第5話 勇者と欲望と追い剥ぎと
「ん、んんっ、? 此処は何処だ? 」
目が覚めたら自分のアパートでは無い見知らぬ場所……
では無く、遺跡神殿の一室だった。そうだ俺、異世界へ勇者として召喚されたんだった。
余りにも濃密な召喚初日を思い出して、全部夢なら良かったのにと思う一方で、少しワクワクしている自分に気付き驚いた。まあそのワクワクは昨晩のマリナ姫達との熱い夜が原因なのだが。
勇者だ、異世界だと騒いだ所で所詮、俺も男だと彼女達に思い知らされた。嫌々所か強制で飛ばされたこの世界で、早くも守りたいと思う女性が三人も出来たのだ。モチベーションも上がるってモンだろう。
石造りの部屋の明かり取りの小窓から差し込む光に目を細めながらベッドから起き出す。残念ながら俺1人で寝ていた様だ。
トランクス一丁で立ち上がるとテーブルの上に服が畳まれて置かれていた。ミリアさんが生活魔法のクリーンを掛けてくれたのだろう。服も部屋も、俺自身も寝起きなのにさっぱり爽やかで、昨晩の行為の痕跡は微塵も無かった。
部屋を出て神殿の外へ。どうやら朝と言うにはもう少し遅い時間の様だ。騎士が命令を出し、兵士の皆さんが荷物を纏めている。マリナ姫の話だと1日休息を取ったら王都へ向かうと言っていた。
皆が挨拶してくれるのだが……何だか皆、ニヤニヤしている。どうやら昨晩の出来事が知れ渡っている様だ。
隊長格の騎士さんからも
「アンタ、その強さもだが、姫様をモノにしちまうなんて本当に凄いな。」
と、褒められた(?)。
マリナ姫を探していたのだが、どうやら此処には居ない様だ。辺りを見回していたら馬房の隣に丸くなって寝ていたドーラが起き上がり、俺を見つけたのかクオオッとひと鳴きした。
「ドーラ、おはよう。」
『イチロー! おはよう!!』
声に出した挨拶に、ドーラの声が頭の中に響く。その声は可愛らしいアニメ声だった。どうやらドーラは女の子の様だ。
『「球団マスコットと仲良し」の親密度パラメータが上がり、「念話」が解放されました。』
『わっ、今の声は誰?』
「えっ?ドーラ、「敏腕マネージャーさん」の声聞こえてんの?」
『うん…… なんか女の人の声がイチローの中から聞こえた。』
「あ〜その声の人はな…… どう言えば良いのかな?俺の勇者活動を支えてくれる精霊?さん的な?」
『うーん、分かった!!イチローの味方なんだね!』
「おう、そうだな、俺達の味方だ。」
『はい。私はイチロー様の勇者活動をサポートするスキル
「敏腕マネージャー」です。ドーラ、よろしくお願いします。』
『びんわん?よくわからないけど、分かった〜!よろしくね。びんわんさん』
「おう、そんじゃ2人ともよろしく頼むな。」
『うん、分かった!』
『了解です』
何やら新たな絆が生まれた様だ。近付いてドーラの頭を撫でまくるとドーラも嬉しいのかグルグルと喉を鳴らして甘えて来る。ふふふ、愛い奴め。動物好きの俺にとってはドーラの存在もワクワクする要素のひとつだ。
ドーラの体を撫でいたらとある事に気が付いた。昨日魔族の指揮官が乗っていた時には鞍が付いていた筈。
今のドーラの背中には何も付いておらず、辺りを見回しても何処にも鞍は置いて無い。
「なあ、ドーラ? 昨日は背中に鞍が付いてたよな?外してもらったのか?」
『鞍はね、私の首に巻かれた魔導具の中に入ってるよ。ちょっと待ってね。 えいっ。』
ドーラのえいっ、と共に首の魔石がピカッと光るとドーラの背中に鞍が着いていた。
『イチロー、乗って見る?』
「乗りたい!乗りたい!ドラゴンに乗れるなんて夢の様だ!」
『はい、どーぞ。ベルト締めてね。』
ドーラが乗りやすい様に首を下げてくれた。俺は鞍に手を掛けて跨ると腰の落下防止ベルトを締めて手綱を握った。
「オッケーだ!」
そう伝えるとドーラはゆっくりと立ち上がる。観光地で乗馬体験はした事があるが、遥かに大きな飛竜だけに馬よりも目線の位置が遥かに高い。
『歩くよ〜?』
「頼む。」
ドーラがゆっくりと歩き出した。おおおっ!俺、ドラゴンに乗ってる。これぞ異世界!!ファンタジーバンザイ!
周りで荷造りをしていた兵士さん達からの視線を浴びながらドーラの歩みが少しずつ速くなってきた。そして遺跡の石畳を抜けた辺りから更に速度を上げていく。
『飛ぶよ〜!!』
「おう!!」
ドーラが畳んでいた翼を広げて羽ばたくと歩行の振動が無くなった。あっという間に離れて行く地面。オープンカーばりの座席だが、ほとんど風を感じない。ドーラに聞くと鞍が風除けの結界を張る魔導具なのだとか。
おっとりとした幼い喋り方だが、ドーラの知性はかなり高い様だ。カッコいい飛竜と会話出来てその上賢いなんて最高かよ!?
昨日の不安を蹴散らしてくれたマリナ姫達。そのお陰で一つ気付いた事があった。
この異世界転移は望んだ出来事では無いが……どの道帰れないのならば楽しんだ者勝ちだと。
飛竜であるドーラに乗って空中散歩なんて、地球だったらアラブの石油王でも経験出来ない事なのだから。
いつの間にか、かなりの高度になっていた。遥か彼方に見える地平線を眺めながら俺はそんな事を考えていた。
「ドーラ、そろそろ戻ろうか?」
『うん、分かった〜!』
かなり遠く迄来ていた様だ。ドーラがちょっと本気出すと伝えて来た。すると翼から蒼い粒子が溢れて出して、ドーラはジェット戦闘機の様なスピードで飛行し、あっという間に遺跡神殿上空へと到着した。
遺跡神殿を上から見下ろしていた俺だが、ふと気になる事があった。
「ドーラ、昨日魔族の指揮官が落ちた場所は分かるか?」
『ん?分かるよ~ 行って見る?』
「ああ、頼むよ。」
ドーラは遺跡神殿の上空でくるりと旋回すると、目標地点を目指して羽ばたいた。
魔族の指揮官が落ちた場所は短い草の生えた草原の様な場所だった。すぐそばに着陸したドーラから降りると俺は草むらに倒れ息絶えた魔族の指揮官の遺体を調べた。
幸いにも遺体はまだ野生の魔物などに襲われておらず割と綺麗なままだった。ただまあ、首か妙な方向へ曲がっちゃってるが……
改めて指揮官の遺体を調べてみる。人間と同じ顔付きだが、明らかに人では無い。紫色の肌の色、魔族って人種だろうか?頭には角まである。
黒っぽい豪華な衣装を着ている所を見ると、魔族軍の中でも上位の存在だったのだろうか?
まあ魔族軍の豪華な軍服(?)に興味は無いが、腰に巻いているウエストポーチに心惹かれた。ポーチに短剣、何かの薬の小瓶が五本装備されており、マットグレーなカラーが何とも渋い上、中々機能的なアイテムぽい。
昨日倒した指揮官が、魔族軍の何らかの情報を持って無いだろうか?と考えてドーラに案内してもらったのだが……
ウエストポーチのファンタジー感溢れたデザインにそんな事は忘れ気味な俺なのであった。勇者として有るまじき追い剥ぎ行為だが、昨日コイツは俺や皆を抹殺するべく部隊を率いて襲って来た敵なのだ。そしてそれを倒したのは俺なのだ。
だから戦利品を手に入れる権利が有るのだ。
俺は自分自身にそう言い聞かせ、指揮官のウエストポーチに手を掛けた。ベルトを緩めてポーチを外し遺体の服のポケットをチェックする。残念ながらポケットには何も入っていなかったが左手首に腕時計の様なコンパスぽい何かを巻いていたのでそちらも外して頂く事にした。
追い剥ぎ行為に良心が痛んだ俺は、せめて埋葬して……と思ったのだが、地球でも宗教によっては火葬NGだったりするのだ。ドーラにに聞いても分からないとの答えだったので、手を合わせる程度にしておいた。
そして戦利品であるウエストポーチを腰に巻いてみる。
白いワイシャツにジーンズとスニーカー。腰にマットグレーの短剣装備のウエストポーチ。ほんの僅かだが見た目にファンタジー感がプラスされた……様な?
コンパスみたいなリストバンドは何だか分からないので
仕舞っておこうとポーチに手を入れると、頭の中にリストが表示された。どうやらこのポーチ、ファンタジー世界ではお馴染みの空間収納の付いたマジックポーチだった模様。
頭に浮かんだリストはこちらの文字で書かれているが、スキル「通訳無用」があるので普通に読める。内容物は水の入った瓶やら食料品、酒、装備品その他諸々、かなりの量だ。
『イチロー様、暫くポーチに御手を入れたままでお願いします。』
「敏腕マネージャー」さんからお願いが入った。どうやら俺の頭の中に表示されたリストをダウンロードしている様だ。
どうやらこのポーチ一つで、それ相応の部隊の補給物質を賄っていた様だ。魔族軍にとってもかなりの重要アイテムと言えるだろう。折角なんで中身共々、有効活用させて貰おう。
地球にいた頃の俺ならば、殺した相手の装備品を追い剥ぎして身に付けるなんて、ヒトの心無いんか!?とツッコむ所だが…… こっちの世界ではそれが正解なのだと理解しつつあった。
弱いだけならまだしも、心弱ければ虫ケラの様に踏み潰される。ましてや種族の滅亡を賭けた戦争なのだ。使える物は何でも使って勝ち残らねばならないのだ。
『イチロー様、御手の方もう結構です。マジックポーチの内容物リストダウンロード完了です。以降、私にご相談頂ければ状況に応じたアイテムのご案内が可能性です。
それともう一点、内容物に魔族軍の作戦指令書と思われる巻物がありました。確認を推奨します。』
「敏腕マネージャー」さんの解説が終わった。流石、仕事出来るスキルだ。マネージャーさんの推奨に従って、巻物をポーチから取り出して広げて内容を確認する。その内容にはこうあった。
魔族軍第一遊撃部隊へ伝令
レイリア王国が救世の勇者召喚を企てているとの情報有り。速やかに召喚の魔法陣のある遺跡神殿を強襲し、勇者召喚を阻止せよ。
尚、勇者召喚部隊を全滅後はレイリア王都攻撃軍へ合流 攻撃開始日時は竜の月 風の5日 陽の刻
第一遊撃部隊の奮闘を期待する。
対レイリア王国 攻撃軍司令
ゲパルド ザム バルバロイ
こ、これは!? どうやらレイリア王国の王都に魔族軍の総攻撃が迫っている様だ。こちらの言い回しによって俺には日時が判断出来ないのでマリナ姫に報告するべきだろう。
「皆んなの所へ戻ってマリナ姫に報告しなければ……
ドーラ、帰ろう!」
俺は再びドーラに乗り込み遺跡へと帰還した。
遺跡神殿上空へ到達するとドーラはゆっくりと降下して
着地する。首筋を撫でながら「ありがとう」と礼を言うと
『イチローの為ならいつでも乗せてあげるよ〜!』
と嬉しい事を言ってくれる。更に降りやすい様に姿勢を低くしてくれたのでポンポンと首筋を軽く叩いてから地上へ降り立ったのだが……
背中からドンっと誰かに抱きつかれた。振り返ると、顔をクシャクシャにして泣きじゃくるマリナ姫の姿があった。
えっ、ど、どうした!? 何かあった?まさか俺が居ない間に魔族軍に襲撃されたとか!?
「マリナ姫、落ち着いて下さい!どうしました?何かありましたか?」
「ごべんなさい…… 私、イチローさんが……ヒック、ヒック、何処かへ行ってしまったのかと……不安になってしまって……」
あ〜、誰にも何も言わずにドーラに乗って見えないぐらい迄遠く迄行っちゃったからな……恐らく姫の涙は俺を信じ切れずに不安になっちゃった事への罪悪感から……かな?
「すみません、マリナ姫。ドーラが乗せてくれるって言ってくれたんで、ついそのまま…… 誰かにドーラに乗る練習に行くと、伝えるべきでした。本当に済みません……」
「そんな、イチローさんは何も悪く……」
俺は姫の謝罪の言葉を遮る様に、軽く抱きしめて耳元で囁く。
「安心して下さい。俺は姫を置いて何処にも行ったりしませんから。」
俺の言葉を聞いたマリナ姫は顔を真っ赤にして俯くと俺に強く抱きついて来た。
臣下の皆さんの前で一国の第一王女を抱きしめてしまったが、まあそこは勇者ムーブって事で……勘弁頂きたい所なのだった。
その後、感極まったエルメラさんとミリアさんにも抱きつかれた。どうやら姫を宥める為に不安な気持ちを押し殺していたのだろう。2人にも抱きしめ返して「大丈夫、何処にも行きませんよ。」と伝えた。
三人が落ち着いだ所で、俺は確認して欲しい物が有るとマリナ姫に伝えると、姫達三人からも重要な話があると言われた。その為、遺跡神殿内の一室へと移動しお互いの話を聞く事となった。
応接室の様な部屋のソファーに向かい合って座り、ますば姫達の話を聞く。
「今朝、目覚めて身だしなみを整えておりましたら……
神より啓示を賜りました。内容的には「何らかの力を得た。」そうです。それは私だけでなく、エルメラとミリアも同じく啓示を賜りました。」
神の啓示…… 何らかの力を得た……か。俺は駄目元で、
「敏腕マネージャー」に頭の中で話掛ける。
『マネージャー、心当たり、有る?』
『はい。彼女達の変化を感知致しましたので、私の方からナビゲーションを行いました。』
『マジか…… 状況説明してくれる?』
『了解です。 昨晩の行為によってイチロー様の余剰エネルギーが彼女達へと譲渡された結果、彼女達の種族レベルが上昇しジョブを獲得するに至りました。
総合的に判断した結果、イチロー様の目指すこの世界を救うと言う目標達成に有効と判断致しましたので、ナビによる告知を行いました。』
昨日の晩の行為…… 余剰エネルギーの譲渡…… 心当たりは多いにあった。だって…… ミリアさんが「避妊は完璧ですから。」なんて言うから……
『で何、ドーラに続いて姫達にもコネクト出来る様になってる訳?』
『はい。 彼女達がイチロー様のエネルギーを取り込む事によりパスが解放されています。」
『うーん…… もしかして姫達もステータス見れる?』
『こちらの世界仕様となりますが「ステータスオープン」にて確認可能です。』
「あ、あの…… イチローさん?」
おっといかん、「敏腕マネージャー」さんとの脳内トークで無言時間が長った様だ。
「すみません、少しその「神」との対話をしておりましたので……」
「イ、イチロー殿は「神」と話す事が出来るのですか!?」
エルメラさんが驚愕の顔で聞いてくる。まあ、神では無く俺のスキルなんですけどね。
「ええ、ただこちらの世界の神では無いので……」
『私は神ではありませんが?正直、支援スキル如きが神を騙るのは非常にマズいです。』
マネージャーさんから強火のクレームが入る。はいはい、分かりました。何とかします。
「正確には「神」では無く私を導いてくれる精霊的な存在です。」
「精霊…… イチロー様は精霊様に導かれておられるのですね! 流石、勇者様です。」
そう言うと、ミリアさんが尊敬の眼差しで俺を見つめてくる。
『精霊ですか……まあ「神」扱いされるよりは妥当ではありますが……』
マネージャーさんも何とか納得してくれた様なので……
「では精霊様、宜しくお願い致します。」
俺がそう告げると姫、エルメラさん、ミリアさんは「?」って顔をしていたが、次の瞬間、三人共、驚愕の表情になっていた。何故なら……
『皆様、初めまして。私はイチロー様を導く存在、「敏腕マネージャー」です。以後お見知り置きを。」
姫達三人の頭の中に精霊にしては腰の低い挨拶が聞こえたからだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。面白い、読んだ事無い様なストーリーをと頑張って書いております。
面白かった、先が気になる、と思って頂けたら、ブクマ、星評価、感想お願いいたします。おっさんの励みになりますので。
次回予告!!
風雲急を告げる。王都に迫る大災厄!!ユグドラシア人類最後の砦となるべく姫達の強化訓練が始まる。
次回第6話 「戦略兵器と化す勇者パーティ」
でよろしくどうぞ。




