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李牧(りぼく)転生する  作者: ヴァンドール


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25/51

25話(清須城)

 その頃。那古野城の奥では、軍議の間に続く廊下を、一人の女性がゆっくりと歩いていた。


 それは濃姫だった。


 障子の向こうから、家臣たちのざわめきが聞こえてくる。


「本気か!」


「無茶だ!」


「どうやってあの城門を開けるというのか!?」


 濃姫は思わず笑った。


「ふふ」


 声を潜め、呟いた。


「やはり始まりましたか」


 彼女は静かに障子に手をかけた。そしてそっと開けた。


 すると軍議の間にいた全員が一斉に彼女を見た。


「濃姫様!」


 重臣の一人が慌てて声を上げた。

 しかし、濃姫は気にも留めず、ゆっくりと室内を見渡す。


 そして、二人の男を見た。

 李牧。そして韓信。


 その瞬間、濃姫の口元がわずかに緩んだ。


(久しぶりだな、李牧殿。アザニールの城門で別れて以来か)


 濃姫の中の楊端和が懐かしむ。


 李牧の目もまた、一瞬だけ濃姫を見た。


(変だな。初めて会うのに懐かしさを感じる)


 濃姫は信長の隣に座った。そして何気ない口調で話しかけた。


「殿。随分と面白い話をしているようですね」


 家臣たちが慌てている。


「濃姫様、これは軍議でして」


「知っています」


 濃姫は軽く手を振った。

 そして李牧と韓信を見た。


「ここにいる二人が、どんな話をするのか興味があるだけです」


 室内が凍りついた。重臣が声を上げた。


「濃姫様!?」


「清須城は確かに尾張の要。あそこを落とせば、尾張の流れは一気に変わるはず」


 濃姫はそう言いながら信長を見た。


「そうですよね。殿?」


 信長は黙って濃姫を見ていた。そしてふっと笑う。


帰蝶(きちょう)そなたもやはりそう思うか。これで皆の考えが一致したな」


 濃姫(帰蝶)は肩をすくめた。


「ただし」


 そして韓信を見た。


「どうやって落とすか、そこは詳しく聞かせてもらいたい」


 韓信はにやりと笑った。


「いいぜ。清須城ってのはな、守りは固い。だが中に内通者がいれば簡単だ。外には強いが内には弱いんだ」


 韓信が語り始める。


 その横で、濃姫(楊端和)は黙って李牧を見ていた。


 李牧もまた、彼女からの視線を感じていた。


(何故だ? やはり懐かしさが漂う)


 濃姫の中の楊端和が心の中で問う。


(李牧殿。さて、どう出る?)


 そして目を細めた。


(この城は今日から変わる)


 李牧。韓信。そして信長。

 三人の天才がここに揃ったのだから。


 濃姫(楊端和)は心の中で笑っていた。


(さて、どこまで楽しませてくれる? この戦国の世を)


ーーーー


 数日後。

 尾張の夜は、静かだった。


 城の外には、兵たちが待機していた。

 いよいよ出陣である。


 先頭に立っていたのは、織田信長だった。

 その姿は、世間で言われる『うつけ』とはまるで違う。


 信長は馬上から兵を見渡した。


「清須へ向かう」


 兵たちの目が一斉に光る。


 信長は振り向いた。そこに立っていたのは、落ち着いた雰囲気の武将、叔父の織田信光。


「叔父上。城の中は任せた」


 信光は頷いた。


「お任せくだされ。では先に向かう」


 その目は鋭かった。


 清須城の者たちは信光を味方だと認識していた。それが、この戦のすべてだった。


 少し離れた場所で、韓信がその様子を眺めていた。


「面白いな」


「何がです?」


「信長って男だ」


 韓信は笑った。


「天下を取る奴ってのは、どこか似てる」


「ええ」


「この男は、確かに戦の先を見ている。だったら、その戦を勝たせるのが俺たちの仕事ってわけだな」


 その時だった。後ろから声がした。


「勝たせる、じゃない」


 二人が振り向くと、そこに立っていたのは、濃姫、信長の正室だった。


 しかし、その目は、ただの姫のものではない。中には楊端和の魂が宿っている。

 濃姫は腕を組み、二人を見た。


「勝つのです」


 韓信が笑う。


「随分自信があるんだな」


 濃姫の口元は笑って見えたが、瞳は鋭かった。


「当たり前です。殿がそう簡単に負けるわけがありません」


 李牧は少しだけ目を細めた。


(この挑戦的な目、どこかで……)


 何故か『黄河の女王』楊端和の顔が浮かんだ。


 今度は濃姫の中の楊端和がふっと笑った。


「それに、ここには天下の軍師が二人もいるのですから」


 李牧は不思議な顔をした。


(何故我々が軍師だと知っている?)


 しかし、李牧は問わなかった。何故か聞いてはいけないような気がした。


 韓信が肩をすくめた。


「奥方。買いかぶりすぎだ」


 濃姫は首を振った。


「いいえ、そんなことは決してありません。今夜、間違いなく歴史が動きます」


 その時、信長の声が響いた。


「行くぞ!」


 兵たちが動き出した。

 軍勢は勢いよく、しかし確実に進み始めた。


 目指すは清須城。尾張の命運を握る城だ。

 城内ではすでに、信光の仕掛けた罠が動き始めていた。


 やがて城門が開く。

 その瞬間。尾張の歴史が変わる。


 李牧、韓信、楊端和。


 時代を越えた三つの魂が、ついに戦国の世で最初の戦を迎えようとしていた。

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