚えていたとしたら,納得できます」
「……小さい孫に魔法書を読み聞かせる祖母とか,初めて聞いたんだけど」
キャサリンが呆然と呟くが,その後「まぁ,あの伝説のカランティならあり得るか」と付け加えた。
「え? ラティ姉様そんなに有名なの?」
「歴史上の魔法創造師達が霞むような,偉大で変わった方でしたよ」
リリーナが呆れたように笑う。
「えー? 何やったのか気になるー!」
ベリーが目を輝かせて身を乗り出すと,リリーナはそれを押し留めて人差し指を立てた。
「また時間があったらいくらでも話してあげますよ。カランティ様のことは多分,私が一番詳しいですから」
「え? なんで?」
今度はキャサリンが反応する。
それに対して,リリーナは少し遠くに飛ばした。
「カランティ様は,私の育て親であり,魔法の師匠なんですよ」
「……はぁ!?」
キャサリンが目を剥いて叫び,ゆめが飛び跳ねる。
不機嫌そうなゆめを慌てて寝かしつけてから,再び口を開いた。
「……言われてみれば,確かにあり得ないくらい魔法上手だよね。師匠がカランティなら納得」
この世の大体の不思議は大魔法使いカランティの仕業,で解決する。
それは,今でも魔法使いの世界で語り継がれる常識だった。
「そういうことです。今の魔王が魔法の扱いに長けているのも,実はカランティ様が絡んでいるのでは? とかいう迷信もありますしね」
「えぇ!? そうなの!?」
ベリーが驚いたように声を抑えて叫ぶと,リリーナが軽く首を振る。
「あくまで迷信です。まず魔王領で生まれ育ったはずの魔王と,人間界にいるカランティ様が出会う状況が想像出来ませんし,カランティ様からそんな話を聞いたことはありません」
それを聞いて,ベリーはホッとしたように座り直した。
「……まぁ,この講義で話すことはもう特にありません。結論としては,ベリーの魔法は本来存在しない魔法なので,魔王に有利だと思います」
説明にも疲れてきたのか,リリーナがそう締めくくる。
話の繋がりが悪いが,驚きの話ばかりで疲れているベリー達は気にしない。
すると,終わる瞬間を見計らったようにリオンが瞬いた。
「__おはよ。終わった?」
かなり図太い神経を発揮しつつ,リオンはふわぁっと欠伸をしてから猫のように伸びる。
「おはよー。私疲れたからお菓子食べたーい」
「甘いものを食べると頭が良くなるんだよ!」
ベリーが鞄を漁り始め,ゆめが目をキラキラさせた。
それを見て,リリーナも仕方なさそうに笑ってお菓子のセットを取り出す。
和やかな時間というのは,やはり唐突に崩れるものだった。
ほわほわとした空気が流れる草原に,魔獣の咆哮が響く。
ベリー達がいる所からそれほど離れていない位置に巨大な魔獣がおり,その目の前に一つの人影があった。
「……え? 襲われてる?」
人影は魔獣相手に魔法を放っているようだが,全く効果がないように見える。
逆に魔獣は随分と機嫌が悪いようで,激しく暴れていた。
「……よし。助けに行くか」
最後のクッキーを口に入れてから,リオンが鎌を持って立ち上がる。
それを見て,残り四人も各々準備を始めた。
「……あのでっかい魔獣見たことない。何あれ?」
「わからないです」
視力が良いため,じっと眺めていたベリーが小さく呟く。
「取り敢えず,倒しとけば良いよね」
リオンがそう言ったのと同時に,五人は草原を駆けて魔獣の方に向かった。
「そーれ!」
キャサリンが無詠唱で魔法を行使し,魔獣の頭に雷が落ちる。
羊のような巨大な魔獣は鋭い叫びを上げ,五人に襲いかかってきた。
「わぁっ!?」
咄嗟にベリーからクッキーが飛び出す。
クッキーの強度は半端ないのか,巨大な魔獣が後方に吹っ飛んだ。
「よっ,と」
掛け声つきで,リオンが軽やかに宙を舞う。
そのまま,巨大な鎌が魔獣の脳天に刺さった。
「かっこいいー! 頑張れー!」
ゆめが目を輝かせて大きく両手を振る。
それだけで,全員の魔力量が底上げされていた。
「トドメの一撃ー! 誰行くー!?」
「はいはいはいはい! 私行く!!」
暴れ狂う魔獣を避けながら,キャサリンが上空から叫ぶ。
それに対して慌てたようにベリーが挙手して前方に立った。
「えーとね! んー……,やっぱりキャンディ食べたーい! 出てこーい!」
満面の笑みでそう言って大きく腕を振り下ろすと,魔獣に鋭いカラフルな矢が次々と刺さる。
魔獣は苦しげな絶叫を残して,跡形もなく消えた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:カランティお姉様(お祖母様)はヤバいんですよね。
でもそれを継いだベリーも,普通にヤバいんですよ。




