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李牧(りぼく)転生する  作者: ヴァンドール


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21話(魂の救済)

 漢の天下統一後、李(李牧)は自ら引退を願い出て、平穏な隠棲生活を送っていた。 


 彼は、劉邦の猜疑心を招くことなく、『忠義が踏みにじられぬ』という神の加護を全うした。

 なのに少しも魂は救われたとは感じなかった。


 彼の心には、決して消えない残像があった。


 それは、謀反の罪を着せられ、無残に処刑された韓信の姿だった。


(私は、自分の魂を救うためにこの世界に来た。確かに私の忠義は報われた。だが、それで本当に魂は救われたと言えるのか? それはただ韓信の忠義と命を代償にして得たものではないのか?)


 李は、静かに目を閉じた。


『やはり、こんなことで魂が救われるはずはない』


 友であった韓信を見捨てたという後悔が彼にずっと付きまとっていた。


 ある夜、李の寝床にかつて転生の際に李を導いた強烈な光が再び現れた。


「李牧殿。貴方は、与えられた使命を完璧に成し遂げた」


 李牧は光に向かって、深く頭を下げた。


「神よ。それでも私の魂は、まだ救われてはおりません。韓信の魂は今も理不尽な運命の中にあります。彼が救われぬ限り、私もまた救われることはないでしょう。どうか彼に、もう一度だけ、報われる機会をお与えください」


 光は一瞬揺らぎ、声が響いた。


「それは叶わぬ。貴方は純粋な忠義を貫いたのに報われなかった。だが、韓信は異なる。彼は、自身の才能と野心により、主君を恐れさせた。彼は『忠義』ではなく『野心』によって身を滅ぼした。彼の理不尽は、彼自身にも原因がある。ゆえに、彼の魂に新たな機会を与えることはできぬ」


 神は、『忠義が報われなかった』李牧と、『野心により王権を脅かした』韓信の死は、その性質が異なると指摘した。


 李牧は、神の言葉を否定しなかった。しかし、彼は知恵の限りを尽くし神の説得にかかった。


「神よ。確かに彼は野心を抱きました。しかしそれは、国士無双の才を持つ彼が、王という立場に縛られた劉邦に恐れられた結果にすぎません。彼は忠誠を尽くしました。それでも、その才能があまりに大きかったため、忠義を証明することができなかったのです」


 李牧は、静かに言葉を続けた。

 

「あなたは私に、理不尽に忠義を裏切られないための『知恵と力』を授けてくださいました。しかし、その力が真に輝くのは、私と同じように運命に踏みにじられた者の魂が救われたときだけなのです。私は、彼の悲劇的な結末(歴史)を変えることはできませんでした。ですが、ボロボロになった彼の心を救うチャンスだけは、まだ残されているはずです」


 李牧は、自分自身の魂の解放のすべてを賭けて、最後に最大の願いを口にした。


「どうか、韓信の報われなかったあの圧倒的な才能に、もう一度だけ光を与えてください! 私が救われたのは、あなたが『お前ほど報われるべき者はいない』と認めてくださったからです。韓信もまた、その才能を泥にまみれさせることなく、純粋に発揮できる場所を与えられるべき男なのです!」


 その言葉は、沈黙を守っていた神の心に深く響いた。自分の安らぎを捨ててまで、他者の救済を叫ぶ李牧のあまりにも純粋な祈りに、ついに神が折れたのだ。


「いいでしょう、李牧殿。貴方の願いを受け入れましょう。貴方は、自分の忠義を賭けて、彼の才能を証明したのです」


 光は二つに分かれ、一つは李牧を包み、もう一つは韓信の魂が囚われている別の空間へと伸びた。


「それでは貴方たち二人に、新たな使命を与えます。次の世界は、多くの才能が衝突し、戦乱が絶えぬ時代です」


 神の声は、強いが、静かだった。


「貴方たち『忠義と才能』の二人が協力し、争いの種を減らしなさい。貴方たちの知恵と武をもって、戦乱の世を終わりへと導き、流れる血を最小限に抑えるのです」


 神はゆっくりと言葉を続けた。


「一人の王だけで戦乱は終わりません。

しかし、時代を動かす王は必ず現れます」


「貴方たちは、その王を見極め、補佐しなさい」


 静かな声だったが、重みがあった。


「それが、貴方たち『報われなかった忠義と才能』への機会です」


 そして神は、二人を見つめるように言った。


「李牧殿。貴方は忠義の将でした。しかしその忠義は国と共に滅びました」


「韓信殿。貴方は、真の国士無双でした。しかしその才は主君に疑われ、命を落としました」


 神の声が少し柔らいだ。


「だからこそ、今回は二人なのです」


「忠義と才能。どちらか一つでは、世は変わりません。互いの弱点を補いなさい」


 そして最後に言った。


「今度こそ二人で最後まで生き延びるのです。それこそが、貴方たちの魂の浄化へと繋がります。ただし、気をつけてください。もしその世界で命を落とすようなことがあれば、二度とこちらには戻ることは叶いません」


 すると韓信が言った。


「大丈夫だ! 俺は二度も殺される気はねえ」


 それを聞いた神はふっと笑った。


 そして、李牧は、こちらに呼ばれた韓信の魂と共に再び光に包まれた。


「承知しました。今度こそ、二人で」


 李牧と韓信。二人の天才軍師の魂は、互いの過去と未来を背負い、新たな使命を胸に、次の世界へと旅立った。

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