22話(幕間)
李牧と韓信。
二人の魂は、新たな使命を背負い、光と共に次の世界へと向かっていた。
その光を、少し離れた場所から見つめている女性がいた。
彼女の名は楊端和。
「まったく……」
彼女は腕を組み、どこか呆れたように、それでも少し楽しそうに笑っていた。
李牧のまっすぐすぎる忠義も、韓信の危ういほどの才能も、どちらもよく知っている。
ずっと上から見ていたからな。
だから、あの二人だけで乱世に放り込めば、どうなるかなど想像に難くない。
「また無茶をするに決まってる」
ぽつりと呟くと、楊端和は神の方へ振り向いた。
そして、いつもの調子で神に尋ねた。
「ちょっと神よ。今度の世界にあたしの魂が宿れる器はあるのかい?」
「んーないこともないのですが」
神は少し困ったように笑った。
「ただ、その器はですね、少々やっかいな立場にあります」
楊端和は腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。
「やっかい?」
「ええ。次の世界で、あの二人が仕えることになる王の妻です」
楊端和の眉がぴくりと動いた。
「ほう。で?」
「その王は強い心と、埋もれた才能を見出す天才です。しかし、その歩みがあまりに早すぎる。ゆえに周囲は彼を恐れ、常に戦がつきまとうのです」
「戦がつきまとう? 望むところだ。退屈しなくていいじゃないか」
楊端和は口元をゆるめた。
神はそんな楊端和に少しだけ苦笑した。
「ただし一つ、問題があります」
「まだあるのかい?」
「その器はすでに役目を背負っています」
神は真剣に言った。
「父と夫、二つの大きな勢力の狭間に立たされながら、夫を天下人へと導く役目です」
楊端和の目が、わずかに鋭くなる。
「天下人ね」
「彼女は嫁ぐ際、父が『どうしようもない男ならこの刃で刺し殺せ』と言ったのに対し『もしかすると、この刃は父上を刺すことになるかもしれません』と返すほど強い女性です。かなりの覚悟が必要になるでしょう」
しばし沈黙が落ちた。
しかし次の瞬間、楊端和は豪快に笑った。
「はっ、なんだ。そんなことかい」
そして肩をすくめた。
「黄河の女王と呼ばれていたあたしが今さら覚悟を問われるとはね」
今度は神がにこやかに彼女を見つめた。
「本当に良いのですか?」
「面白そうじゃないか」
そう言って、楊端和もにやりと笑った。
そして彼女は、既に下界に向かった光の先を見つめた。
そこには、次の世界へ向かった二つの魂、李牧と韓信の光の残像があった。
「あの二人を放っておくと、ろくなことにならないからね」
「やはり行かれるのですね」
「当たり前だろう」
楊端和は言った。
「李牧殿、また無茶をするに決まってる」
そして、ふっと優しく笑った。
「今度も少しだけ手を貸してやるさ。もっとも奴との勝負はまだ終わってないけどさ」
「それならば早速、あなたの魂をその器へ導きましょう」
神は静かに告げた。
「その器の持ち主、彼女の名は」
光が大きく揺らいだ。
「帰蝶。後に、濃姫と呼ばれる女性です」
楊端和は一瞬だけ目を細めた。
「帰蝶か。いい名じゃないか。濃姫は柄じゃないけどな」
そして、次の瞬間、彼女は光の残像へと導かれていった。
「戦国の世へ、いってらっしゃい。楊端和殿」
そして、光が消えた。




