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李牧(りぼく)転生する  作者: ヴァンドール


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2話(李牧、小国アザニールに転生する)

 戦場において、その男の名が轟いた瞬間、戦局は大きく一変する。


 敵は恐怖し、味方は歓喜する。


 ただその男が一人いるだけで、兵法の常識さえ覆してしまう圧倒的な存在。


 その名は、李牧(りぼく)


 しかしその男は、すでに一度、仕えていた王に裏切られ、処刑されたはずの男だった。


ーーーー


 小国アザニール、緊急の召喚。


 李牧が次に目を開けたとき、そこは巨大な魔法陣の中心だった。


 青い光が床を走り、その奥では玉座に座る若き国王が息を呑んで見ている。


「しょ、召喚は成功したのかっ!? 本当に軍師を呼べたのか!」


(どうやら、ここが神の言っていた異世界というやつか)


 李牧は静かに立ち上がった。


 纏っていたものは、いつの間にか鎧に変わり、身体はかつての姿よりもほんの少しだけ、若返っていた。


「よ、ようこそ我が国アザニールへ。そなたの名は? どこから来た者だ?」


 若き王が震えた声で近づいてくる。

 側近たちは明らかに不安気で、兵士たちは剣に手を添えたまま固まっていた。


 李牧は軽く一礼した。


「李牧。かつて、とある国で軍を率いていた者です」


「ということは、ぐ、軍師! 本当に軍師殿を呼べたんだ! や、やった!」


 王はあまりにも嬉しそうに両手を握りしめる。


(軍師としての召喚? 神よ、これは貴方の采配か?)


 ふと、頭の奥底に妙に明るい光が灯る。

 自分の中の戦術が以前よりも鮮やかに広がっていくのを感じた。


(なるほど、これが加護というものか)



 状況説明はあまりに簡潔だった。


 このアザニール王国は、隣国コザイル帝国から攻め込まれているという。

 国境の砦は落とされ、王都まであと数日。

 この国には、強い将軍もなく、戦術に長けた者が誰一人としていない。

 ゆえに、神殿は最後の賭けとして『異世界召喚』を行ったという。


「軍師殿! どうか助けていただけませんか! 我が国は弱小、軍も疲弊し、もはや風前の灯です」


 若き王は必死に頭を下げた。

 その姿は痛ましいほど真っ直ぐで、李牧の胸に小さな痛みが走った。


(ああ……こういう真っ直ぐな王を、私は欲していたのだろうな)


「分かりました。まずは敵軍の情報をもっと詳しく教えていただきたい」


「は、はいっ! 今すぐに!」


 李牧は早速、冷静に情勢を読み始めた。

 敵は大国。こちらは小国。戦力差は十倍近く。


 しかし、


(勝てぬ戦ではない)


 何故なら、私自身には神より賜った加護がある。


 (神よ。貴方は『思うように生きよ』と言った。

 ならば、今度こそ、己の策で守り、勝ち、救うのだ。真に己を必要としてくれる王と、この国を)


 さて。兵の質も、武器も、地形も、李牧のいた世界とはあまりにも違う。

 だったらこちらの世界の戦い方か……。


「まずは、敵軍を迎え撃つ前に、この国の兵の意識から変えねばなりません」


 若き王が息を呑む。


「軍師殿、我々に、勝てる道があるのですか?」


「もちろんです。道は常に一つではありませんよ」


 李牧は若き王の瞳を見ながら微笑んだ。


「これよりアザニールの戦いを、アザニールにしか出来ない戦いを始めましょう!」


 今まで、無能と馬鹿にされた兵たち。


 李牧は王都の訓練場に立ち、目の前に並ぶ兵たちを眺めた。


 槍を逆に持っている者が三名。

 鎧を前後逆に着ている者が二名。

 そもそも鎧を着てこない者が十名。

 なぜか木刀しか持っていない兵が三十名。


 李牧はほんの少しの溜息を漏らしながら、尋ねた。


「あなた方は、普段どのように訓練を?」


「反乱の見張りです!」 


「あと、体力づくり? らしきものを」


「たまに走ります!」


 らしきものとは、たまにとは、なんだ。


 李牧は思わず眉を押さえた。


(これは、軍ではない。村の青年団でも、もう少し統制があるのでは?)


 王が申し訳なさそうに口を開いた。


「す、すみません、我が国には軍師も教官もおらず、これまでは勢いで戦ってきて……」


「勢いで戦って勝てるなら、苦労はしませんよ。にしても、これで勝ったことがあるなら、それはそれで凄いことですが」


 李牧はフッと笑みを零す。そして、叱責ではなく、優しく語りかけた。


「よいでしょう。ならば私が教えます。まず、兵に必要なのは、奇跡ではなく、正しい基礎です」


 兵士たちはぽかんと李牧を見ていた。


「複雑な訓練は不要です。まずは三日で、『あなた方を軍にする』」


「み、三日!?」


 それを聞き、王ですら椅子から転げ落ちそうになった。


 李牧は微笑んだ。


「軍とは、数ではなく秩序。秩序とは、統制。

 統制とは、つまり揃うことです」


 この日から、アザニール軍の地獄の基礎訓練が始まった。


 揃うだけでも兵は強くなる。

 李牧が彼らに、課した訓練は、驚くほど地味だった。


 まずは歩幅の統一。そして槍の構え方。次に

 素振りの練習。最後に列の維持。


 ただそれだけで、兵たちは日に日に変わっていった。


「な、なんだか俺たち、足並みが揃ってるぞ?」


「槍の先が、きれいに一列だ!」


「わ、我々、なんだか兵士っぽいぞ!」


 兵士たちは単純なことを、誇らしげに喜んだ。

 李牧はそんな彼らの表情に、胸の奥がふっと温かくなるのを感じた。


(あなた方は弱いのではない。ただ教えられてこなかっただけだ)


 そんな光景に、報われなかったあの頃の自分が、微かに重なる。


「よくやりました。では次は、盾の扱いを教えましょう。この世界では軽視されているようですが、戦場では最も重要です」


 兵士たちは真剣に頷く。


 李牧は思う。


(今度こそ、私は守りたい者を守る)


ーーーー


 同時刻、敵国コザイル帝国軍にて。


 ここは、コザイル帝国軍の前線。

 贅沢な天幕の中で、将軍ザイールは報告を受けていた。


「将軍! 偵察隊が戻りました!」


「どうした?」


「アザニール軍がその……妙な訓練をしています!」


「妙な訓練だと?」


「はい! 兵が全員、同じ動きをしています!」


「同じ動きをするのは普通の訓練だろうが」


「い、いや、それがですね……妙に揃いすぎておりまして」


 偵察兵は震えながら続けた。


「まるで、達人に指導されたかのような統制でして、今までのあの弱小国に、そんな軍が存在するなど考えられません!」


 将軍ザイールは鼻で笑った。


「くだらん。今までの奴らにそんな芸当ができるはずがない」


 しかし、報告書の最後の一文を読んだ瞬間、その顔色が変わる。


「軍師らしき男が現れ、兵を統率している?」


 さらに小さな追記があった。


『男は、名をリボクと名乗った』


 ザイールは絶句した。


「リ、リボク? 今、この大陸のどこに、その名の軍師が?」


 副官が問う。


「将軍、どうされますか?」


「決まっておろう!」


 ザイールは手を震わせながら、叫んだ。


「全軍に通達! 敵軍に天才軍師が現れた可能性がある!」


「天才軍師!? それも可能性?」


「もしも、リボクという名が、わしの知る人物なら、この戦、想定より相当厄介だ!」


(まさか、古より伝え聞く、リボクという名……この世に生きているはずは……だがもし?)


 ザイールは言葉にできぬ、底知れない恐怖を直感的に感じていた。


 そして、風が変わる。


ーーーー


 その頃、李牧は訓練場で最後の号令をかけていた。


「止まれ!」


 三百名の兵が、寸分違わぬ動きでぴたりと止まる。

 その様子は、村の寄せ集めだった軍とはまるで別物だった。


 若き王は息を呑む。


「李牧殿、これは! 本当に我が国の軍なのか!」


 李牧は若き王を見ながら満足そうに笑った。


(さあ敵軍よ見るが良い。もはやかつての軍ではない、統制の極みに達したこの軍勢を)


 

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