【閑話】魔を統べる者達 二
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「魔王様を除いた【七混魔珠】も揃ってるんじゃない?」
ふと自分の正面,紅玉と紫玉が座っている辺りを見て,緑玉が笑う。
それに対して,二人は軽く頷いて同意を示した。
【七混魔珠】とは,公にはされていない魔王軍の役職の名である。
四天王と魔王,そしてとある重要な二人で構成されており,実際に魔王領を動かしている統治機関でもあった。
「……ちなみに,魔王様は今日はお掃除だそうよ」
「あー,なら仕方ないね」
紅玉がそう呟くと,翠玉は軽い口調でそう答えて話を区切る。
「時間はいくらでもあるけど,早く進めるよ? 僕達魔王軍にも,新しい展開が来てるかもしれないらしい」
「新しい展開……?」
翠玉がさらっと告げると,三人は一様に首を傾げた。
流石に説明が足りないことに気づいたのか,手元に書類を出現させて,テーブルに広げる。
「最近僕達が動向を探っていた,大蛇国の蛇獣人達がいるだろう?」
「動向を探ってたのは僕だけどね」
すかさず合いの手を入れつつ,緑玉は書類を覗き込んだ。
女性陣も玉座から立ち上がり,書類の方に向かう。
玉座は用意されているものの,正直使い勝手が悪いというのが四人の素直な感想だった。
「何であんなに大胆なことができるのかと思ったけど……どうやらこの国の女王が変わったことをしてるみたいでね」
“変わったこと”という言葉に,緑玉が愉しげに口元を歪める。
偵察や諜報の担当である彼は,既に知っている情報なのかもしれない。
そう思いつつ,翠玉は書類の一部を指差して続ける。
「……魔王様の四天王を名乗っているらしいよ」
その場を沈黙が満たした。
目を丸くしていた紅玉の表情が,徐々に憤怒に変わる。
「……何ですって? そんな,そんなふざけたことを,貴方は黙認していたの?」
怒りの矛先は,目の前にいない本人ではなく,既に知っていたであろう緑玉に向いた。
彼女にとって四天王を騙るということは,それこそ魔王の名を騙るようなもので,敬愛する主を貶められたのと同じくらい,許しがたい侮辱である。
「いやー,知ってはいたけど? 別に良いかなーって。ゼリーちゃんもそんな怒らなくても良いでしょ」
「本名で呼ぶなっていうか,それ以前にそこだけ切り取るんじゃないわよ! この知能鳥以下!」
「鳥以下っていうか鳥なんだけど……」
賑やかに言い合った後,紅玉は深く深呼吸をしてから,玉座に腰掛けた。
「それで? 今まで黙っていた理由は?」
尊大な態度で問われ,楽しそうに成り行きを見守っていた翠玉が答える。
「いつ粛清しようか悩んでたんだけど……どうやら先を越されたみたいでね」
紅玉が柳眉を上げると,紫玉も興味深そうに視線を向けた。
「……まず,人間の国のグラッセリアって覚えてる?」
「魔王様があれだけは滅ぼさなければならない,と言っていた国ですね」
あの国を滅ぼす為に,魔王は四天王さえも使って汎ゆる手段で内情を探っていた。
それだけ執拗に狙っていた国を,忘れるわけがない。
しかもその国を滅ぼした後,少し面倒になったらしい魔王は,一度も他種族の国を滅ぼしていないのだ。
長い時を生きる上に,基本的に何に対しても関心が低い四天王達ですら,流石に記憶に残している。
「……まさかとは思うけど」
不意に,紅玉が呟いた。
強い光を放つ薔薇赤の瞳が驚愕したように揺れている。
沈黙に満ちた空間で,彼女は小さく続けた。
「……王女が生き残っているとか?」
その言葉に,翠玉は目を丸くする。
書類の内容と同じだったからだ。
基本的に人間や他種族に疎く,そもそも興味がなさそうな紅玉にしては珍しい。
そう思ったところで,ふと思い出したことがあった。
「あぁ,グラッセリアに視察に行ったのは君だっけ?」
「そうよ。私自ら動いたっていうのに,忘れてるなんて正気?」
冷たく鋭い視線を向けられて,翠玉は苦笑を浮かべて流す。
「……それで,生き残った王女……ベリー・グラッセ・ミエルベル? がどうされたので?」
見かねた紫玉が書類を手に取りながら話を戻すと,既に知っていたらしい緑玉が答えた。
「王女さんは,なんか魔法が上手いみたいだね。あと仲間も増やしてる感じ! 狙いは……魔王様討伐!!」
あははっ! と可笑しそうに笑いながら,書類の束を持ち上げ,空いている方の腕で宙を切る。
小気味よい音を立てて真っ二つになった書類を横目に,緑玉は笑いが止まらないといった様子で続けた。
「メンバーは犬の娘を含めて四人! からさっき増えて五人! 基本魔法系だけど,新しく増えた奴は明らかに戦闘系だね!」
明るく指を折りながら告げると,散らばった書類の残骸を拾い上げながら翠玉が補足する。
「一応ざっくりとした戦闘力と,戦闘方法はわかってる。そしてさっきの話に戻るんだけど……」
そこで一度言葉を切って,ニコリと笑みを浮かべた。
「まだ二十にもならないこの少女達が,かつて魔王軍と争ったこともある大蛇国の女王を倒した」
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:魔王側第二回!
今まで出てこなかった分,新情報も沢山です……!




