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刺客のこだわり  作者: 実茂 譲
サキの滋味
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こってり脂の糕 五

 ヒチグ州から吹く潮風はこんなところまで届くのだ。

 振り返れば、いまは呪いを解かれた山々の蒼い影。

 今ごろ、複数の官署や大勢の役人たちが、今回の事件で名前が明るみに出るのをおそれ、ざっと一万角の賄賂がやり取りされることだろう。

 でも、まあ、全ての罪はロモクに着せられる。あの場をあの肥満体でどうやって逃げたか分からないけど、とにかくロモクは現在、行方不明。

 逃げるということは罪を認めることだ。

 これにて一件落着。


 ところで、この役人たちが真実を封印するためにキゴー他、女の子たちを殺さないよう、隠密裏に動かないといけなかった。

 時間はかかるが、やることは簡単。

 関係者たちの屋敷に夜、忍び込み、その枕元に短剣をぐさりと刺しておき、女の子たちを殺したら、お前も殺すと手紙を残す。

 キゴーたちが惨たらしいやり方で殺されたら、結局、わたしにとりつくのだから、これをしっかりしておかないと意味がない。


 そして、たっぷり一か月かけて、その仕上げ作業をした。

 いま、わたしたちは州境にある小高い丘でヒチグから流れてくる潮のにおいをかいでいる。

 森や丘の向こうには、海が青く帯のように広がっている。

「そろそろ行くか」

「うん」

 わたしとヒュンガは立ち上がり丘を降りた。

 緩やかに蛇行する道を歩き、ターメとヒチグの州境を示す小さな石像の前で足を止めた。

 振り返ると、五十八人の幽霊が嬉しそうに、わたしに向かって、手を振っていた。

 わたしもそれにこたえ、大きく手をふった。

 考えてみると、誰かに向かって、こんなに大きく手をふったのは生まれて初めてだ。


 ところで、ひとつの謎がまだ残っている。

 ロモクはどこに行ったのか?

 それは誰にも分からない。

 ただ、ひとつ。

 わたしがういろうをつくるのに使った豚の脂。

 ひょっとすると、あれは豚のものじゃなかったかもしれない。

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