死者を呼び出せ! 明かされる真実と、引き裂かれた夫婦愛(1)
気がついたら三ヶ月過ぎていました。
ここからまた、少しずつ更新してゆきます。
月明かりが俺たちを冷たく照らす。
全てを語り尽くしたアメリーは静かに涙を流し、黙ってダニエルの頭を抱く。
ダニエルはアメリーの胸に顔をうずめ、大声をあげる。
俺の隣でローゼは長い袖で顔をぐしぐしと擦る。
見ていられない。
「ローゼ、これ使え」
「ヴォルフさん…… え? なんですかこれ?」
「どう見てもハンカチやろ?」
「なんでこんなくしゃくしゃの、ごわごわに……」
「俺のズボンのポケットの中に入ってたからや、我慢しいや? あのなあ、男のの持ちもんなんてそんなもんやで」
「違います、これ、わたしのハンカチ」
「なんやて?」
「ほら、この刺繍」
よくみるとハンカチには刺繍と、控えめながらもおしゃれな縁取りがされている。
どう見ても女物、そこそこ高級品のようでもある。
きっと当初は真っ白で、ふわふわの優しい肌ざわりだったのだろう。
気の毒なハンカチは俺のポケットの中に監禁され、見るも無残な姿に変わり果てた。
「どこいったんだろうって思ってたら、ヴォルフさんが持ってたんですね」
「すまん」
考えてみれば、転生するときにこの世界に持ち込んだ巾着袋の中身以外は、俺が身につけているものは全てローゼが用意したものだ。
あらゆる意味で、俺のものな訳がない。
哀れなハンカチは久々に持ち主の手に戻り、くしゃくしゃでごわごわになって吸水性を著しく落としながらも、健気にローゼの涙を吸い取った。
ローゼが袖で涙を拭いていたのは、持っていたはずのハンカチがなかったからなのだと今頃知った。
「……ヴォルフさんは、泣かないんですね」
なんと答えていいのか。
アメリーの悲しい宿命と、それに抗う強い意志には心打たれた。
妻を信じ続け、魔女として処刑されてもなお愛し続けるダニエルの愛情は素晴らしいと思う。
ローゼの泣きたい気持ちもわかる。
だが俺の心の中に吹き荒れる感情は、哀しみより、怒り。
アメリーを、ダニエルを、こんな目にあわせた奴らを許せない。
これ以上哀れな無実の魔女を処刑させてはならない。
そして何より悲劇的なのは、この悲劇は特別不運なことではないということ。
何人も…… 何十、何百、もしかしたら何千では済まない魔女が処刑されている。
この世界の、この時代の、この土地では。
ここは異世界、理不尽極まりない世界。
道理の通らないこの世界で、どうすれば無実の魔女を救えるか。
魔女が処刑されることが普通の世界で、その魔女を救うということは、世界の仕組みに逆らうということにもなりかねぬ。
俺は異世界からの転生者、この世界の連中が知り得ない世界のことを知っている。
役に立ちそうな少々のアイテムも持ち込んだ。
とてつもないアドバンテージではあるが、世界の仕組みそのものに立ち向かえるほどの優位性があるとは思えない。
……では、どうすれば、無実の魔女をこれ以上処刑されないようにできるのか?
俺が生きていた転生前の世界では、中世のヨーロッパで魔女狩りが起きていた。
それは現代ではとっくになくなっていた ……が、どうして、どういう経緯で魔女狩りがなくなったのかは、正直よくわからない。
どうやればこの世から魔女狩りがなくなるのか、この世界の人間隅々まで、本当は魔女なんかいないのだということを理解させられるのか、俺にはわからない……
そしてわからない自分に対しても、腹が立っていた。
俺が泣けない理由は、悲しいよりも先に、ありとあらゆるものに対して業腹であったから。
「……いや、怒ってばかりもおれへんな」
「え?」
世界の変え方はわからない。
そんなものはもしかしたらどこにもないのかもしれない。
どんな異能の能力者にも、誰にもできないことなのかもしれない。
ならば俺がまずやらなければいけないのは。
世界を変えることではなく。
この街で、次に処刑される魔女を救うこと。
一人を救うことを一千回繰り返せば、一千人を救うことができる。
まず一人を救えなければ、何も変えられない。
最初の一人目は……
ひとつ深呼吸をした。
なるべく優しい声で、魔法陣の中から呼びかけた。
「よう話してくれた、アメリー」
「……はい」
「しんどかったな」
「…………はい」
「さてアメリー、俺はお前にもう一つ聞かなあかんことがある」
「なんでしょう」
「お前、ダニエルに、どうしてほしい?」




