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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第二章 夏、雨と潮と花火の香り

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第67話 随処作主 立処皆真

随処に主と作れば 立処皆な真なり

ずいしょにしゅとなれば りっしょみなしんなり

 暑い……

 道の真ん中では、太陽の光を遮るものがなく、夏の日差しが容赦なく僕の体に突き刺さる。


 遅いなー 部長。


 いつもの十字路で9時に待ち合わせ、のはずが時間になっても現れない。


 まあ、どうせ寝坊でもしてるんだろう。

 と思い、そろそろ迎えに行くかと体を動かしたときに、向こうからやってくる部長の姿が。


 だんだんと大きくなる部長の姿。

 こちらも、ゆっくりと迎えに行く。

 そして、ようやく目の前までやってきた。


「おはよう、春山くん。ごめんね、遅れちゃって」


 部長は息をきらせ、額には汗がにじんでいる。

 そんな白いセーラー服姿が、夏の日差しを反射しキラキラと輝いて眩しく見える。


「別にそんなに、急がなくても……」


 どうせ僕たちだけで、部活やるだけなんですから……


 目がくらむような、太陽の下を二人で歩いていく。

 こんな暑い昼間から、しかも夏休み中に制服着て歩いているのは、僕たちくらいしかいない。


 せっかくの夏休みが3日間、部活で消えてしまった。

 でもどこかで稽古をしなければ、9月になったらすぐ文化祭で本番を迎えてしまう。

 よい機会だったと割り切って、学校への道を歩いていく。


 しかし……

 それにしても、暑い。


 ちょっと前までは涼しく感じていたのに、いきなりこの町に夏が飛び込んできたようだ。

 ちょうど公園を横切るところだが、セミの大合唱が夏を一層感じさせる。

 もう、道の上で立っているだけで暑い。

 空からは夏の日差しが、アスファルトからは照り返し。

 グリルの中の魚は、きっとこんな気持ちなんだろうな。


 歩くのもうんざりの僕の横では、なんだか嬉しそうに歩く部長の横顔が目に入る。


「なんか……楽しそうですね」

「だって夏休みだけど、部活できるからね」


「それはよかったです」

「それに……」


「それに?」

「部活だと春山くんと会えるからね」


「……そうですか」


 なんだか、部長といると余計に暑く感じてしまうので、これ以上話さないで歩くことにした。


 いつもより長く感じた学校への道のりも、ようやく乗り越え、僕たちは学校へとたどり着く。

 が、不思議なことに、今日から夏休みなのに、やけに人の気配がする。

 校庭から、体育館、校舎の中からも。


 補習……で来ている人だけではないのかな?


「みんな、学校に来てるんですかね?」

「部活とかで来ている人、多いみたいだよ。特にスポーツ系は夏に大会があるからね」

「なるほど」


 体育会系には夏休みは無いんだ。


「ねぇ、春山くん。時間まだあるから、ほかの部活の様子、見ていかない?」

「え? えぇ、いいですけど」


 また、何か面白いモノでも探しに行こうとする、小さな冒険家のような顔をする部長。

 別に今さら他の部活を見学しても……しょうがないのだが。

 やけに部長が張り切ってるし、特に急ぐ必要もなかったので、校舎の奥地へと進んでいった部長の後をついていくことに。


 きっと何の計画性もないのだろう。

 思い付きのまま歩いている部長の後ろを、そのままついていったら、体育館の裏側までやってきてしまった。


 まさか部長とこんな場所に来るなんて。

 なんか、ちょっと、変なシチュエーションだな。


 今の時間帯、日陰になって薄暗く、ひんやりして心地よい。

 ただ体育館の裏といったら、よくドラマとかである、告白……とか、いじめ……とか?

 喧嘩とか決闘とか、どちらにしろ部長とここにやってきても、いいイメージがわかない。


 ただ部長は、僕の想像とは全く関係ないようで、窓からチラチラ体育館の中の様子をうかがっていいる。


 まるで覗きをしてる変態みたいだ。


「バスケ部かな?」

「じゃないですか」


 シューズと床の擦れるキュッキュッ音が響く。

 重そうなボールの弾む音が聞こえるあたりバスケ部だろう。


 こんな日でも練習してる…… 試合が近いのかな?


「いーな。私も、たまには、やりたいなー」

「部長が、ですか?」


 部長がバスケねー


「今度一緒にやろうよ」

「まぁ、機会がありましたら……」


 そんな部長は、その場で中腰になって、ドリブルの動きをし始める。


「部長、なにしてるんですか? 部長ー?」


 そしてピタッとその場に止まると、飛び上がってシュートを決める。

 スカートがパラシュートのように、ふんわり傘を広げながら、部長は舞い降りる。


「部長、ちょっと、はしたないですよ」

「え? なに?」


 そんな目の前で、制服のまま暴れないでほしい。

 目のやり場に困るんだよ。


 今度は体育館の裏側を回って、併設された道場とトレーニング室の裏にやってきた。


 そこの中からも人の声が漏れてきている。

 棒みたいなものを叩く音と、奇声が聞こえることから、きっと剣道部が稽古でもしているのだろう。

 こんな暑い日にもかかわらず。


 結構みんな頑張ってるんだなー


「昔のね、ここの女子剣道部も強かったんだよ」

「へー そうなんですか」

「みんな卒業しちゃったけどね」


 女子が剣道とは、あまり結びつかないなー


「今度一緒につき合おうよ」

「え!?」


 なんて言った? 今!?


「一緒に剣道で突き合わない?」

「……しませんよ」


 つき合うって、突き合うことね。


「ねぇ、春山くん。今、なんだと思ったの? ねぇ、ねえ?」


 うるさいなー もう。

 絶対分かってて聞いてるんでしょ?

 ただでさえ暑いっていうのに、そんな暑苦しいニチャニチャした笑顔むけてきて……


「もう行きますよ!」


 体育館を一周回ると、今度はテニスコートが見えてきた。


 やっぱり練習してる人がいる。


「いーな、私もやってみようかなー」

「部長は、なんでもやってみたいんですね」


 今度はカバンをラケットに見立てて素振りをする部長。


 ちょっとその恰好でやると……

 スカートがですね……


「行きましょう、部長」


 さらに奥へ行くと屋内プールが。


 そこからも人の気配がする。


 部長は、またもや窓に顔を近づけ、中を見ようと目を凝らす。


「春山くんも覗いてみる?」

「べつに水泳部は……」


 もういいよ、水泳部は。


「女の子が少ないから?」

「そういうことではないです」


「春山くんは水泳には興味なくて、水着の女の子には興味あるもんね」

「人聞きの悪い事、言わないでください」


 いったい、いつまで回るつもり?

 早くエアコンの聞いた部室に行きましょうよ。


「ねえ、今度は校舎の中入ってみる?」

「校舎ですか?」

「家庭科部とかは、やってるかもよ」


 家庭科部は……


「いや、いいです」


 そしたら、まだまだ中には入らないらしい。昇降口を素通りして、校庭にまでやって来てしまった。


 グランドでは、ほぼ野球部貸し切り状態で、多くの部員が練習していた。


 暑いのに、頑張ってるなー


 一つの球を追いかけたり、拾ったり、投げたりしている部員たちを横目に、僕たちは一塁側のフェンス裏までやって来てしまう。


「すごいですね、みんな真剣に練習してる」


 僕は彼らの様子を見て、純粋に尊敬の念を覚えた。


「そうだね。みんな、がんばってるよね」

「見えないところで、努力してるんですね」


 きっと僕が学校から早く帰ってる日でも、雨の日でも、土日でも、こうやって練習してたに違いない。

 誰にも見られることなく……


 部長も、もしかしたら見えないところで努力しているのかも。

 だからあんなに成績もいいのかもしれない。


 目に見えてることが全てではない。

 今日僕がたまたま学校に来なければ、こんなに頑張っている人たちがいるなんて、気づくことなく学校生活を終えていただろう。


「これ、控えのメンバーかな?」

「え? 二軍とかですか?」


 練習風景を眺めていた部長の不意の言葉に、思わず驚き返してしまう。


「でも、結構な部員いますよ」


 40人? 一クラス分の人数が練習しているのではないだろうか?


「今日、予選じゃないかな?」

「地方予選?」

「うん。甲子園の」


 あんまり野球に詳しくないから分からないけど……

 そっか、正規メンバーは今日は予選の試合に行っているのか。


「だからかな、吹奏楽部もいないみたいだし」


 そう言えばいつも聞こえるあの音が、今日は教室から聞こえてこない。


「今年は甲子園行けるかな?」

「どうですかね。確か去年は……」

「そうだよ。去年は出場したんだよね。すごいよねー」


 確か去年の夏に、この高校の野球部は甲子園に行っていた。

 この町ではちょっとした大騒ぎになった。

 結局、二回戦で負けてしまったが。


「だから今年は野球部の入部者がすごかったんだよ」

「あー そうなりますよね」

「それと一緒に、吹奏楽部とチアリーダー部もね」

「なるほど」


 それで、茶道部が存続の危機に陥ったと……


 僕はぼーと、球の行方を目で追っていた。

 甲高い金属音で弾き飛ばされた白球は、気持ちいいほど晴れた青空へ飛んでいき、雲と同化し消えていく。

 それを遠くまで追いかけて球を拾い、こちらまで投げ返す。


 その繰り返し。


 いったいこの人たちは何のためにやっているのだろう?

 野球部の人たちはこんなに人数がいるのに試合に出れない。

 こんなに練習しても、そのまま球拾いで3年終わってしまう人もいるだろうに……

 別に野球部に限ったことではない。

 今まで見てきた部活でも、同じことは言えるだろう。


 しかし、僕は素人なのに文化祭ではお点前を披露する。

 この差はなんなのだろう。


「部長……」

「なあに?」


「この野球部の人たちって、なんでこんなに練習してるんですかね。試合にも出れないのに」

「ん~ 次のためかな~」


「次の試合のためにですか?」

「あとは、野球が好きとか」


 僕が茶道の稽古をするのは、茶道が好きだから?


 好きで球拾いをしている人なんて、いるのだろうか?

 そんなことのために野球部に入ったのではないだろうに。

 試合に出て活躍したいと思って、みんな入部しているはずなのに。


「春山くん」

「はい?」


「『随処(ずいしょ)に主(しゅ)と作(な)れば、立処(りっしょ)、皆(みな)、真(しん)なり』って言葉、知ってる?」

「え? いや、全然知らないです」


 また難しい言葉が出てきた。


「簡単に言えば……そうだねー どこで何をしてても、自分が主人公だってことを忘れないこと。それが結局真実になる。ってことかな」

「自分が……主人公?」


 ますます、よく分からない。


「それぞれの置かれた役割を、精一杯やるってことだね」

「ん~ 難しいですね」


「向こうで球拾いしてる人たちがいるでしょ?」

「はい」

「あれは決して球拾いさせられてるんじゃなくて、自分の意志でやってるんだよ」

「はあ」


「どんなに、意味ないなー くだらないなー と思った仕事でも、自分を見失わずに主体性を持って取り組めば、それがすでに自分が主人公として演じていることになる」

「……ん~?」


「春山くんが意識している世界では、春山くんが主人公なんだよ」

「僕が? ですか?」


「ちゃんと主体的になって意識していればね。練習するぞ!って思ってれば主役だし、誰かに練習させられてたら脇役だし」

「はぁ……」


「今まで見てきた人たち、みんな部活がんばってたよね」

「ええ」


「みんな主人公。誰もがみんな青春の主人公なんだよ。自分を見失わない限り、ね」


 なんとも哲学的で一回では理解できない。

 ただ、そんな大人っぽい言葉を述べる部長は、どこの誰よりも青春しているように輝いて見えた。


「私も私の中では、自分は主人公だよ。だから、春山くんは私の物語の中では……」

「物語の中では……?」

「ヒーローかな?」


 僕が部長のヒーロー?

 そんな馬鹿な。


「春山くんも、春山くんの世界だと主人公だけど、私は春山くんにとっては、なにかな?」

「なに……って?」


 部長は僕の中でも、これ以上ない主役だと思うけど。

 でも、僕が主役だとしたら、部長は……ヒロイン!?


 まさか……ねぇ……


 そこまで考えて、これ以上考えるのをやめた。

 この暑さで、難しいことを考えさせられ、頭がおかしくなりそうだった。


 そうか、目の前の野球部の人たちも、一人一人自分の物語の中で主役を演じている、のか。

 レギュラー入りして試合に出て、活躍している選手だけが、主役というわけではないのか。


 そんなことを、ぼんやりと眺めている。


 ……と、突然、外野から飛んできたボールが、キャッチャーへの軌道から逸れる、僕たちの方に飛んできた。


「部長!」


 とっさに、無意識のうちに身体を部長の前に出し……


 たのはいいが……


 ボールは目の前のフェンスにぶつかり、そのまま勢い無く下へと転がっていった。


 そうね、普通にフェンスあるよね。


 部長をかばおうとして、思わず身を乗り出してしまったが、まったく意味がなかった。

 そんな様子を見られ部長に、


「春山くん、どうしたの?」

「……何でもないです」


「もしかして、私のこと、守ろうとしたの?」

「……まさか」


「だよね、フェンスあるのにね」

「……そうですよ」


「じゃあ、今の動きなに?」

「なんでもないですよ」


「なんか、ぶちょーって言って、私の前に飛んできたよ」

「…………なんでもないですって!」


「もしかして私のヒーローになったかな?」

「違いますよ! ほら、もう行きますよ! 部室に」


 僕はもう恥ずかしいので、部長の顔を見ずに一人先に部室に行こうとした。

 後ろからついてくる部長は、終始笑いながら僕の背中を見ている。

 そんな気がして、背中も顔も熱くなって仕方がなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] しかし、春山君はまったく気が付きませんね。 まあ高校生の男子なんて本来こんなもんかもしれませんが(笑) でもかっこいいとろを見せることができてよかったですね。部長の好感度もさらにアップです…
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