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刺客のこだわり  作者: 実茂 譲
ヒュンガの清趣
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20/51

棺教徒 三

 その日の晩、おれたちは岩窟寺院で泊まった。蔓と蔦に覆われた、忘れ去られた寺院だった。

 伽藍には大きな石像があった。頭が鳥、腕は人、胴と足がヤギか何か。

 信じるものが絶えた、死んだ宗教だ。

 火を焚いても天井は見えなかった。

 その日の夕餉は米の割合が増えたアナグマ粥だった。もう、サキの椀を蹴飛ばそうとするものはいなかった。

 アコツダたちはおれたちから離れたところで四人で固まっていた。

 棺教徒は背は高かったが、細かった。首も腕も脚も細長かった。それでよくあの棺を背負えるものだと思った。棺教徒は棺のなかに生活用具を入れて旅をする。ただ、この棺教徒の棺には何が入っているのか分からなかった。生活に必要な椀や小鍋、短刀は肩から下げた袋に入れていた。

 ときどき、棺のなかからコツコツと音がした。一度、棺教徒が棺のそばを離れたことがあった。短い時間だったが、蓋がガタっと動き、開こうとした。棺教徒が戻ってくると、蓋は閉まった。

 サキは中身は眠りの呪いにかかった妻だと言った。

 芸亭小路の路上劇場でそんな芝居がかかっていたのを思い出した。


 翌日、マキタイ峠を越える直前に襲撃があった。

 矢が雨と降った。傭兵たちが次々と倒れた。そのあと、岩の上から斬り込んできた。

 乱戦だった。おれとサキ、棺教徒は三人で背を預けながら、死角を殺して、賊と斬り結んだ。

 何人も斬り殺すうちに、生き残った傭兵はおれたちだけになった。

「あーあ。お前ら、生き残っちまったのか」

 おれたちを囲う賊のなかからルサムの声がした。ルサムは足元で首を射抜かれて死んだアコツダの死体を蹴った。

「こいつに罪をなすりつけるつもりだったんだがな。逆恨みってことにして。まあ、最初はお前に罪を着せる予定だったんだが」

 ルサムとは長い付き合いだ。やつは運び屋だった。ずっと他人の持ち物を運んで暮らしてきた。金貨に目がくらんだ。おれを山賊どもの当て駒にしてもいいと思った。

 制裁は必要だが、問題は剣を連ねて、おれたちを取り囲む賊たちだった。

「遺言をきいておきましょう」

 棺教徒が言った。

 盗賊たちが笑った。ルサムも笑った。

「ヒュンガさん、サキさん」棺教徒が言った。「いいというまで、おれのほうを振り向かないでくださいね。絶対に」

 是非を問う前に、ガタンと棺の蓋が開く音がした。風を巻く音、地面をえぐった音、悲鳴、骨がボキボキ折れる音、ちぎれる音、賊たちの悲鳴。空気が血生臭い。ルサムの絶叫もきこえたが、グシャッと音がして、止んだ。

 ズルズルと音がして、生肉をぶつけ合ったような音がしてから、ガタンと棺が閉じる音がした。

「いいですよ」

 見ると、山賊たちが腰を抜かしていた。何人かは漏らしていたし、何人かは心が壊れたらしく、へらへらと笑っていた。ルサムが立っていたところには血だまりがあり、ちぎれた腕が一本、転がっていた。

「中身は秘密です」

 棺教徒は、ふふっ、と笑った。


 山賊たちを締めあげて、金貨を受け取るやつの名前をきいた。ルサムはおれたちに誰に対して、誰に金貨を渡すか教えなかったからだ。

 金貨の受け取り手は平屋に囲まれた屋敷にいた。ルサムが裏切ったことを話した。

「結局、やつはそこで終わりだってことだ。お前さんたちがやらなくても、わしらが必ずやった。この金貨はわしのものじゃない。わしも頼まれただけだからな。ひょっとすると、わしに頼んだやつのものでもないのかもしれん。そいつもわしやルサムみたいに依頼されたのかもしれない。ひょっとすると、金貨の持ち主なんていないのかもしれない。誰のものでもない金貨がぐるぐる世間をまわって、欲にかられた裏切者をあぶりだす。そういうものなのかもしれん」


 棺教徒は、自分はニセ棺教徒だとおれたちに告白した。

 前にも言ったが、おれは誰かの秘密を教えられるのが苦手だ。

「なかを見ますか?」

「やめておく」

 サキは少し迷ったようだが、結局やめた。


 次の日、サキはあの店で、例の美人局から報酬を受け取った。

 やつはサキに二百角も払った。


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