第13話 成り上がって、娶って……ついでに世界も救っとく。
この世界を統べる女神メルセナ様からの御神託を受けた翌日の朝食後、マリナ姫から重要な話があると言われた。
「イチローさん。ゼラルク国王陛下が御目通りを希望しておられます。」
え?ゼラルク国王陛下?
「えっ…と? この国の国王陛下が? 御目通りを希望って、此方からお願いするの間違いでは?」
「何を仰っているのですか。イチロー様はこのレイリア王国の救世主なのですよ? その上、精霊様に導かれ、女神メルセナ様の御神託までお受けになった勇者です。
イチローさんが謙ってって国王に謁見を申し込むなど、絶対に私達が許しません。」
凛とした顔付きでマリナ姫がキッパリと宣言する。その後ろでエルメラさんとミリアさんがコレまた真剣な顔で頷いていた。
い、いや、待って、ちょっと待って。
「あ、あの…… ゼラルク国王陛下って、マリナ姫の……」
「はい。父です。」
「そ、そうですよね。つかぬ事をお聞きしますが、姫達が力を得る事になった経緯とかは…… 」
「はい。全て父…… いえ国王陛下に報告致しました。」
報告致しちゃいましたか……
「因みに ダルク リヒテン レイリア王国騎士団長とアルマード リーフレン公爵も同席される予定です。」
!!?、リヒテン…… リーフレン…… ま、まさか……
「もうお分かりかと思いますが、エルメラさんとミリアさんの御父上ですね。」
あっ、えっ、コレって……
「お二人もその…… 御両親に…… その辺の経緯は……」
エルメラさんが恥ずかしそうに答えてくれる。
「はい、純潔を捧げてイチロー殿に力を授けて頂きましたと報告致しました。」
イタズラそうな笑顔でミリアさんが言う。
「心配いりませんよ。イチロー様。父からは「でかした。」とお褒めの言葉を頂きましたから。」
「あのっ、マリナ姫様? おっ、俺はどうなってしまうんでしょうか?」
「そんなに難しい話ではありませんよ? 国王陛下からはこの国を救ってくれた事に対して感謝の御言葉を賜るでしょう。
後は…… 私達との関係ですね。私達三人はイチローさんに純潔を捧げでおります。言わば「傷物」ですから。この様な御時世でもありますがもう他の殿方には嫁げません…… 順序が逆ではありますが、イチロー様に嫁ぐ流れになりますね。」
俺に嫁ぐ…… 嫁ぐ? お嫁さん? 奥さん? 妻?
「三人とも? デスヨネ?」
「当然そうなるな、イチロー殿。ただこの国の法律では一般市民の一夫多妻は認められていない。だから恐らく、爵位を与えられる事になるだろう。」
エルメラさんが説明してくれた。爵位…… 御貴族様になっちゃうんですか?俺。
「恐らく王家と対等な立場の爵位が与えられると思われますよ。」
王家と対等…… ミリアさんの口から出た言葉が余りにも現実離れしていた。この世界へ送り込まれてまだ10日も経過していないのだが、貴族への成り上がりがもう目の前に。いやいや、展開が早いにも程がある。
と、どうやら考え込んでいた沈黙が彼女達に不安を与えてしまった様だ。
「あの…… もしやイチローさんは、私達三人を娶ると言う話に乗り気では無いのでしょうか?」
マリナ姫がもう泣き出しそうな表情で俺に聞いてくる。
ああ、駄目だな、俺は。また自分を慕ってくれる女の子を不安にさせてしまった。
あの日決めたんだ。帰れないならばこの世界を楽しみ尽くすと。こんな可愛いくてメチャクチャ強い女の子が三人も嫁に来てくれるのだ。果報以外の何物でも無い。
日本男児としてここは決めるべき場面だろう。俺はマリナ姫、エルメラさん、ミリアさんを呼び寄せて三人纏めて抱きしめた。
「こんな異世界人の俺ですが、マリナ姫、エルメラさん、ミリアさん、俺と結婚して下さい。
絶対幸せにしますから。そしてついでにこの世界も救います。」
俺の気の効かないプロポーズに三人はぐしゃぐしゃに泣きながら「はい」と答えてくれた。またしても彼女達を泣かせてしまったが、嬉し涙はノーカウントって事で。
「イチロー!!私も、私も結婚してあげる。だからお嫁さんにして!!」
「おう! ドーラ、結婚しよう。ドーラも俺の嫁さんだ。」
姫達と一緒にドーラも抱きしめて、抱きしめ返される。その様子を優しく見つめていた二階堂マネージャーに声を掛ける。
「二階堂マネージャーはどうします?」
「えっ、わ、私もですか? 私は貴方のスキルなのですよ?」
まあ、確かにそうだが、こんな美人に実体化出来るのだから結婚出来ない訳じゃないし付き合いの長さも姫達と変わらない。何よりこの世界に置いて1番お世話になっている人物なのだ。俺の幸せにするべき人リストにも当然名前が載っている。
「貴女には1番苦労を掛けると思うのですが、それだからこそ俺は貴女を幸せにしたいと思ってます。」
俺の言葉にか〜な〜り迷った様子から答えが返ってきた。
「お気持ちはとても嬉しいのですが…… 今はまだやるべき事が多いですから……今は保留でお願いします。」
「分かりました。では今暫くは内縁と言う事で。改めて宜しくお願いしますね。二階堂マネージャー。」
「そんな言い方…… ズルいです。」
やはり美人の照れ顔は良い。成り行きでハーレム?になってしまったが、もう開き直って堂々と行こう。皆の笑顔にそう思う俺なのだった。
国王陛下からの謁見の申し出の話から数日経ったが、動きが無かった。何故ならば……
この国を救った勇者とはいえ、一国の王が若造に謁見するなど前代未聞で、重鎮の家臣達から大反対が出た様だ。対する姫達も俺が謁見を申し込むなどあり得ないの一点張り。
なので、姫にお願いして事前に内密でゼラルク国王陛下と一対一でお会いした。
ゼラルク国王から父として娘を、国王として国民を救ってくれた事に感謝の言葉を頂いた。そして家臣の反対を押し切ってでも、俺をこの国最高の地位へ据えたいと言われた。
この王都グランレイアに迫る魔王の軍勢を全滅した勇者であり、導きの精霊とこの世界を統べる女神までもがバックに着いている。一国の国王が王位を投げ打ってでも仕えたいとの申し出を受けたのだが……
正直、ドロッドロッの貴族社会の中で政治をし、民を導くなど真っ平ゴメンであり自分には無理だと分かっている。
そんな訳で俺は、やんわりと国の政は今迄通りゼラルク国王陛下にお任せし、この国への協力は惜しまないが、この世界を救う戦いに専念したいと伝えた。
ゼラルク国王も俺の意志を尊重してくれ、国の運営は今まで通りレイリア王家が受け持つ事となった。
そちらの話は収まったが、姫達の身の振り方へと話題が変わった。
姫達の話通り、マリナール姫、エルメラさん、ミリアリアさんを娶って貰いたいとの申し出だった。
自分がやらかした事なのだが、ファンタジー世界で純潔を失った王侯貴族の娘さん達がどの様な扱いを受けるのかは想像に難しくない。ゼラルク国王も娘を持つ父として思う所は山程あるとは思う。だが先日の魔族軍の大侵攻で玉砕まで覚悟したからか、彼女達の思う様にさせてやりたいと心の内を明かされた。
その為にも俺に強い立場での爵位を与えたいが、コレまた家臣の貴族が強く反対するだろうと言われた。
俺は三人にプロポーズし、絶対に幸せにすると約束した事を告げた。そして反対する貴族たちは俺が黙らせると伝えた。それを聞いた国王は静かに頷くと
「救世主殿よ、娘達とこの世界を宜しく頼む」
とお願いされ、俺も静かに頷いた。
その後、ゼラルク国王陛下、以下重鎮の皆さんとの会談が開かれた。
重鎮の家臣の皆さんと姫達のマウントの取り合いは折り合いがつかず、王宮の大会議室に双方が同時に入室すると言う前代未聞の形式で始まった。会談は俺の自己紹介の後、ゼラルク国王から俺たちへの魔族軍撃退の感謝の言葉へと続いた。
まあその間家臣の皆さんからの敵意ある視線をヒシヒシと感じていた訳なのだが。
国王陛下からの感謝の言葉に返礼の言葉を述べた後、
俺は徐に切り出した。
「では、この場をお借りして、皆さんにこの国…… いえ、この世界の人間が置かれている現状について御説明したいと思います。」
俺の言葉に場内、国王側がざわついた。
「それでは、二階堂マネージャー、宜しくお願い致します。」
『はい。』
この場に居る全員の頭の中に女性の声が聞こえた。国王側の皆さんが軽いパニックになっている。
「静粛に。精霊様が顕現なされます。」
俺は強い口調で場を鎮める。。実はこの会談が始まる前から先の戦いでレベルアップして得た新スキル「貫禄」を強めに発動していた。
故に国王側の貴族達には俺の姿は頼りない若造では無く、「下手したらコイツ魔王なんでは?」ぐらいの印象を与えている筈である。
俺の声に場が静まった。
「それでは……二階堂マネージャー、御顕現です。」
王家の皆さんと俺たちの合間、光差す窓際に一層明るい光の粒子が集まって空中に人の形に集まっていく。
「おおお……」
王家側の皆さんがから嘆の声が漏れた。その輝きは人の女性の姿となってフワリと床へと降り立った。当然ながら、二階堂マネージャーその人である。
俺はすかさず片膝を付き頭を垂れる。姫達も同じく臣下の礼を取っていた。
さて、ゼラルク陛下側は突如現れた人ならざる存在に対してどうする? 横目で見ていると陛下自ら膝を折りを垂れていた。それを見た家臣団の皆さんも陛下に倣って膝を折っていく。
「初めまして。私は「敏腕マネージャー」、この世界を統べる女神メルセナ様の使徒、タナカ・イチローを導く精霊です。」
二階堂マネージャーがよく通る声で挨拶を述べた。どうやら俺は女神メルセナ様の使徒であり、二階堂マネージャーはその俺を導く精霊の設定で行く様だ。
「少々長い話になるかもしれません。皆さん楽にして頂いて構いませんので。」
「はっ、お気遣い痛み入ります。」
俺はそう返して、姫に合図する。完全に茶番であが、貴族相手にはハッタリも重要なのだ。
「会場に席の準備を。」
マリナ姫の号令で何も無かった会議室に椅子が運び込まれた。俺とゼラルク国王陛下の椅子はワンランク上の豪華な椅子が用意され、二階堂マネージャーの席は更に上質な椅子が用意されていた。
仕切り直して落ち着いた所で、二階堂マネージャーが切り出した。
「では、改めて始めさせて頂きます。チームイチローの皆さん、先日の魔族軍の撃退お見事でした。」
二階堂マネージャーの声に俺以下姫達が軽く頭を下げる。そしてマネージャーは国王陛下サイドに向かって話かける。
「幸いにもチームイチローの皆さんの尽力により王都グランレイアは無傷で守られましたが…… 女神メルセナ様より頂いた情報によりますと、このグランレイアの現在の人口は近隣の町村よりの避難者を含め約18,000名、残念ですが…… それがほぼこの世界に残る人間の数となります。」
俺は事前に聞いていたから流石に動揺はしないが……
ゼラルク国王側の皆さんにはかなりな衝撃情報だった様だ。誰一人言葉を発しない。
邪神率いる魔族軍は攻め落とした国の人々を奴隷化する事はせず、邪神に魂を捧げるべく皆殺しにしていた。
この世界へ送り込まれる時に野球の神も言っていた。
「ユグドラシアは陥落寸前だ。」と。そして二階堂マネージャーの解説が続く。
「先の戦いで、魔族軍司令、ゲパルト・ザム・バルバロイを含め、魔族軍の約4割を殲滅したと思われます。
これにより、魔族軍も暫くは大規模な侵攻は不可能であると推測されます。この地は魔族軍の本拠地である漆黒の森から極めて遠い位置にある事を踏まえて暫くの猶予があるでしょう。」
おおっ……と国王サイドから安堵の声が聞こえる。いや、凄い大軍勢だとは思っていたが、全軍の四割も居たのか。それをドーラ含めてたった五人で全滅したのだ。…… スゲーな俺たち?
二階堂マネージャーの解説は更に続く。
「お互いに体制を整える状況になるでしょう。ただ恐らく魔族軍の戦力補充の方が先に完了すると予想しています。
対して我々は生産インフラを全て失った状況です。
首の皮一枚で人族全滅は回避しましたが……
このままでは1か月程でこの都も滅びる事になるでしょう。」
国王サイドから騒めきが起こった。ゼラルク国王がスッと右手を挙げると家臣団の騒めきが消えた。
「精霊殿、発言の許可を願いたい。」
「どうぞ。」
「それは…… 食糧供給の点からでしょうか?我々も分かってはおりまする。この城に蓄えた食糧を全て放出して恐らくそのぐらいかと。ですが……魔族軍に穀倉地帯を焼き払われ、今年の収穫は望めませぬ。残念ですが最早我々にはどうする事も……」
悲痛な面持ちでゼラルク国王が発言した。一国の長として、今の発言は断腸の想いであろう。だが……
この発言その物が…… 仕込みなのである。この機に乗じて下剋上を狙うバカ貴族を押さえ込む為の俺のアンサーに対する壮大な前振りなのである。
「ゼラルク国王殿。現状の正しい把握、流石と申し訳上げましょう。確かにレイリア王国としては、打開策は無いと言えます。
ですがそこまで悲観する事は有りません。希望の光はもう用意されております。そうですね?勇者殿?」
国王以下家臣団の皆様から声が上がる。二階堂マネージャーから名指しされた俺は立ち上がり、少し右手を上げて声を制した。そしてたっぷりと間を持ってから発言する。
「皆様、ご安心ください。この勇者タナカ イチロー、女神メルセナ様より打開策として「ダンジョン」を授かっておりますので。」
視線が集中し、またしてもレイリア王国川から声が漏れる。
この瞬間、俺は…… この世界へ来て以来1番のドヤ顔をしていた。
今回も読んで頂きありがとうございます。面白い、読んだ事無い様なストーリーをと頑張って書いております。
面白かった、先が気になる、と思って頂けたら、ブクマ、星評価、感想お願いいたします。おっさんの励みになりますので。
次回予告!!
野球の勇者の秘密。そしてダンジョンが動き出した王都の現在。
タナカ イチローはそんな世界に何を想うのか……
次回、第14話 「最終話 神の苦悩と勇者の反骨」
で宜しくどうぞ。




