午前の授業が終わり自室へもどると、オイゲンが窓辺にもたれて聖書を
午前の授業が終わり自室へもどると、オイゲンが窓辺にもたれて聖書をひらいていた。ぼくは、本を棚へしまいながら声をかけた。
「珍しいね。きみがミサ以外で聖書をひらいてるなんて」
「誰かさんが、それ以上に珍しいことをしてくれたもんでね。便乗したまで」
一瞬、手を止めてしまったけれど、なんでもない仕草をよそおって答えた。
「ぼくだって、ミサに遅れることくらいあるよ」
オイゲンは、ぱたんと聖書をとじるや、まっすぐな視線を射ってきた。
「5年間で初めてのことだろ。なにかあったのかと思った」
「大げさだな」
軽く笑って、いなすぼくの態度が、オイゲンには不快だったらしく、ふいと顔をそむけてしまった。その視線の先には、寒々しい灰白色の景色が広がるばかりだ。
空をうずめる厚雲のように、室内にも重い空気が垂れこめた。
「……人の気も知らないで」
しぼりだすようにして吐かれた言葉の真意を、ぼくは誰よりも知っている。
「ごめん……」
オイゲンと気まずい仲になるのだけは、絶対に嫌だった。隠し事もしたくない。ここは、ぼくが譲歩すべきだろう。
「実はさ、中庭でシャルに会ったんだ」
「え、シャルに? よかったじゃないか」
オイゲンの声に素直な明るさがにじむ。彼にとっても、ぼくとの気づまりな雰囲気は長びかせなくなかったのに違いない。
「で、どんなだった? あいつ」
「相変わらずだったよ。バタバタしてた」
「ああ、やっぱり。優秀な羊飼いがいなくなったからな。今のあいつは、野放しの暴れ羊だ」
「優秀な羊飼い?」
「きみのこと」
「また、そんなふざけたこと言って。シャルに怒られるよ」
「冗談の通じないガキってのは、あつかいにくくて、やだね」
渋っ面をつくる彼の胸中は、ゆうに察しがついた。シャルをからかって殴られたときのことを思い出してるんだろう。
あんな反撃を受けようとは、彼自身、予想もしてなかったはずだ。
「やべ! 今日、日直だったんだ。昼メシの準備――」
食堂へ急ごうと腰を浮かしたオイゲンが、ふと動きを止めた。
「どうしたの」
オイゲンは、苦笑しながら窓の外へ顎をやった。
「迷い羊がうろついてる。さっさと保護してやれよ。この寒さの中、バカだよな」




