第11話 野球凶の歌
第11話、決着です。
姫達の声援を受けて力が湧き出してくる。その力のお陰なのか、スキル「超回復」がターボで発動し体のダメージを修復してゆく。
ゆっくりと立ち上がるとゲパルトがこちらを睨みながら同じ様に立ち上がった。危ない危ない。とりあえずこれで動けないまま一方的に惨殺される事は無くなった。
お互い虚勢を張って仁王立ちではあるが恐らくヤツも俺も中身はボロボロだろう。ここから先の戦いは気合いと根性勝負になりそうだ。
絶対に勝つ!!彼女達の為にもチアガールコスでキャッキャウフフな真夜中の慰労会の為にも!!
完全に欲望塗れだが、こんな時こそ頑張る理由なんでそんな物でいいのだ。
『イチロー様、ダメージ回復率70%. 裏スキルのパワーを回復から戦闘力へ切り替えます。タイムリミットは六十秒。タイムアップ後は行動不可能になる可能性大。
視界内に残り時間を表示します。この六十秒で必ず決めて下さい。任意で発動しますので御命令を。』
「敏腕マネージャー」の声にも緊張感が感じられる。どうやらここが最終局面の様だ。
バット片手にゲパルトを睨んでいるとヤツの体から膨大なオーラが放たれ始めた。どうやらヤツも最後の切り札を使って来る様だ。
「先程の攻撃で死なんとは、腐っても召喚勇者と言う事か……良かろう。我の「鬼神解放」で今度こそ、その生命刈り取ってやる」
「おう!やれるモンならやってみろ。テメェなんざ俺のバットで場外ホームランにしてやる!」
煽られたので煽り返したのだが…… 場外ホームランの所でゲパルトは怪訝そうな顔をした。あっ、場外ホームランが伝わらなかったのか!? くそっ、これだから野球縛りは……
ま、まあ良いか。おそらくこの戦いもここが9回裏だろう。決めるぜ!!
「裏スキル発動!!」
自分に気合いを入れる為にも、敢えて叫ぶ。
『了解!! 裏スキル「野球凶の歌」発動!!リミッター解放、肉体限界的へカウントスタート!!」
「敏腕マネージャー」も絶叫だ。良いね気合い入るぜ!
視界の隅に残り時間がデジタルで表示されると数字が減ってゆく。と同時に爆発的なパワーが湧き出して、俺はゲパルトへと駆け出した。
ゲパルトも間合いを詰めて来て、中央で魔剣と召喚バットがぶつかり合い、お互いに雄叫びを上げて打ち合いが続く。
裏スキルにありとあらゆるスキルを発動しての乱打戦だ。お互い繰り出す攻撃はどれも必殺の一撃級、入れば終わりの戦いだ。
唐竹割りの一撃を「セーフティバント」で弾くが、初見の様に仰け反らせるに至らない。
「無駄だ!一度見た技など、通用せぬ!!」
くそっ、何処ぞの星座の戦士みたいな口振りで即座に反撃してくるゲパルト。
段々とヤツの斬撃が体を掠め始めている。パワー、スピードは互角でも剣術の訓練量が全く違う。俺の「サムライジャパン」は付け焼き刃レベルでしか無い。
裏スキルの発動時間が半分になった。マズい、このままではジリ貧で押し切られる。
そう思った瞬間、
「奥義、地龍獄!!」
ゲパルトが厨二的な技名と共に必殺技を繰り出してきた。下段からの猛烈な斬撃波の連打が地面を抉り、大量の石礫と共に俺を襲う。
くっ、攻撃の範囲が広い。盗塁王で加速して全力素振りからの衝撃波が最適な打開策だが、ここで盗塁王を使うのは直感的に悪手だと感じる。ならば!!
俺はバットを上段に構えて全力で振り下ろす。スキル「サムライジャパン」の能力がバットでサムライマスターの技が使えるならば、逆もイケるはず。信じてるぞ!「サムライジャパン」!!
「うおおおおっ! チェストォ!!」
気迫と共に振り下ろしたバットから衝撃波が放たれる。
石礫に紛れて迫り来る斬撃波を打ち払い真っ正面に道が出来た。衝撃波を追って俺はその道を走る。その先にいるゲパルトは奥義を放った後の残身状態だったが、魔剣を振るって衝撃波を打ち消した。
『裏スキル「野球凶の歌」残り10秒!!』
「敏腕マネージャー」から裏スキル残り時間のナビが入った。ここが山場でクライマックスだ。もう気合いで乗り切るしか術が無い。俺はゲパルトまで僅かに離れた間合いで素振りの構えをとった。
すかさずゲパルトが間合いを詰めて襲ってくる。
「この後に及んでまたそれか?衝撃波は効かん。それとも何か違う技か?まあ良い、このままこれで終わりだ。!」
ドス黒いオーラを纏った袈裟懸けの斬撃が迫る。俺は……
全力素振りを放つモーション中に手を離し、バットをミサイルの如く射出する。
『「ピッチャー強襲」が発動!!ヒットすればクリティカルダメージ!!』
そんなスキルがあったのか!?そいつは好都合だ。ゼロ距離からの飛び道具攻撃、豪将軍よ、さあどうする?
ゲパルトは迫るバットから何かを感じ取ったのか、苦虫を噛み潰した様な表情で剣撃の軌道を変えバットを逸らした。その瞬間、俺はスライディングで奴の足元を滑り抜け…… 腰のベルトに装備していた短剣を引き抜き、ゲパルトの右脇腹へ深々と突き刺した。
「ぐおっ!?」
ゲパルトはバットを払い除け、泳いだ態勢から無理矢理、背中側へと魔剣を叩きつけて来た。スライディングから膝立だった俺は避ける事も出来ずに魔剣を食らって吹き飛ばされる。
『裏スキル「野球凶の歌」効果時間終了!!』
幸いにも貰った魔剣の一撃は刃ではなく剣の腹による打撃に近く、大ダメージではあるが五体満足で俺はまだ生きている。どうやら裏スキルが切れる寸前だったらしく、強化されていた防御力に助けられた様だ。
裏スキルの効果切れによって全身が鉛の様に重い。このまま意識を手放して眠ってしまいたいが、そうも行かない。俺は歯を食いしばって腰ベルトのマジックポーチへ手を入れた。
「マネージャー!! 速攻で効く体力回復剤を!!」
『イチロー様、危険です!!この状態からの強力なポーション使用は寿命を縮める可能性が……』
「それでも構わない!今ここで気絶すると後がマズい。急げ、この状態打開の最適なヤツをチョイスしてくれ!!」
『了解、「エルフの里の秘薬」を!!」
ポーチの中にビンの手答えが。取り出したそれの封を震える指先で切り、コルクの栓を歯で引き抜いて一気に飲み干した。暖かい光の粒子が体を包み、どうにか動ける程になった俺は、立ち上がりゲパルトに向き直る。
ゲパルトは歯を食いしばって脇腹に刺さった短剣を抜いて投げ捨ていた。
「くっ、次から次へと奇妙な真似を……だがこの程度で俺を倒せると思ったか!」
正に鬼の様な表情で、直接ダメージを受けた事に怒り狂っている様だ。
「アンタさ、自分が強えからって油断し過ぎだぜ。俺が野球の技しか使わないとでも思ったか? それにな…… 俺ははアンタが思っている以上の「卑怯者」なんだぜ?」
俺がそう言い放った瞬間
「なにっ? ぐっ。グホッ!?」
ゲパルトは膝をつき吐血する。
「こ、これは、毒? 馬鹿な!毒など効かんこの俺に毒が効くだと!?」
「お前さんの部下が集めていた各国の秘宝の中にあったのさ。「邪毒龍ヒュドラの呪毒」だそうだ。キッツいだろ?」
俺の説明を聞いたゲパルトは立ち上がったが再び吐血し、よろめいた。だがその目はまだ死んではいなかった。
「我等が神の行手を阻む異世界からの不届者め。貴様は……貴様だけは共にあの世へ連れて行く。」
「お断りだ馬鹿野郎。1人で地獄へ落ちやがれ。それからお前らの信じる邪神とやらも俺のバットでブッ飛ばしてやるからな!」
人間だったらあの短剣が掠っただけで数十秒で死に至る猛毒なんだが。正直、このまま「ヒュドラの毒」で倒せれば一番楽で良いのだが、ゲパルトのタフさは想像を超えている。俺もポロポロだがここは最後の一太刀に付き合うしか無さそうだ。
再びバットを召喚し、手首で二度程クルリと回転させてから腰を落としバットを左腰へと添えた。スキル「サムライジャパン」の最強アーツ「バッ刀術 居相斬り」の構えだ。
「来い、豪将軍! 「四番ピッチャー 勇者」が受けて立つ。」
「オオオオオッ!!我が最後の一撃受けてみよ!!」
ヤツが黒いオーラを纏いそう叫んだ瞬間、世界が超スローモーションへと切り替わる。ゲパルトの「超加速」を感知して「盗塁王」が発動した様だ。
「盗塁王」が発動した瞬間にはゲパルトはもう間合いに入っていた。振り下ろされる魔剣をギリギリまで引き付けて…… 一歩前へ……
「バッ刀術 居相斬り!ツバメ返し!!」
左腰のバットを右手一本で振り抜きなから、俺は魔剣の斬撃軌道を潜り抜けヤツの後ろへと抜けていた。当然ながらすれ違い様にヤツの腹に一撃入っている。
俺の一撃を受けたゲパルトはもう「超加速」を維持出来ていない。それでも超スローモーションになった動きで振り返ろうとしていた。敵ながら天晴れ。だが……これで終わりだ。
ゲパルトに向き直った俺はバットを構え左脚をスッと上げる。
『「一本脚打法」発動、攻撃がヒットすれば敵に場外ホームラン級のダメージ!!』
「敏腕マネージャー」のナビが入った。俺でも知っているホームランキングのオリジナル打法。高い位置から左脚は流れる様な体重移動で大地を踏み込み、体全体で作り出した回転がバットへと集中してゆく。
「敏腕マネージャー」から発動するスキルが次々とナビゲートされているが……
俺の全てを乗せたバッティングがゲパルトにヒットした瞬間、世界は光に包まれた。
俺のバッティングで発生した膨大なエネルギーはインパクトしたゲパルトの体を突き抜けて光を放ち巨大な衝撃波となり、後方で待機する魔族軍の戦力に襲い掛かった。
獰猛な魔獣、強力なドラゴン、鎧に身を包んだオークやオーガのソルジャー達、そして魔族の魔導士軍団。その全てが光の衝撃波に飲み込まれ、なす術無く塵と化して消滅してゆく。
光が消え去った時、俺の前には地平線が広がっていた。見渡す限り、真っ平らだ……
いや……ちょっと待って!?威力おかしいって。一体何が起こったのよ?俺の心の声に「敏腕マネージャー」が答えてくれた。
『一本脚打法にスキル全部乗せが発動した結果、新しいスキル「超新星」が発動した模様です。』
なるほど?でもそれ、野球関係無くね?
『まあ……期待の超新星……とか言いますし?』
んん……?まあ、いいか。野球に縛られた俺のスキル名なんて、考えるだけ無駄なのだから。
満身創痍、もうボロボロ、立っているだけで一杯一杯だった。それでも「敏腕マネージャー」と中身の無いトークを交わしていた俺は、少し離れた所に何かが落ちている事に気付いた。
全てが均された景色の中に落ちていたのはゲパルトの上半身だった。しかも体半分になってまだ生きている。
「しぶといな…アンタ…」
「見事だ…… 異世界の勇者よ……」
「止め……要るかい?」
「申し出は有り難いがそれには及ばん。もう間もなく俺は死ぬ。それより最後に礼を言いたくてな……」
「礼……?」
「邪神の加護から解放してくれた事…… 感謝する…… そして一つ頼みたいのだ…… 」
「知らねぇよ、そんなモン……」
「今の我らが魔王はまだ年端もいかぬ少女だ…… 生まれ持っての光の加護によって…… 邪神の加護から逃れたが……魔王城の地下に幽閉されている…… のだ……」
さっき迄形を保っていたゲパルトの体が端々から塵となって崩れて逝く。本人の言う通りもう間もなく命が終わるのだろう。
「そんな話、知ったこっちゃねぇが…… 邪神とやらをブッ飛ばす為には魔王の城へも行くだろう。そん時気が向いたら何とかしてやるよ……」
見下ろして放った俺の答えに安心したのか、ゲパルトは一気に塵と化して消え去った。最後に動いた奴の口から出た声にならなかった言葉はなんだったのだろう。
『敵将と全敵勢力の消滅を確認。我々の勝利です。』
「敏腕マネージャー」から勝利宣言が出たが……
「いや、まだ残ってる。」
『!?』
俺はバット召喚を解除するとグローブと硬球を召喚し、地平線の彼方を睨み着けた。
ずっと居たのだ。この大戦が始まった時から。遠くから身を潜めてずっと俺達を観察している何者かが。
最後の力を振り絞り、地平線の彼方へと向かってフルパワーで硬球を投げ込む。指先から離れる時、ドン!と空気の壁を破る音が響いた。
『対象への攻撃の成否、確認出来ません。」
薄れて行く意識の中、マネージャーのナビを聴きながら遠くからの視線の消失を感じていいた。全く持って勘だけで投げ込んだ攻撃で仕留めたのか、逃げられたのか。
俺の中の「コントロール抜群」のスキルが『逃す筈が無いだろう?』と言っている気がする。まあいい、これでとりあえずは試合終了だ。
「流石に疲れた…… ちょっと寝る。マネージャー、後頼むわ……」
そう伝えた直後、俺の意識はプツンと切れた。
今回も読んで頂きありがとうございます。面白い、読んだ事無い様なストーリーをと頑張って書いております。
面白かった、先が気になる、と思って頂けたら、ブクマ、星評価、感想お願いいたします。おっさんの励みになりますので。
次回予告!!
辛くも豪将軍を倒したイチロー! だがその魂は傷つき……残り3話で新キャラ登場!エピソードタイトルが既にネタバレ!?
次回 第12話 「女神、新たなインフラを用意する」
で宜しくどうぞ。




