第74話 水着を買いに行こう その5
前回のあらすじ
春山くん、水着を選んであげる。
「しかし、部長、だいぶ買い込みましたね」
「ごめんね、荷物持たせちゃって」
「いえ、持つのは大丈夫なんですけど」
秋芳部長と深谷先輩の水着を買った僕たちは、そのまま駅近くの総合ディスカウントストアに買い物に行った。
そして茶道とはとうてい関係なさそうな、浮き輪やらビーチボールなど海水浴の小物多数を購入。
さらにそれから、大量の花火までも買いあさるという始末。
今日の買い物を一通り終えた僕たちは、駅まで戻ってきて今から電車に乗るところだった。
「部長、これ合宿で使うんですか?」
「そうだよ」
「……そうですか」
合宿って、茶道部のだよね?
なんで水着? 浮き輪? 花火?
「部長、あのー」
「なあに?」
「よく考えたら、まだ合宿の詳しい事、知らされてないんですけど」
なんとなく8月上旬に行く、海の近くへ、泳ぐ、水着。
という断片的な情報しか知らされていない。
「そうだねー 春山くん、明日か明後日、私のうちに来れる?」
「え?」
「予定ないよね?」
「まぁ、ないですけど……」
今、部長の家って言ったよね。
「作戦会議するから」
「作戦……会議……ですか?」
「そう、合宿の詳しい内容の、ね」
「……分かりました」
今この一瞬で、僕の頭の中は合宿の件よりも、部長の家に行くという最重要ミッションで上書きされた。
部長のお宅訪問ということは、もちろん室内着を着た部長に会うということで。
しかも、部長の過ごしている部屋にも入るということで……
「春山君、気をつけなさい」
「え? なにがですか?」
深谷先輩の急な声に、僕は現実の世界へと引き戻された。
「あなた、今、爆発物大量に抱えているから」
「……花火のこと、ですよね」
「電車内に危険物持ち込みは厳禁だから」
「いや、これ、はな……」
「職務質問されて補導されても知らないから」
「大丈夫ですよ……たぶん」
そうだよね、こんな大量の火薬、持って歩いてるんだから。
大丈夫かな……この夏の暑さで、引火とかしないよね。
「その時、スマホから盗撮画像出てきたら、あなたもおしまいね」
「……撮ってないですって」
なんだよ、それ……
水着の試着の時のこと、まだ怒ってるの? 深谷先輩……
「香奈衣、別の車両に移るか、次の電車で帰りましょう」
「えー」
「近くにいたら事件に巻き込まれるから」
それはこっちの台詞ですよ。
荷物持たされた挙句、酷い言われようだ……
結局僕は、車内で一人爆発物を抱えながら座席に座る。
しかしこんな量の花火、使いきれるのかな?
みんなで海行って、泳いで、花火するなんて……
なんだか、すごく楽しそうじゃん!
まさか自分がそんな青春ドラマのような登場人物になるなんて。
いや、でも待てよ。メンバーが茶道部の先輩たちだから……青春ドラマじゃなくて、コメディか悲劇になるよね。
電車に揺られながら、高校生活初めての夏休みの、これから起こるであろう出来事に思いを巡らしていた。
駅から家までの道のりは遠い。
店内や車内はクーラーがきいており涼しくてよかったが、問題は駅から家までだ。
電車から降りて駅を出た僕たちを出迎えてくれたのは、容赦ない夏の日差しと熱風。
夏の炎天下、こんなたくさんの荷物を持って、歩いて帰るのは非常に辛いところだ。
本当に花火に引火するんじゃない? ってくらい暑い!
「春山くん、大丈夫? 荷物持つよ」
「だ、大丈夫です」
僕が唯一出来ることといったら、重い荷物を持つことくらいだ。
これくらいは、させてもらいたい……
……
…………
……けど、邪魔はしないでもらいたい。
「部長、ちょっと、やめてください」
両手がふさがってるのをいいことに、部長が僕の顔をペタペタ触ってくるのだ。
「汗、すごいよ。拭いてあげるね」
汗拭きシートを顔に当ててくれるたびに、ひんやりと部分的に夏の暑さから解き放たれるのだが、逆に恥ずかしくて体内温度が上昇する。
「大丈夫ですから、部長」
「背中も、凄いことになってるよ」
といいながらシャツの中に手を突っ込んでくる。
「部長! そこまでしなくていいですから!」
「ズボンの下は?」
「大丈夫です! ほっといて下さい!」
炎天下の中、部長の攻撃を避けながら、いつもの別れの十字路までやってくることが出来た。
「とりあえずこの荷物、僕の家で預かっておきますんで」
「うん、ありがとう。また後で連絡するね」
「はい」
二人を見送る余裕もなく動きの鈍くなった足を動かしながら家へと向かう。
そしてようやく家に到着した時には、全身雨に濡れたかのように、汗でぐっしょりしていた。
は~ 疲れた~
玄関を開けて、山のような荷物をとりあえず近くに下ろす。
そこへ、短パンにシャツという軽装状態の妹が、アイスを咥えながら、ちょうどリビングから出てきた。
「ん? おかえり」
「ただいま……」
「どしたの? その荷物?」
「別に……いいだろ……」
その場で腰掛けて呼吸を整えている間に、床に置いた荷物を勝手にあさり出す。
「花火に……浮き輪?」
「おい、勝手に触るなって」
「どしたの? 急に高校生の夏休みっぽいこと、しだして?」
「なに言ってるんだよ。高校生だし。夏休みだし」
「ふ~ん。もしかして海行くの?」
「……そうだよ」
「どーせ、男友達とでしょ?」
ここはあえて、なにも答えないでおく。
「私も今年は海、いこーかなー」
そういいながら妹は、再びアイスを咥えると、そのまま自分の部屋へと消えていった。
なんだ、荷物運ぶの手伝ってくれないのか……
荷物をとりあえず自分の部屋の奥にまとめて置くと、そのままベッドに横たわる。
クーラーをつけ、そのまましばらくの間うつぶせになり、今日一日のことを振り返りながらボケーっとする。
一日を振り返ってもいろいろあり過ぎて、僕の小さな頭の容量では処理が追いつかない。
……とりあえずスマホでゲームでもしようかな。
と、スマホを引き寄せると……
あれ? カメラのアプリを使った形跡がある。
今日はカメラ機能を使った憶えは……
えっ!!?
写真が! 撮られてる?
思わず飛び起きて、画面を覗き込む。
画面には、水着姿の部長のきわどい姿が……
なにこれ? 自撮り?
この水着、きっと、あそこの試着室で撮ったやつだ!
そういえば、あの時部長にこのスマホを預けたんだっけ?
ちゃんと3種類の水着で、それぞれ鏡に映った全身がポーズしながら撮られてる。
いつの間に……
全然気がつかなかった。
……って!
なに僕のスマホでこんなの撮ってるんだよ!!
プルルルル~
うわっ!
……ビックリした~
電話? 部長からだ……
『はい、もしもし』
『春山くん? 家着いたかな?』
『着きましたよ』
『今日はありがとうね』
『どういたしまして。それはいいんですけど、なんですかこの写真は!』
『見てくれたんだ』
『なにしてるんですか!』
『だって春山くん、ちゃんと見てくれなかったでしょ?』
『……そ、それは』
『写真なら、一人で見られるから恥ずかしくないでしょ?』
『それは、そうですけども……』
『もし別の水着のほうがよかったら、取り替えてもらうよ』
『……あのままで、いいです』
返事の変わりに笑い声が返ってくる。
逆に恥ずかしいでしょ、写真なんて持ってたら。
どうすんの、これ?
『あっ、そうそう、春山くん?』
『はい?』
『ほかの人には見せないでね、写真』
『まあ、もちろん見せないですけど』
『春山くんにだけだからね。もし約束破ったら、春山くんの恥ずかしい写真、ばら撒くからね』
『……大丈夫ですよ、しませんから』
『今後は、あさってだね。直接家に来てくれていいからね』
『はい。2時ごろでしたっけ?』
『うん。じゃあまたね』
『はい』
……
……ふう~~~
電話が切れたスマホをじっと見つめ、長いため息が口からあふれ出す。
そしてもう一度、部長の水着姿の画像を眺める。
いや、可愛いよ、
可愛いですけど……
こんな写真持ってて、
どうすればいいんだよ……
長くなってしまいました「水着を買いに行こう」
これにて終了です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




