【閑話】魔を統べる者達 一
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黒雲が覆う空に,亀裂が走った。
鮮やかにすら見える閃光は,一瞬の静寂の中で静かに途切れる。
人間の国であれば何とも不吉だが,ここでは違った。
これが基本の天候であり,数百年以上の間変化は見られない。
絶対に朝のない,日が昇らない国。
それが現魔王が収める都【デスグラスト】__通称魔王領だった。
魔王領の中心に,巨大な城がある。
全ての壁面が黒く塗られ,重厚な門は何人たりとも侵入を許さない。
光を嫌うように暗闇に包まれたその城は,圧倒的な存在感と底の知れなさを同居させていた。
雷が,硝子越しに城の廊下を照らす。
果てのない暗い一本の道を,一つの影が進んでいた。
足取りは軽く,何処か不安定で幽鬼めいている。
その手には青黒い液体が揺れる筒があり,腰にも数個の硝子瓶を下げていた。
何度も灯る光に照らされ,その姿が窓に映る。
その人物は,黒で統一された魔王城では些か違和感のある,白衣を纏っていた。
但し,その上に羽織る暗緑色のローブが,違和感を上手くカモフラージュしている。
ローブと同色の円錐型の帽子の下は,明るい橙色を持っていた。
穏やかそうな表情の中に,理知的で鋭い翡翠の瞳が光っている。
青年は,廊下の突き当りで足を止めた。
何もないように見える壁に手をかざすと,荘厳な扉が姿を表す。
手を離すと,扉は勝手に奥に開いた。
扉の奥には,シャンデリアの光に包まれた空間がある。
シャンデリアが照らしているのは中央に置かれた丸い金属製のテーブルとその周辺だけで,その範囲外に存在するものは全て闇に覆われていた。
テーブルの周囲には,五つの椅子が置かれている。
その中の一つだけが埋まっていた。
燃えるような紅を貴重とした豪奢で典雅な玉座に座っていた,小柄な影が振り向く。
「意外ね。あの翠玉が研究室から出てくるなんて。余程重要なことなの?」
高く澄んだ威圧的な声に,翠玉と呼ばれた青年は苦笑を浮かべて答えた。
「流石に魔王様直々の命令なんだから,来ないわけにはいかないよ。僕からすれば,君が来ることは正直想定外だったかな,紅玉」
穏やかにすら聞こえる声に,深紅の艶のある髪を持つ少女,紅玉は華奢な首を傾げて疑問符を浮かべた。
それだけで,髪やドレスを彩る豪奢な飾りが揺れて存在を主張する。
「……まぁ,別に良いのよ? でも,あの二人は来るかしら」
返事になっていない答えを返しながら,紅玉は視線をテーブルの上に戻した。
そこには,当たり前のように美しく盛られたクッキーが鎮座している。
腕利きの料理人によるものだと下位の魔族には思われているが,真実はその場に集う者だけが知っていた。
「……まぁ,緑玉は来ると思うよ。アイツは楽しいことが好きだから」
「享楽主義者よね」
シンプルだが凝った装飾がされている,人工的な色合いの翠の玉座に腰掛けて,翠玉はクッキーを一枚手に取る。
紅玉は頷いてから,手にしていたクッキーを口にしようとした。
その瞬間,魔力を通せば勝手に内側に動く扉が,派手な音を立てて開く。
「あー! もう食べてる! てかルシーじゃん!? 珍しっ!」
入ってきた途端に騒ぎ立てるのは,紅玉と同じくらいか,それより小柄な人物だった。
明るい緑の髪に,同色の瞳。その片方は意味深な刺繍がされた眼帯で覆われている。
飄々(ひょうひょう)とした快活な笑みは,その場の雰囲気に全くあっていないが,何故か上手く調和していた。
貴族の子息を思わせる装いを着崩し,その上に翠玉とよく似た黒のローブを纏っている。
頭上には当然のように,円錐型の帽子が揺れていた。
「……喧しいのが来たわね」
「ルシーって呼ぶのが癖になってないかな? 僕のことは翠玉と呼ぼうね」
紅玉が眉を顰め,翠玉が微苦笑を浮かべて訂正を入れる。
「あ,そっか! 本名非公開って設定だったね!」
「設定って言うんじゃないわよ,この阿呆鳥が」
忘れてたー! と笑顔で言い切った少年__緑玉に,紅玉が冷めた目で返した。
二人だけの時に形成されていた厳かな空気は,完全に霧散している。
「……これで全員,揃ったみたいだね。魔王様はもしかして今日もいないのかな?」
不意に,翠玉がそう告げた。
緑玉は植物で作られているように見える玉座に座りつつ,困惑気味な表情になる。
紅玉も疑問符を浮かべ,まだ残っている二つの空席のうち,自分の隣を見つめた。
暗い紫と黒の繊細な刺繍が施された高雅な玉座に,俄に影が現れる。
「……彼の声に紛れば,気付かれないと思ったのですけど……」
少し苦笑を混ぜた声音が響いた。
いつの間にか自らの玉座に座っているその人物は,複雑な刺繍や魔法陣が施された黒のローブを纏っている。
あえて作ったらしい不自然な影により,顔は見えないが,声から若い女性であると推測するのは容易だ。
落ち着いた声だがまだ高く,翠玉と同じくらいか,それより幼いだろう。
「確かに紫玉の気配は読み辛いけど……影が突然できたのは,流石に不自然だったよ?」
翠玉が軽く手を振って答えると,紫玉は納得したように影の中で頷いた。
「……確かに四天王は揃ったわね」
紅玉が周囲を見回して,満足気に微笑む。
その場に集う四つの玉の名を冠する者達は,敵である他種族だけでなく,同じ魔族からも恐れられ崇められる,魔王軍最強の異名を持つ四人だった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:キリが悪いですね……!!
一話に収めようとしたら敗北しました。
三話くらいになりますが,ベリー一行はほとんど出ません。
追記:第一章のタイトルを追加しました。
忘れていたわけではないんです。時期を見過ごしただけで……。




