EP 5
「た、助け……っ! 金なら出す! 隠し持ってる金が——」
「いらない。君を消せば、その隠し場所も力武が特定して、村の運営資金に回してくれるから」
リアンの指が、冷酷に引き金にかかる。
「あばよ。来世では、欲をかく相手を間違えないことだ」
——『ゼロ・インパクト』。
(ボシュッ!)
銃声ではない。鈍く、重い、肉を叩くような音がした。
銃口剣の刃を額に密着させた状態での、至近距離射撃。
弾丸は標的を貫通せず、その頭蓋の中で全てのエネルギーを解放し、脳を攪拌する。
「……あ、……」
猪耳族の部隊長は、外傷一つないまま、光を失った瞳を剥いて崩れ落ちた。
影丸がその亡骸を静かに地面へと横たえる。
リアンは銃口剣の熱を逃がすと、空間から別の『召喚獣』を呼び出した。
「——喰丸、掃除の時間だ。一人残らず、跡形もなく食べろ。血の匂い一つ残すなよ」
影の中から現れたのは、三十センチほどの、一見可愛らしいワーム。
だが、その口が裂けるように開くと、異次元の胃袋を晒した。
(ジュルルッ……、ゴキュ、ゴキュン!)
喰丸は、意識を失った傭兵たちと死体を、文字通り『掃除機』のように吸い込んでいく。
武具も、衣類も、その存在の証左となる全てを。
数分後、そこには踏み荒らされた草木以外、何も残っていなかった。
「……ふぅ。やれやれ、これだから夜戦は効率が悪くていけない」
リアンは手袋を脱ぎ、魔法ポーチへ収める。
影丸と喰丸、そして上空の竜丸とミニ丸たちが、主人の影へと溶け込むように戻っていった。
夜の森は、再び元の静寂を取り戻す。
数時間後には太陽が昇り、またいつも通りの平和なポポロ村の朝が来るだろう。
* * *
翌朝。
「ふわぁぁ……おはようございます、リアンさん」
ウサギ耳を揺らしながら、キャルルがリビングに降りてきた。
昨夜の過労が嘘のように、顔色はつやつやとしている。
「おはよう。よく眠れたか?」
「はい! なんだか不思議なくらい、ぐっすり眠れましたぁ。悪い夢も一つも見ませんでしたし!」
「それは良かった。今朝は、昨日ネット通販で買った『高級厚切り食パン』でハニートーストを作ったんだ。ルナが暴走して持ってきた、あの純金みたいな蜂蜜をたっぷりかけてな」
「はわわっ! あの濃厚なやつですね!? 早く食べたいですぅ!」
キッチンから漂う、甘く香ばしい香り。
そこへ、寝癖だらけの髪をかき上げながらリーザも飛び込んできた。
「リアンさん! 私の分のパンの耳は!? ちゃんと蜂蜜ついてますか!?」
「耳じゃなくて、今日はちゃんと中身も食え。アイドルは体が資本だろ?」
「うっひょぉぉ! リアンさん、やっぱり神です! スパチャできない代わりに、お皿洗いますからぁ!」
平和な朝の光景。
昨夜、この森で数十人の命が消えたことなど、誰も、露ほども知らない。
リアンは、幸せそうに頬を張る彼女たちを眺めながら、自分用のコーヒーを一口すすった。
「(……さて、次はどこのネズミが来るかな)」
微かな微笑みを浮かべながら、リアンは今日もまた、三ツ星シェフの腕を振るい続ける。




