第82話 就寝 1日目
「春山は奥の部屋な」
「はい」
「こっち来たら、ぶっ叩くよー」
「はい」
そんな心配しなくても、夜這いなんてしませんよ。
秋芳部長たち4人は、どうやら大広間に布団を並べて寝るようだ。布団をきれいに並べている。
そして僕は、ここから離れた別室に隔離される。
もう、犬小屋とかじゃなければいいよ。
暗い廊下を歩き、玄関近くの6畳ほどの部屋へと、深谷先輩に案内された。
「ちょっと狭いかもしれないけど、寝るだけなら十分でしょ?」
「はい、大丈夫です」
そこはタンスやら椅子などが置かれ、半ば物置状態になっている部屋だった。
ちょっと、カビとホコリ臭いかもしれないけど、特に気にならない。むしろ、みんなと寝るより、居心地がよさそうだ。
……で、なぜか一緒についてきた部長に心配される。
「大丈夫? 一人で寝れる? 怖くない?」
「大丈夫です、って」
「一緒に寝てあ……」
「大・丈・夫・です!!」
部長と一つ屋根の下にいるだけで、何が起きるか分からない。
「じゃあ、もう、僕は寝ますんで。お休みなさい」
「おやすみー また明日ね」
「夜、勝手に入ってきたら、どうなるか分かってるわよね!!」
「……はい。それはもう……」
「行くわよ、香奈衣」
そんな、夜這いとか、しませんから……
僕は布団を引いて横になり、タオルケットを掛ける。
今日いろいろとありすぎたお陰で、すぐ眠れそうだ。
……
明日は、いよいよ海に行くのか……
水着かぁ……
もちろん、みんな水着…………
部長も…………
……
…………
…………ん……ん~~~
暑い……
……寝苦しくい。
……ん?
あれ? 寝返りがうてない?
なんだか……
身体が……重い?
え? うそでしょ?
これって、金縛り?
え? 怖い怖い怖い……
なんか、怖いんですけど!
どうしよう……怖くて目を開けられない。
いい感じで寝てたのに、もう完全に目が覚めてしまった。
……のに、身体が上になにか乗っかってるかのように重い。
え? どうしようどうしようどうしよう……
声を上げるか?
それさえも怖い。
それに声を出して起きてるって幽霊か何かにバレたら、どうなることか……
このまま寝たふりしてたほうが……
カシャッ
……ん?
今、カシャって、カメラのシャッター音みたいなのが……
勇気を振り絞って、目をうっすらと開けてみる……
そこには! 髪の長い青白い女性に顔!
……いや、スマホ? の明かりに照らされ、暗闇に浮かぶ部長の顔……だった。
よく見ると、部長が僕のお腹の上に乗って、スマホを見ている……
「……あの、なにしてるんですか? 部長?」
「おはよう、春山くん」
おはよう? え? もうそんな時間なの?
枕元に置いてあったスマホを探し、時間を確認する。
『1:12』
真夜中じゃん!
「なんで部長が?」
起きるのも面倒なので、そのままの状態で当然の疑問をぶつける。
「なんかね、春山くん、うなされてたよ。心配で様子見にきたの」
「そうだったんですか、すいません」
うなされてたの?
それ、たぶん部長が乗ってるからじゃないの?
「で、なにしてるんです?」
「え?」
僕の上に乗ってスマホなんか見て。
「春山くんの寝顔、見てたの」
はい?
「それと寝顔、撮っちゃった」
……ちょっと寝起きなので、部長がなにを言ってるのかわからない。
「あの、なんで僕の寝顔なんて撮るんですか?」
「えー だって、ずるいじゃん」
「ずるい?」
「春山くんは私の寝顔見てるでしょ。なら、私も春山くんの寝顔見るから」
今さっき撮ったであろう僕の寝顔の画像を見せながら、
「春山くんの寝顔、かわいいね」
「……いいから、早くそこからどいてください」
部長が寝顔見られてずるいって、それ、あれでしょ?
テスト勉強の時、部長が勝手に居眠りしてた時のことでしょ?
「よいしょっと」と言いながら、ようやく僕から降りる部長。
「じゃあ、もう寝ますから。戻ってください」
「……」
「……」
「……」
「……なにしてるんです?」
「一人じゃ、怖くて戻れない……」
はあ? なに言ってんの、この人!
「ついてきて」
どうやって、ここまで来たんだよ。
一人でやって来たんじゃないの?
いや、でも……
なんか、部長の顔を見ていると、本当に怖がってそうな雰囲気だ。
もー しょうがないな~
世話のかかる先輩だよ、本当に。
気だるい体を起こして、部長と一緒に広間まで行く。
まあ、確かにこの無駄に広く古い家では、ちょっと怖いかもしれない。
廊下の先とか真っ暗で見えないもん。
じゃあ、最初から来ないでよ、って話だ。
広間の障子を静かに開けて、忍び足で中に入る。
他のみんなは、もちろん小さな寝息をたてながら寝ている。
「もう大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、戻りますよ」
「おやすみ。海、楽しみだね」
布団で横になる部長を見届けると、僕は来た道を戻ろうとする。
「……そうですね。おやすみなさい」
そして再び僕は、犬小屋のような部屋に戻って来て横になる。
まったく、部長ときたら……
……
…………
…………あ―― も~~
寝れなくなっちゃったじゃないですか!!
………ス――
……ス――
…………ス――
「おい! 春山!」
ス―――
「春山!!」
……ス― ベシッ!!
ん? 痛っ……
なに? なんか……頭、叩かれたような……
ゆっくりと目を開ける……
ぼやけた視界の中には、僕を囲むように南先輩と遠野先輩、そして深谷先輩までもが、見下ろしていた。
ん……もう、朝? なのか?
「おはようございます」
「あはようございます、じゃねーよ、お前!」
「え?」
「春くん、夜、来たでしょー!?」
ん――― 昨日の夜?
そういえば、部長を……
「言ったわよね! 勝手に入るなって!!」
「え? えぇ? えっ?」
深谷先輩が、なんだかすごく睨んでるんですけど……
「部屋にベビーパウダー撒いてたんだけどー 足跡がついてたのよー」
パウダー?
「お前、ちょっと足の裏見せてみろよ!」
え? なになになに?
南先輩に足を引っ張られ、布団から引き出される。
「粉、ついてるじゃねーか! おめーだな! 夜中に侵入してきたのは!!」
「えっ、っちょっと、ちょっと待ってください! それは……」
あっ、そうだ。部長だ!
部長に聞けば……
「あ、あの、部長は!?」
「香奈衣なら、まだ寝てるわよ!」
あ―――も―――
なんで寝てるんですか――!!
「こいつはもう、海に沈めるしかねーな!」
「……へ?」
「もしくは― 砂に埋めるー!?」
「いや、ちょっと……」
確かに広間の中に立ち入ったけど、やましい目的でではなくて、部長を連れていっただけで……
あぁ、3人とも僕が何を言っても信用しない目をしている。
なんでだよ……
なんで、こうなるんだよぉ…………
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
合宿編1日目が終わりました。次回から2日目ですね。海で遊んで、帰ってきて庭で花火をして……そして夜……
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