今朝の冷えこみは一段と厳しかった。
今朝の冷えこみは一段と厳しかった。
凍空はすぐにでも雪を呼びそうな色合いだ。
ぼくの通うフリードハイム・ギムナジウムの寄宿舎は、給湯設備が浴室にしかないため、共同洗面室を出た生徒たちはみな、背中を丸めて自室へと駆けこむ。
冷えた体や、かじかんだ手を、熱い飲み物で温めるのだ。
両手をこすりながら部屋にもどると、同室のオイゲン・フォスが制服姿で勉強机にもたれ、マグカップに口をつけていた。向かいのぼくの机にもカップが置かれている。朝の飲み物を淹れるのは、いつからかオイゲンの役目になっていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
香り立つ湯気を鼻孔に流しこんでから、淹れたての熱い液体を少しずつ口にふくんでいく。今日はミルフォードのフルーツティーだった。
オイゲンはフレーバーティが苦手だけれど、コーヒーが飲めないぼくのために、この時間だけは同じものを嗜んでいる――というより、もとをたどれば、カフェイン飲料ばかり摂っている彼を見かねて、ぼくが提案したことだった。
チコリやタンポポ、麦芽などの代替コーヒーを勧めても、そんな《まがい物》を飲むくらいなら、ぼくと同じものを飲むと言う。
でも、フレーバーティやハーブティの独特の香りには1年以上経っても馴染めないようで、今も飲むたびに顔をしかめているけれど。
両手で包める程度にカップの熱がとれてきたところで、オイゲンがためらいがちに口をひらいた。
「昨日も眠りが浅かっただろ。9月に入ってからずっとだ。そんなんじゃ、もたないぞ」
「…………」
手の中のカップに視線を落とす。おさえていた不安が、冷たい木枯らしのように体を駆けめぐり、紅茶の温もりまでもが失われていくようだった。
「シャルのことは気にするな。落第したのは、あいつのやる気と実力不足。エーベルのせいじゃない」
「でも、会ってないんだ。新学期が始まってから一度も。3ヶ月以上経つんだよ。これは避けられてるってことだろう?」
「学年が違えば、礼拝堂や食堂での席も変わる。宿舎の階も別になる。会わなくなっても不思議じゃないさ。おれだって、あいつとは一度も会ってないよ」
そう諭されても、胸にこずんだわだかまりは溶けそうになかった。
なにも返さないぼくに、オイゲンもそれ以上、くどくは言わなかった。
「早く支度しないと、朝ミサに遅れるぞ」
すれ違いざまに、ぼくの肩を聖書で軽くたたいて、オイゲンは部屋を出ていった。
数分ぼんやりとしてから、制服の上着に手をかける。すでに予鈴は鳴っていた。聖書と1限目の勉強道具をかかえ、ぼくもようやく自室をあとにした。




