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李牧(りぼく)転生する  作者: ヴァンドール


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29/51

29話(いざ桶狭間の戦い)

 出陣の合図が、清須城に響いた。


 城門が開き、兵士たちが次々と外へ出ていく。


 先頭には、(よろい)を纏った一人の男、織田信長がいた。その後ろに、李牧と韓信が続く。


 空は暗く、今にも雨が降り出しそうな気配だった。

 まるでこの戦の行く末を暗示するかのように。


 韓信が空を見上げ、笑った。


「いい空だ」


「ええ。これから荒れます」


 李牧が含みのある言い方をした。


「雨か?」


 信長が聞く。


「おそらく」


 李牧は笑って答えた。


「雨は、敵の注意力を削ぎ、我らにとって最高の隠れみのになります」


 韓信が肩をすくめた。


「討ち取るには好都合だな」


 信長は豪快に笑った。


「よし、行くぞ!」


 尾張の兵は、進んだ。


 やがて空が暗くなり、雷が鳴った。それはまるでこの戦の始まりを告げる合図のようだった。


 そして突然、大粒の雨が降り始める。


 兵たちは濡れながらも進み続けた。誰一人として立ち止まる者はいない。


 一方その頃。


 今川軍は桶狭間の谷間に陣を張っていた。


 大軍は長い移動の疲れから、各所で休んでいた。


 酒を飲む者。鎧を外して休む者。勝利を疑う者は、誰一人いなかった。

 そう、勝利は、すでに決まったものと信じていたからだ。

 今川義元もまた、陣の奥でくつろいでいた。


「尾張など、明日には終わる」


 義元はそう言って笑った。


 その時だった。雨の向こうで、何かが動いた。


 次の瞬間。


「敵襲ッ!!」


 怒号が響いた。雨を切り裂くように織田軍が突入した。


 その先頭にいたのは信長だった。


「かかれぇ!!」


 わずか二千の兵が、三万の軍へ突っ込んだ。

 その速さは、まるで嵐のようだった。


 今川軍は完全に混乱した。


「な、何だ!?」


「敵だ! 敵襲だ!」


 逃げ惑う兵。武器を探す兵。

 隊列はあっけなく崩壊した。


 韓信はその様子を見て笑った。


「終わりだな」


 李牧は前を見据える。


「大将はあちらです」


 雨の向こうに、旗が見えた。それは今川軍の指揮官を示していた。


 信長は叫んだ。


「義元の首を取れ!」


 激しい斬り合いが始まった。

 そんな中、一番槍が義元に向かった。

 そして、次に、一人の武士が義元の前へ躍り出た。

 刃が煌めき、その瞬間、首が討ち取られた。


 今川義元は、その場で倒れた。

 その死は、あまりに呆気なかった。

 大将の死は、瞬く間に軍へと広がった。


「義元様が討たれた!」


 その瞬間。三万の軍は崩れた。

 逃げる兵たち。


 桶狭間は一瞬で地獄となった。

 そして雨は、いつの間にか止んでいた。


 そこに信長は立っていた。足元には、今川義元の首。


 信長はそれを見下ろし、笑った。


「終わったな」


 韓信が頷く。


「思ったより早かったな」


 李牧は空を見上げた。


「これで尾張の戦は変わります」


「変わる?」


「ええ。今日から、織田信長の名は天下へ広がります。貴方は時代を動かす最初の一歩を踏み出したのです」


「これで、ようやく戦乱の世の、終わりの一歩が始まったな」

 

 韓信は笑いながら言った。


(二人は神との約束を思い出していた)


 信長は刀を収めた。


「終わりの一歩? まだ踏み出したところか。ならば見ていろ」


 信長の目が光った。


「俺がこの戦乱の世を終わらせてみせる」


 その言葉を聞きながら、李牧は思った。


(この男は戦乱の世を終わらせる王ではない。しかし、この男こそその道を切り開く王なのだ)


 こうして桶狭間の戦いは終わった。


 しかし、それは、戦国の世を終わらせる戦いの始まり、そう、まだ最初の一歩に過ぎなかった。


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