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アネモネが華やかに舞いましょう  作者: komado(六種銘菓BOOKS)
アネモネが涼やかに舞いましょう【▽前編 キボウノミライ】
26/60

▽エピローグ キボウノミライ

「つゆ草。君はアネモネを嫌っていると聞いていたが、そうでもないようだ。不思議だね」

「子供のことが苦手なだけで、あの世界のことは好きだからね」


今日はマスターとロアの二人だけなので、簡単にインスタントコーヒーを作って休憩をしていました。アネモネはオーナーさんのお店に遊びに行っています。

コーヒーのお供にしているのはありふれたビターチョコレートです。マスターは一粒を口に入れ、噛み締めます。逆にロアは手を付けず、コーヒーを一気に飲み干しました。味わう、という飲み方ではないようです。ロアは頬杖をついて、カウンターの向こうにいるマスターに話しかけます。

「アネモネは君を『自分のマスターではない。店のマスターだ』と言っていた。だが私にとって君は主だ。命に従い動こう、マスター。次は何をすればいい」

マスターは困ったように腕を組みます。彼女の言うことは間違いではないのですが、少々オーバーだったのです。命と呼べるほどのものがありません。それでもロアのその意思そのものから訂正するのは困難だと感じ、ちょっとしたことを頼むことにしました。ですがそれは、彼が以前から決めていたことでもあったのです。

「今は、アネモネの話し相手かな。それ以外の大それたものはない。自分の意志でやりたいことをやってかまわないんだよ、マーメイド・ロア」

「自分の意志。そんなものはまだない。アネモネのように、これから見つかるといいのだけど」

「ならばあの子に振り回されていれば、いつか見つかるだろうよ。僕も同じだった。あの子は、夢の話をしてくれたかい」

「志のことか。旅人の案内をしたいと言っていた」

「そう、志は立派なのだが、この世界には未開拓の土地も多い。人が居ない場で何かを知ろうとするのは大変なことなんだよ。しかしロア、君の飛ぶ力や羅針盤の力は、アネモネの願いを叶えることができる。手伝ってあげてほしい」

そう伝えました。ロアは目を細めます。表情がわかりにくい彼女ですが、目元は正直な方で、なにかを考えている様はマスターにもわかりました。ロアが口を開いて、青いコンパスを片手にこう言いました。

「私の飛ぶ力――すなわち世界を渡る力。羅針盤の知る力――すなわち物語を見聞きする力。全て神の視点の持ち合わせる力を応用したもの。シテンである君に強く結びついているからこそできること。私はそれを知ったよ。……いいのか? 私がその力を使う。それ即ち、君が代わりに飛ぶことも知ることもできなくなるということ」

ロアは真剣な目でマスターを見つめました。ですがロアの心配を他所に、マスターは否定するように笑っていました。ロアと同じようにコーヒーを飲み干し、そうしてからもう一粒、チョコレートを齧りました。暫くの間無言が続きます。飲み込んでから、マスターはロアから目をそらしつつもはっきりと言い切るのです。

「ロア、その心配は無用だ。君がこの店に戻っている間は、とまり木で休んでいる間は、僕にも飛ぶ力や知る力は戻ってくる。そう大きな代償ではない。それにこれはアネモネの力も借りた上で成立していること。彼女に自覚はないけれどね。旅人には休息が必要というのは、あの世界に降り立った僕が最初に知ったことだよ」

借りるよ、と言ってマスターはロアのコンパスを手に取りました。蓋を開けると、くるくると針が回ったまま定まりません。ですがその動きは忙しないというよりも、ゆっくりと何かを確かめるような動きにも見えます。マスターはそれを確認してから、そっと蓋を閉じ、ロアに返しました。

「むしろ僕にできることは、このくらいしかない。だからこそ、君にその力を使ってもらいたい。そう、そんな気まぐれだよ」

ロアはコンパスを受け取り、腰に着け直しました。そうしてから、マスターに倣ってチョコレートに手を伸ばし、一粒を口の中で舐めるように味わいました。再び沈黙が流れますが、先程同様に悪い沈黙ではありませんでした。口の中からビターチョコがなくなった頃、ロアはわずかに微笑み、腕をぐっと伸ばして伸びをしました。

「そうか。……私も、あの子のためなら、やれることをやるつもり。ならば、彼女にとことん付き合おう。だが、まずは君に話して聞かせようかね。私が見て、聞いてきたことを」

「僕が聞き手になる機会は中々ないが、それがあの子の――この世界のためになるのであれば聞こうじゃないか」

ざあ、と外で音がします。白い世界に風が吹くことは非常に稀でした。マスターは久しぶりだ、と呟いてカウンターから出てきました。カーテンと窓を開け、埃っぽい空気を新しい空気と入れ替えます。


「これから何が起きるか、何が出来るか。楽しみにしておこうじゃないか。あの子の未来が明るければ、この世界の未来も豊かになる。それが一番だ」

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