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李牧(りぼく)転生する  作者: ヴァンドール


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23/48

23話(新たな転生先)

 光が収まった。

 李牧が目を開けると、そこは粗末な寺の一室だった。


 畳は古く、破けた(ふすま)の戸からは隙間風が入り込む。人が住んでいる気配は感じられなかった。



 自分の体を見ると以前ほど痩身ではなく引き締まった肉体になっていた。


 隣で、もう一人の男がゆっくりと起き上がる。彼は長身で鋭い眼差しをしている。


 かつて戦場で幾万もの軍を率いた男。

 韓信だった。


 彼は黙って天井を見ていたが、しばらくしてから口を開いた。


「李牧殿」


「何でしょう」


 韓信はゆっくり体を起こした。


「一つ、聞いてもよろしいか」


「どうぞ」


 韓信は、わずかに目を逸らした。

 あの国士無双と呼ばれた男が珍しく言葉を選んでいるようだった。


「なぜだ」


「?」


「なぜ、そこまで俺に(こだわ)る」


 李牧は黙って聞いていた。


「俺の魂が彷徨(さまよ)っているとき、李牧殿は神に掛け合ってくれたそうだな」


 その声は、いつもの自信に満ちたものではなかった。


「礼は言う。確かに彷徨(さまよ)いながら処刑間際の光景がなんども繰り返され、たまったものではなかったからな。しかし軍師殿にそこまでされる理由が、俺には分からん」


 寺の中に隙間風が吹いた。


「理由ですか。簡単ですよ」


 李牧は真剣な眼差しを向けた。


「貴方ほど報われるべき男を、私は他に知りません。実はこの言葉、本当は私が前に神から言われた言葉なんですがね」


 韓信の目がわずかに動いた。


「貴方の才能は、本来なら天下を動かすものだった。それが猜疑心と権力争いの中で潰された。そんな結末は、あまりにも理不尽だ」


 韓信は涙を(こら)え、聞いていた。


「貴方は本当に変わった男だな」


「よく言われます」


 韓信は立ち上がった。


「せっかくのその好意、裏切るわけにはいかんな」


「ええ。是非そう願います」


 李牧は笑った。そして韓信に笑顔を向けた。


「この乱世を終わらせるため、立ち上がろうとしている男がいます。まずはその者に会い、二人でその戦いに力を貸すのです」


 韓信は口の端を上げた。


「決まりだ。つまり、その男こそが戦乱の世を終わらせるための礎になるんだな」


 その目が鋭く光る。


「神の使命とやらをやり遂げて、魂を浄化しなけりゃ天界とやらには行けないんだろ? だったらやるしかないさ。あの狭間の世界はまるで地獄だったからな」


 李牧は頷いた。


「まずはいずれ王になるその男に、これから会いに行きましょう」


 この日ノ本には、数多くの戦国大名がいる。  

 神から与えられた知識の中で、ひときわ異彩を放つ名があった。


 尾張の若き当主。彼は常識に囚われぬ奇抜な振る舞いから、世間では『うつけ者』とさえ呼ばれていた。


「韓信殿。この国の尾張には、面白い男がいます」


「ほう」


「名は織田信長」


 韓信は腕を組んだ。


「聞いたことのない名だな」


 李牧は思わず笑った。


「当然でしょう。初めて来た国なのですから。それより、彼はまだ若い当主ですが、天下を狙っています」


 寺の中に風が吹き抜け、その瞬間、韓信の目がわずかに光った。


「天下だと?」


「ええ。この戦乱の世で、誰もが望みながら、誰もが口にすることを恐れた言葉です」


 韓信はしばらく黙っていたが、突然、にやりと笑った。


「面白い」


 その笑みは、かつて大軍を指揮した男の顔だった。


「その男、本当に天下を取れると思うか」


 李牧は迷わず言った。


「取れるかどうかではありません。私たちが取らせるため、力を貸すのです」


 韓信は口の端を上げた。


「なるほど。気に入った」


 鋭い目が光った。


「天下を狙う王か。ならば、その顔を見に行くとしよう」


「ええ」


 こうして二人は寺を出た。


 



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