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アネモネが華やかに舞いましょう  作者: komado(六種銘菓BOOKS)
アネモネが涼やかに舞いましょう【▼後編 インスタントコーヒーを淹れよう】
34/60

▼イースター 春はプリン

それはまだアネモネがロアの名前を知る直前のお話。

仕立て屋さんの洋服に新しく袖を通し、オーナーさんのもとを訪れたアネモネ。そのお洋服にはオーナーさんも敏感に反応していました。

「あら。可愛いお洋服」

「でしょう? 仕立てて貰ったばかりなの。イースターと夏の狭間がテーマなの」

クリームソーダのような色をしたワンピースですが、花の形のボタン、卵のようなレースデザイン、フリルのピンク。どことなく春らしいあしらいが見えます。しかし素材は涼やかなのです。今はカーディガンを羽織らないと少し寒いくらいでしょうか。

「うさぎの帽子を合わせても良かったかもしれないわ」

アネモネは頭の上に手を当て、そこに何もしてこなかったことにだけ後悔していました。オーナーさんは少しだけ羨ましそうにその洋服を見つめていました。

「イースターね。春の女神様のお祝い。なんだか嬉しくなっちゃうけど、夏がくるのもまた嬉しいわよね。今までホットミルクばっかりだったけど、アイスミルクを供すようになると、ああ夏なんだなって実感が湧いてくるものよ」

「ミルク……紅茶じゃなくて? それは旅人さんかしら? ただのお客様?」

「時々夜に訪れるお客様はいるものよ。そういう方は、紅茶よりも眠りにつきやすい飲み物を頼むことが多いわ」

夜の時間帯にこの喫茶店へ訪れたことは、アネモネもめったにありません。忘れ物を取りに来たとときくらいでしょうか。それに気づいたとき、アネモネはぱっと思いついたことをオーナーさんにお願いしてみました。

「私、このお店の二階を見たことなかったわ。二階は夜を過ごすお客様のためのスペースなんでしょう? 見てみたい!」

この喫茶店は外から見れば二階建て――実際は屋根裏部屋を合わせた三階構造です――になっており、上の階は来客用の休憩スペースにしてあるのです。話だけは聞いたことがありましたが、アネモネはいつも昼間に来て夜は自分の店に帰っていってしまうので、それが存在していることしか聞かされていなかったのです。

「あらそうだったかしら。じゃあ、少しだけ探検してみましょうか?」

「やった! 見せてもらえるのね、嬉しい!」

普段は奥まっていて見えにくいところにある階段を登り、喫茶店の二階までやってきました。ログハウスの二階は一階よりも若干狭いのですが、数部屋に分かれており、それぞれの扉に番号が振ってありました。一番の部屋をオーナーさんが開けてくれました。

「ベッドメイキングしていつでも人が寝れるようにしてあるから、そこに飛び込んだりはしないでね」

「わかったわ。それはカフェアリーヌがあとで大変だものね」

中に入り、部屋の扉を閉めました。窓際にベッドが置かれた、小さな寝室です。夜遅くにここを訪ねた旅人は、ここで身体を休め、朝になったら旅立っていくのです。シンプルなカーテンがかかっており、床はカーペットが敷いてあります。スリッパに履き替え中に入っていきました。小さな鏡台があり、アネモネはそれを覗き込みます。

「ホテルの一室って感じ。シャワールームがついていれば完璧だったわ」

「各部屋にそれをつけられるほどの余裕はなかったわね……意外と難しいのよ、喫茶店であり宿屋でもあるのって」

苦笑気味です。シャワーは共有用があるとのこと。アネモネはもう一度部屋を見渡しますが、埃も落ちていなければ窓や鏡に曇りもない、行き届いた部屋です。

「うちの店には、こんな立派な寝泊まりできる場所なんて無いわ。すごいのね」

「凄いかしら」

「ええ! それも一人で頑張っているんだもの、すごいわ!」

「私も人に支えられてやってこれていることだもの。貴女たちのお店だって、もっと支えてくれる人がいてくれれば、また変わるかもしれないわよ」

「そうね、それも夢のひとつだわ……!」

そう言いながらアネモネは満足して部屋を出ていきました。そうして複数の部屋を回っていきますが、二階部屋のうち一つだけ、番号が振られていない部屋があります。そちらも気になったアネモネは指をさすのですが、オーナーさんは首を横に振りました。

「あれは私のプライベートルーム。片付いてないから、今日はだめ」

「えーっ!! それって一番気になるお部屋じゃないの!! ねえねえ、ちょこっとだけでもいいから。だめ?」

「だーめ。片付けておきますから、それが終わった頃にまた遊びに来てちょうだい」

「はあい……残念。でも楽しみはとっておけるから、それはそれで良かったのかもしれないわ」

内心、オーナーさんはとても焦っていましたので、アネモネのご機嫌を回避できたことにとてもほっとしていました。そしてほっとする要因はもうひとつあり、それはとある客に今でも貸し出している屋根裏部屋のことなのですが、そちらにまでアネモネの興味が向いたらと考えると、迂闊に二階に案内してしまった自分を責めることになってしまいます。それがなかったことに、安堵したのです。

「ねえカフェアリーヌ。お部屋のそれぞれに、イースターエッグのかごをおいておくのとかどうかしら?」

「あら素敵。でも……お客様からエッグハントのゲームを開催されちゃうと、私が探すの大変だから、それはNGかしら。私達が隠しておいて、それを見つけてもらうくらいの遊び心なら、大丈夫かもしれない」

「本当? 私それやってみたいわ!」

「じゃあイースターエッグ作るところからよね。下に降りましょうか」

「楽しみだわ! イースターエッグ、作ったこと無いの!」

アネモネは元気よく下に降りていきました。オーナーさんも後を追います。


「紙製の卵は買いに行かないと無いから……本物の卵の殻を使うのであれば、中身を出して洗って乾燥させなきゃいけないわね」

「じゃあ今日絵付けはできないのね?」

「そう。それでも大丈夫?」

「大丈夫よ、だって私またここに来るもの!」

エプロンを付けて、料理をするのと同じように手をピカピカに洗ってから、準備をはじめました。しかしその後の作業はアネモネにとって意外と根気のいるものでした。卵の底に穴を開け、そこから中身を取り出すのですが、中々小さな穴です。中身の卵が殻の外に出てこないのです。じりじりと、焦ってはいけないと思いながらの作業でした。

ボウルの中にとって、卵の殻は洗って乾燥させます。取り出した卵の中身はオーナーさんがボウルごとキッチンに持っていきました。砂糖と牛乳を加えて熱を入れ、プリンを作ってくれるのだそうです。

「プリン!」

「蒸し時間の調整だけ私苦手なのよね、失敗したらごめんなさいね」

「全然! 楽しみだわ」

「じゃあアネモネちゃん。砂糖とお水を鍋にかけて、カラメル作る作業、お願いできるかしら?」

「えーそれ責任重大……! 焦がしちゃったらほろ苦くなっちゃうでしょう?」

その言葉の通り、ほんの少しほろ苦いカラメルがアネモネの手によって出来上がります。必死で鍋に向き合い、ずっとぐるぐるとかき混ぜていましたが、加減がわからず仕舞いだったようです。ですが、オーナーさんの味見のときは「大人ならこのくらいの味も好きなものよ」というフォローが入っていました。アネモネはとびきり甘いものが好きでしたので、そのフォローの言葉を受けても悔しそうにしていました。ちょっぴり残念な気持ちは残りましたが、蒸し上がったプリンのカップを取り出し、程よく覚ましてからそのカラメルを上からかけると、立派な見た目のプリンが完成するのです。

早速スプーンをさし、一口食べます。

「失敗するかもなんて言っていたけど、カフェアリーヌ。全然そんなこと無いじゃない。甘さ控えめだけど美味しいわ」

「砂糖を入れすぎると固まりにくくなっちゃうのよね。だから私は少し砂糖控えめ。カラメルの味と丁度あってる気がするわ。万々歳ね」

「本当にそうかしら? もっと上手に作れた気がするのに、残念だわ……」

オーナーさんは「気にしすぎ」と言いながら、アネモネお気に入りのいつもの紅茶をカップに注いでくれました。この日はこうしてプリンを楽しんでから、アネモネは森に向かって行ったのでした。


イースターエッグを作れるようになるには、もう少し卵の殻が乾燥しなくてはならないようです。アネモネはその日を心待ちにしています。

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