寄宿舎の裏手へ急ぐと、オイゲンの言ったとおり、糸杉の下にシャルがいた
寄宿舎の裏手へ急ぐと、オイゲンの言ったとおり、糸杉の下にシャルがいた。
「シャル!」
「エーベル?! なんだって、こんなところに」
中庭でぶつかったときとまったく同じ科白を口にするシャルが、たまらなく愛しくて、今度こそ、ぼくは思いきり抱きついてしまっていた。
すぐに離れはしたけれど、自分でも呆れるほどの浮かれようだった。
「オイゲンが偶然、気づいてね。一体いつから、いたんだい。風邪をひいたら大変だ。部屋まで来ればよかったのに」
「うん……でも、宿舎の階が違うってだけで、なんか入りづらくてさ。部屋の窓に石でも投げつけようかと思ってたところ」
「きみらしいな。実践前で、よかったよ」
狙った窓に当たるという保証も、その窓が割れないという根拠もないのに、さらりと言ってのけるきみ。
そんなシャルの変わらずの奔放さが、ぼくを惹きつけてやまなかった。
シャルはひと呼吸置くと、手にしていた物を差しだした。ぼくのノートだった。
「今朝落としたとき、僕の持ち物に紛れたんだと思う。すぐに気づけなくて、ごめん。授業、困らなかった?」
「ああ、それは――全然。気にするなよ。ぼくの不注意でもあったんだから。届けてくれてありがとう。それよりシャル、昼はこれからだよね。久しぶりにオイゲンと3人で食べないかい」
シャルは目をそらして押し黙った。
「……シャル?」
「ノートを返したかっただけだから」
断られるとは思ってなかった。
「そう……急な話だし、きみの予定もあるものね。じゃあ、明日の昼はどう?」
「明日の昼も、無理。たぶん、その先も」
「シャル……ぼくは、きみの気に障るようなことでも」
「だって、おかしいだろう。学年が違うのに会うなんてさ。僕らはもう、上級生と下級生なんだ。接触する理由が、ないじゃないか」
「なに言ってるんだよ。学年なんて、ただの枠組みじゃないか。ぼくたちが親友であることには変わりない。親友だからこそ、どんな立場になっても気兼ねなく」
「そういうエーベルはどうなのさ。はなから10学年までのつき合いしか考えてなかったんだろ。来年の1月に神学校へ移るだなんて話、僕は全然知らなかった」
胸が張りつめた。心が冷えていく。さきほどの高揚感が嘘みたいだった。
手の力が抜け、ノートが落ちる。喉がつまって声がかすれた。
「誰が、それを……」




