表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
李牧(りぼく)転生する  作者: ヴァンドール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/51

9話(別れ)

 あれから数日が経った頃。

 王城の謁見の間に、李牧の姿があった。


 彼の前にはアザニールの王、ソマリオが立っている。


 まだ若い王だが、彼には確かな自信がみなぎっていた。


「軍師殿。あなたのおかげで、この国は救われました」


 その言葉に李牧は軽く頭を下げた。


「私は少し知恵を出しただけです。戦ったのは兵士たちですよ」


 ソマリオは首を振る。


「その知恵がなければ、王都はとうに帝国の手に落ちていました」


 しばらく沈黙が流れた。そして。


「もしよければ、この国に残ってはもらえませんか」


 李牧は少し驚いた顔をした。


「あなたがいれば、アザニールはもっと強くなれます」


 李牧はしばらく考え、言葉を選んだ。


「ありがたいお話です。しかし私は、長く一つの国に留まる男ではないのです」


(使命は果たした。そろそろ神から呼び戻されるはずだ)


 ソマリオは残念そうに息を吐いた。


「そうですか……」


「ですが、案ずることはありません。今の陛下は以前とは比べものにならぬほど(たくま)しくなられた。間違いなく、あなたは立派な王になられます」


「軍師殿の知恵に助けられ、ようやくここまで来られた身です。良き王になれるかどうか、本当はその目で見届けて欲しかった」


 ソマリオはしばらく黙っていたが、ついには諦め顔になった。


「……でしたら、またいつか会えますか?」


 李牧は少しだけ考え、それから軽く首を振った。


「それは分かりません。戦のあるところで、またお会いするかもしれません」


 李牧はふっと目を細め、いたずらっぽく付け加えた。


「もっとも、私と再会しないことこそが、平和な世を築いたという証しかもしれませんよ」


 ソマリオはその言葉を噛みしめるように目を閉じた。


「どうかお元気で、李牧殿」


 顔を上げたとき、李牧はすでに背を向けて歩き出していた。


 やがてその姿は遠ざかり、まるで最初からそこに誰もいなかったかのようだった。



 城門の外では、レイヴァが待っていた。


 李牧の姿を見ると、にやりと笑う。


「王様に引き止められていたのかい?」


「少しだけ」


「それで次はどこへ行くのさ?」


「まだ決めていません」


 李牧は空を見上げた。


「そろそろお呼びがかかる頃かと」


「誰からさ」


 李牧は答えなかった。


「まぁいいさ」


(どうせ神からだろう? あたしもそろそろ上に戻るとするか。神との約束も果たしたことだしな。『レイヴァ、身体貸してくれてありがとうな』あたしが身体を離れても記憶は残るって言ってたからな。あとは頼んだよ)


 そして彼女は李牧に右手を差し出した。


「いつか、約束通りもう一度やろうじゃないか」


 李牧はその手を見て、笑った。


「ええ。その時は、またお相手願います」


 レイヴァは満足そうに頷いた。 


(次はいつになるのかね。それこそ神のみぞ知るってやつか)


 そう心で呟いて、ふっと笑った。


 二人はそれ以上言葉を交わすことなく、それぞれ逆の方向へと歩き出した。

 李牧の背中が、地平線の彼方へと消えていく。


 振り返ることはなかった。


 それでも、その背中に託されたものは、確かにこの国に残り続ける。


 戦を避け、命を繋ぐという選択。

 その小さな積み重ねこそが、やがて国を支えていく。


 ソマリオは知らぬうちに、それを受け継いでいくだろう。


 だからこそ、この別れに悲しみはない。

 それは次へと続いていくためにも必要なことだから。


 アザニールの戦いは、こうして幕を閉じた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ