戦記 十八
「押せや、押せや!」
抜け駆けをした侍大将は手勢を率い、金子城に迫った。
城下には民家や寺があり、領民もいる。しかし、おかまいなく、相対する者ことごとく刃にかけてゆく。
「手こずらせおって伊予の土民どもが。我ら毛利の恐ろしさをとくと味あわせてやる!」
侍大将は武士として領民相手に退いたことに屈辱を感じていた。それとともに元長の采配にも不満を感じていた。
武士の面子にこだわりすぎるのも、いかがなものか、と。
刃にかけらてゆく領民の中には、女子供もいた。が、目もくれない。欲しいのは金子元宅の首。
その悲惨な殺戮の様子は城からも見えた。
「おのれ!」
まさか毛利軍がこのような暴挙に出ようとは思いもしなかった。元宅は歯噛みして城から飛び出ようとするが、それを元春や義光らが止める。
「止めるな!」
「ならん、ならんぞ兄者、命を粗末にするな!」
「うぬらは、無垢の民がむざむざと殺されるのを黙って見ろと言うのか」
「違う違う。ここで血気にはやり飛び出しても犬死にするだけじゃ」
「ならどうすればよいのだ!」
元宅が早々に長宗我部の軍門に降ったのも、家や領土のみならず領民を守るためであった。そこには伊予武士としての面子よりも、ひとりの人間としての元宅があった。
「ここはわしが引き受けた。兄者は高尾城に行け!」
そう叫ぶや、元春の拳が元宅の頬にぶち当てられ。衝撃で元宅は気を失った。
「元春殿!」
「義光殿、兄者を頼んだ!」
「……!」
まさか兄を殴るなど思いもしなかった義光は気を失い郎党に支えられている元宅を見て絶句したが、毛利軍は足元まで迫っている。ここは逃げるしかない。逃げて少しでも長く生きて、反撃の機会をうかがうのだ。
そのために、元春が犠牲になるという。
「四の五の言わず行け!」
義光に叫びながら元春は槍を握りしめて城を飛び出してゆき。その後ろをわずかな郎党たちがついてゆく。
「すまぬ、元春殿」
唇をかみしめながら義光は馬に飛び乗り、それから郎党から元宅を引き受けて。力いっぱい駆け出した。
その間に押し寄せる毛利軍の勢いが鈍った。ただやられてばかりいる領民たちではなかった。
「この野郎!」
と口々に叫びながら素手でも毛利軍の将兵につかみかかって必死の抵抗をこころみた。そこに元春がくわわって、城下は大混戦の様相を呈した。




