【閑話】魔を統べる者達 三
誤字,脱字報告受け付けております。見つけた際は遠慮なく報告して頂けると幸いです。
感想,レビュー等大歓迎です。
ブックマークも是非お願い致します。
「……はい?」
流石に理解できないのか,紫玉が思わず声を漏らす。
「……まぁ,あの子だものね」
紅玉はやけに納得したような声音でそう呟いてから,思い出したように問うた。
「ということは,四天王を名乗っていたその女は粛清できないというの?」
そんな蛇なんて,首を絞めてやりたいのに……と不満そうに続ける彼女に,翠玉は苦笑を隠せない。
「いや,大丈夫。流石に逃亡したみたいで」
「そうなの? じゃあ私が粛清してくるわ!」
ぱっと喜色を浮かべて紅玉が軽やかに告げる。
その様は年相応にすら見えるが,言っていることは不穏だ。
ただその場には,些細な違いはあれど,似たような思考の持ち主が集まっている。
反対意見も止めに入る声もなかった。
「……それにしても,人間の王女とその仲間……ですか。興味深いですね」
まだ切られていない書類を手に,玉座に座り直した紫玉が愉しそうに呟く。
「そうだね。本当に魔王様を倒せるのか,見極めてみたい」
穏やかな雰囲気をどこにやったのか,怪しげな笑みを浮かべた翠玉が賛同した。
「んじゃ,僕がもうちょっと見てよーかなっ」
「あ,その必要はありませんよ。緑玉は別の任務に当たってください」
「え?」
その場を去ろうとした緑玉を,落ち着いた圧のある声が止める。
不自然な影により見えないが,その表情は明らかに笑みを浮かべていた。
「私が探ります。私が探りますから,貴方は別の任務に当たりなさい?」
興味津々,と言いたげな声音に呼応するように,影の中で紅の光が輝く。
「あー,本気で気になってる感じ? まぁ面白そうだけど……」
物事に対する関心の無さは四天王の中でもトップな紫玉の本気を感じて,緑玉は少し笑みを浮かべて頷いた。
「じゃあ,決まりだね。緑玉は各地の偵察。紫玉は王女一行の監視。紅玉は蛇の女王の粛清。僕はこれまで通り。それぞれ頑張ろうか」
若干不満げな視線を感じつつ,翠玉は笑顔で言い切る。
四つの気配が消え,シャンデリアの明かりが消え失せた。
広間には,変わらない静寂が訪れる。
雷が絶え間なく鳴り響く魔王領と,その境。
空が綺麗に分かれているところを通り,人間の領域に足を踏み入れた者がいた。
途端に気配を感じられなくなった雷を一瞥してから,小柄な少女は果てしない草原を進む。
その背後に従者のように付き従うのは,少女の二倍ほどの大きさを持つ深紅の獅子だ。
「……それにしても,面倒なことになったわね」
少女__紅玉は,ふと思い出したように呟く。
獅子はそれに賛同するように頷いた。
『僕達魔王軍にも,新しい展開が来てるかも知れない』
翠玉の言葉が蘇る。
その通りだった。
「愚かな蛇もそうだけど,人間が魔王様討伐だなんて……」
あの場に集っていた三人も,心の何処かでは同じ事を考えているだろう。
そんな事は不可能だと,絶対に有り得ないと。
「……ただあの子,どうしようもなく鈍いのよね」
静かな声が,風に紛れて消えていく。
それから長い間,紅玉は草原を歩いていた。
終わりの見えない緑一面の景色は,穏やかな日光に包まれている。
不意に,彼女の頭上を切り取るように,影が出来た。
「流石に,日光に当たり続けるのはきついわね」
赤黒い歪な色合いの溶けた飴のような傘の柄を握って,紅玉は太陽を鬱陶しそうに眺める。
草原は遮るものがないため,日光が途切れることはない。
「……あ,見つけた?」
獅子が突然,右に逸れて駆け出す。
「ぎゃっ!?」
若い女性の叫び声が響き渡り,一瞬の間を置いて,一人の女が現れた。
「久しぶり,かしら? 大蛇国の女王ウェルフィマ。どうしたの? 傷だらけじゃない」
紅玉が嘲笑を浮かべると,黒髪の女__ウェルフィマは,憎々しげに睨み返す。
「……魔王四天王が何の用よ?」
その返答に,紅玉は薔薇赤の瞳を細めた。
隠しきれない怒りの気配が漏れ出て,ウェルフィマは小さく息を呑む。
「貴女が魔王様の四天王を名乗った上に,幼い子供達に負けたんでしょ? あの子達,四天王なんて大した事無いって思ったんじゃないかしら。……この私が許せると思う?」
木々がへし折れるような重い音が響き,地面から無数の赤黒い柱が起立した。
意思を持つように蠢く柱に取り囲まれ,ウェルフィマは青褪めて逃亡を試みる。
次の瞬間,柱がどろりと溶け,その場に雨のように降り注いだ。
雨を被ったウェルフィマの喉から,絶叫が飛び出る。
解き始めていた人化が止まり,蛇と人間が混ざった身体が溶け始めていた。
「貴女にはここで死んでもらうわ。魔王様の為だし,悪く思わないでよ」
ウェルフィマは赤黒い汚泥の雨の中で,血走った目を紅玉に向ける。
もう発声することも出来ないようだった。
紅玉は,飽きたように軽く溜息をついて,その場を去る。
「……ベリーねぇ。あの子,どれだけ強くなったかしら」
そんな言葉を零して,紅玉は小さく微笑んだ。
「次に会った時が楽しみね」
明るい陽気に包まれた,長閑な草原の中心に,赤黒い染みが残っている。
やがてその草原を通るのは,経験を積み,数々の難関を乗り越えて成長したベリー達か,それとも____。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:第一章完結でございます!!!!
最後がちょっと不穏というか,描写が凄いですが,まぁ,はい。
次回は登場人物一覧的なものを投稿します!




