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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第二章 夏、雨と潮と花火の香り

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第66話 終業式

 今日で一学期も終わる。

 長いようで早かった一学期が。


 そして明日から待望の夏休みが始まる。


 と、その前に全校生徒そろっての集会。

 その後は夏休み中の諸注意と今後の予定、文化祭準備のための登校など。

 長いホームルームが始まる。


 そして成績表……

 でも、クラスの生徒は、もうすでに気分は夏休み気分で色めき立っている。


 三馬鹿なんかは大騒ぎしてる。


 そして、些細なクラスメートとのやり取りと挨拶を交わした後、最後の部活をやりに部室へと向かった。


 なんでも楽しいことは始まる前が一番いい。


 遠足前の準備、旅行前の準備。

 新しいゲームや、漫画を買いに行く時。


 もちろんそれを体験している方が最も面白いのだが。


 僕はこれから訪れる夏休みに、高校生の青春の夏休みという言葉以上の希望と期待を胸に描いていた。


 そんな胸いっぱいの僕は、部室へとたどり着く。


 これからのみんなでお昼も一緒に食べながら、夏休みの予定について話し合うのだ。


「おはようございます」


 部屋の中では、パンをかじっている南先輩と、

 奥で一人本を読んでる深谷先輩。

 そしてちゃぶ台にお弁当を置いて、静かに待っている秋芳(あきよし)部長。


 あれ、もう一人いないけど、これからかな?

 僕は部屋中を見回しながら部長のもとに。


「おはよう、春山くん」

「あの、遠野先輩は?」


「……ああ、職員室に呼び出されてたぞ」


 南先輩がパンを口に含みながら、そんなことを言う。


 ふ~ん、そうなんだ。


「ご飯食べる? 遠野さんも待ってたんだけど」

「来てからでいいですよ」


 僕は今、お腹が空いていない、というより、胸がいっぱいだった。


「春山は、どうだったんだ? 高校初の成績?」

「えー 普通でしたよ」

「ちょっと、見せてみ」

「はぁ、別にお見せできるほどのものでは……」


 カバンからもらったばかりの、真新しい汚れも、しわもない成績表を取り出す。


 この学校は各教科の成績を5段階で評価している。

 ので、一番良い成績は『5』

 僕の場合は『4』と『3』が半々だったので、真ん中やや上くらいの評価だと思う。


 実に普通の、面白みのない成績表。

 それを南先輩に渡す。


「おっ、すげーじゃん! うちよりも頭いいじゃんかよ」

「どうも、ありがとうございます」


 僕より低いとなると、結構厳しいラインだと思うけど。


「私にも、見せて見せて」

「どうぞ」


 部長もせがんできたので、別に見られてもなんともない内容なので、手渡す。


「すごいね、春山くん。数学が『5』だよ! 理科も得意なの?」

「得意って程でもないですけど……」


 そうそう、唯一数学がよかったのだ。

 部長にも褒められてちょっと嬉しい。


「お前、そんなこと言ったら、秋芳さんと深谷さんなんて、すごいぞ」

「そう……なんですか?」


 南先輩は、そんなこと言ったけど……

 深谷先輩はきっと頭がいいだろうから、よい意味ですごいんだろうけど。

 部長は? 良い方で? 悪い方で?


「あ、あの部長は、どうだったんですか?」

「私の、見たい?」


 小さく頷く。


 全く想像がつかない。


 部長から成績表を受け取り、それを開くと……


 あれ? 


『4』と『5』しかない……


 英語、数学、理科系の科目が『4』で、あと全部『5』


 え? 意外と頭いいの?


「……今、春山くん、驚いたよね?」

「え?」

「もしかして私のこと、おバカな子だと思ってた?」

「いえ、そんなことないですって」


 いつ、そんな勉強してたんだ?

 一緒にいて全然気づかなかった。

 だって、遊んでるか寝てるかの、どっちかだったじゃん。

 授業でしっかりと覚えているタイプの人なのかな? 

 本当は、ちゃんと勉強してる、すごい人なんだな……


「みーちゃんは、もっとすごいんだよ。見る?」

「いや、いいです」


 これ以上凄いなら、見る必要もなく簡単に想像できる。


「春山、ここにいる二人は、うちらがおいそれと近寄れる存在のお人じゃないんだぞ」

「そうですね」


 まぁ、そんな人に土下座して水泳部の練習試合に出てもらってましたけどね。


「この二人は、あれだよ、その……」

「はい?」


「そうそう、色即是空(しきそくぜくう)の貧乏学生」

「……???」


 ……?


 …………なんだって?


 しきそくぜくー の? 貧乏学生?


「南さん。それを言うなら才色兼備(さいしょくけんび)の品行方正(ひんこうほうせい)」


 ずっと本を読んでいた深谷先輩が、耐えかねて初めて重い口を開いた。


「あー それそれ! 三色団子の品番修正!」


 やばい。南先輩の知能が……

 成績表を見るまでもなかった。



 そんな時だった……


 バタン!!


 という戸が開く大きな音とともに、遠野先輩の叫び声が入ってきたのは……


「あ―――――もお―――――」


 怪獣のように足音を立てながらやってきた。


「なんで――!! あたしが――!! 補習なのよ―――!!!」



 ……


 …………


 ………………ふっ……補習なんだ。


 遠野先輩は僕の前までやってくると、膝をついて崩れ落ちた。


「も―― なんで!?!? ちゃんとテスト受けたでしょ!」


 ただテストを受ければ、いいってもんじゃ……


「ねぇ、なんで? 春くんどうして? あたしばっか補習なの??」

「それは……成績が悪かったからでは……」


 そんなに僕の身体を揺さぶって尋ねられても……

 周りのみんなは憐みの目で見ている。


「明日から3日間だなんてぇ! 聞いてないわよ!!」

「いや、先生、言ってたと思うぞ。答案返す時に……」


 呆れたように、南先輩にもそんなこと言われてる。


「もう、遊びとバイトの予定入れちゃったじゃないのよ!!」


 この人の生活内の優先順位って、あそび>バイト>勉強 なの?


「春くん、お願い! 代わりに出て!」

「ちょっ、無理ですって!」

「お願い、ホントにお願い! 1授業1000円払うから!」

「いや……無理ですよ、それは」

「けち―――!!!」


 いやぁ、けちって言われても。


「あたしの貴重な、女の子の貴重な青春の120ページが失われるのよ!!」


 3日間で120ページってどんだけ分厚いんだよ。遠野先輩の青春。


「あ――もう! じゃあ、どうしろっていうのよ!」

「……補習、受けてください」


「いやだ―― 勉強したくないぃぃ……」


 とうとうその場で泣き崩れてしまった。


「部長、なんとかしてください」

「そうだね~」


 もう手に負えないので、部長に任せることにした。

 すると部長は優しく近寄り、子どもをあやすように話しかける。


「遠野さん?」

「へ?」

「一緒には補習受けられないけど、私たちも学校には来るね」

「……ホント?」


「3日間、稽古しに来るから。一緒にお昼食べて、ちょっと稽古して帰ろう」

「ありがと~ かなちゃん~」


 なんて優しいんだ部長は。


 そして、


 なんて人騒がせな人なんだ、遠野先輩は。

 完全に自業自得だっていうのに。


「というわけで、春山くん。明日からお茶のお稽古、がんばろうね」

「…………え?」


「春くんも、ありがと~ね」

「え? えぇ、まぁ……」


 え? なん……だって?

 明日から、お茶の稽古、がんばろう、だって?

 僕も学校に来るってこと?


「ずいぶんと、やる気じゃんか、春山」

「あ、あの、南先輩は?」

「うちは明日寝てるわ」


「ふ、深谷先輩は!?」


 ダメだ、無言で本読んでる……


「春山くん、明日から特訓だね」

「あー はー」


 なんと僕の夏休みは、まだ始まることなく、


 茶道部の延長戦へと突入してしまった。

今日も読んでいただき、ありがとうございます。


面白かったなー よかったなー 続き早く見たいなー 応援してもいいかなー

という方は、ブックマーク、評価のほどよろしくお願いします。

まだまだ、頑張りたいと思います。

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