第十話 襲撃
「……仁也。さ、刺さってるよ…」
「うそ、だろ――」
一言発しようとした瞬間に、体から力が抜けるような感覚がする。心臓の鼓動を刻むリズムが早くなっていく。ふくらはぎからは液体が動いているはっきりとした違和感がある。
少し視界も狭くなって目が重い。意識がもうろうとする。それに酔ったかのように平衡感覚がおかしくなった。立とうにも立とうとする気力が出てこない。それに立てるような状態ではなくなっていた。
狭まった視界でなんとかふくらはぎの様子を見ると、そこには貫通した矢があった。
「仁也。と、取りあえず治療を」
「さ、先に矢を、抜かないと…」
優花が治療してくれようとしたのは感謝すべきところだが、ふくらはぎに刺さった矢を抜いてからではないと行えない。
「仁也。しっかりして!」
「…ああ」
「そりゃあ無理サネ」
「え?」
不意に聞こえてくる声に優花が驚いてた様子で反応する。俺もわずかながら聞こえた。不気味としかいいようがない。
優花は俺の腕を首後ろに持っていき俺が優花に寄っ掛かるように立った。
その瞬間、十数メートル先の木から枝と葉が激しく揺れる音がしてそこから三人の人が降りてきた。こいつら絶対にジークが言ってたやつだろ。
「イヤ~。これでこっちもんでスナ」
「チッ。矢なんて当たらなくていいものを」
「そうだ!その矢がなくとも勝てる!」
「誰だ…アンタら」
俺はなんとか口を動かして聞いた。横になっているときと違って頭痛が始まり、平衡感覚がさらに酷くなったように感じる。明らかに俺に矢が刺さったあとから起きたとしか考えられない。それにこのタイミングでの登場。狭い視界で見る限り、手元に弓を持っているやつが一人わかる。
最初に発した不気味な声の持ち主。誰かは知らないが。
「誰だ…と言われましても。どう答えましょうかね…。兄さんはどうします?」
「よっし!正々堂々と!」
「さすがです!兄さん!」
正体はまだ言ってないけど、キャラが濃いやつしかいないってことはわかった気がする。不気味な話し方のシュッとした体型の女に、キレ性っぽい少し小柄な体型の兄大好きな弟、そして筋肉ムキムキの単細胞そうな兄…。偏見でしかないが。
それにしてもこいつらがあのジークの言ってたやつらってことは間違いない。てことはこの近くに女の子もいる。これはまた二手になって捜索したほうがいいよな。
それには矢を抜かずともこの状態異常を治せれば、三人相手だけど時間は稼げる。
「ねえ。ネエ。お二人は私達の正体を知ってル?」
「はあ…僕たちの正体は…」
「ズバリ!グロマの構成員!」
不気味な声の女はそう言ってどこか嬉しそうに笑いながら話しかけてきて、それに対して面倒くさそうに付き合わされてる感があって呆れ気味(偏見)の弟、相変わらず大声で言う兄。
そして兄の口から出た組織名。『グロマ』
「私達ネ。その幹部なの。凄いでショー」
「はあ。なぜあえて言う…」
「これぞ!正々堂々!」
「兄さんは、素晴らしい姿勢です!」
もう軽いカオス。個性が出過ぎてる。
それにしても、この連中があのグロマの幹部と言うことに驚きは隠せない。それと同時に危機感が強くなる。なぜここにグロマがいるのかはわからない。なんの目的でこうして俺達の前に現れるのか。まったくわからない。
でも、無理やりにでも物事を結びつけるのならギルドで会ったあの冒険者チームの連中。あいつらがジークの性格を利用して女の子を助けに行くことになってこうなった。関与してる確率なんて誰が考えても高く思う。俺だってそうだ。
まあ。そんな手に引っ掛かった俺達も俺達だけど。
ただ、あくまでも無理やり結びつけた結論だ。もしかしたら偶然って可能性もある。内戦ときにレアスがグロマは俺を欲しいだとか言っていた。俺を狙っての行動かもしれない。女の子の近くにいたのも少々気になる点ではあるが。
「それで…神の眷属。どうしますかね。僕たち兄妹とこの不気味な女がいますが。当然ながら僕達は闘う気満々ですから」
「ああ!闘いはいい!戦争もいい!強い者は最高だ!」
「早く。狩りたいなア~」
まさに人殺しの中毒と言ったところだが、殺戮しか考えていないのか。それとも目的あっての行動か。こちらからすれば、意図が読めない。
でも俺を狙ってることは間違いのないこと。優花にも攻撃が来ると想定してあらかじめ三人の注意を俺に引きつけておけば、確実に二手になることができる。それにきっと優花なら探せる。場所だって近くのはずだし。
(優花。耳貸してくれ)
(ん?)
俺は優花に小声で簡潔に話した。悟られないように寄りかかりながら。
(でも。仁也は…)
(大丈夫。時間を稼ぐだけ。まともに相手はしない。だから頼む!)
優花は俺の意図を察したのか二つ返事で理解してくれた。これであとは実行に移すだけだ。その作戦だが至ってシンプル。
あいつらが優花を追えないようにすればいい。内戦で使った便利な魔法がある。
(優花。俺の左手の合図で行ってくれ)
(うん)
俺は優花から離れて片膝を地面に付けた状態を保つ。そしてグロマの連中目掛けて右手を広げる。
「さて。神の眷属。どうし――――」
「【時空魔法発動 プレッシャー】」
「なっ!」
「くっ…」
「キャ!」
俺は時空魔法の重力を加重させる魔法で連中を押さえつけて優花に左手で合図を送った。
それに気付いた優花は飛行魔法でこの場から飛び立つ。
「くっそ。一人…逃げた」
「おのれ!やりおる!神の眷属!」
「生意気ナ…」
これは運がよかったのかはわからないが、とりあえずここからはデスマッチ状態になる。とりあえずはこれで…。
「うっ……!」
俺は継続して時空魔法を発動させていると今までの頭痛がさらに激しくなって、頭の中で暴れ回っているかのよう。思わず頭を抱え込む。それと同時に連中に発動刺せていた時空魔法が発動停止となって効果が消える。
追い打ちをかけるかのように矢が刺さっている左足のふくらはぎからも激痛。肌色は青紫に変化していてほぼ立ち上がれない状況。
さらにはその状況を使って連中が反撃に出た。兄弟は接近。不気味な女は後方に下がって様子を窺っている。近接と遠方。厄介としか言いようがない状況だ。
「くっそ!死ぬかよ!」
と、俺は威勢を保とうと叫ぶが体はピクリとも動かない。
「フッ!」
「ハッ!」
兄弟は息遣いとともに俺の腹を弟が蹴り出し俺を軽く宙に浮かせると、追い打ちをかけて兄が俺の腹に拳で一発。恐ろしいほどの腕力でもう吐血をしてしまった。
吐血をした俺はそのまま後方へ飛ばされて、そのまま勢いで地面に叩き付けられて静止する。辺りは砂埃で覆われる。
全身は一瞬にして砂で汚れてまた吐血してしまった。
それに左足のふくらはぎを見ると矢が矢じりのほうへさらに進んで羽がどんどん傷口に向かっていた。正直言ってまずいのではと一瞬思ったが、この傷口を治すチャンスではと思った。
だが……。
「休ませない!」
「がはっ……!」
砂埃が充満する中で、不意に再び腹に蹴りを入れてきた。そのまま抵抗できずに食らってしまい、また後方へ。
「ゲッホ。ゲッホ。ああ…これじゃあ…まともに」
「闘えよ!」
「うえっ!」
今度は弟の攻撃で、蹴られては殴られて前方に飛ばされる。砂埃がない地点までくると今度は弓を構えて待っている不気味な女。
それにより矢の雨。なんとか当たらずには済んだがどうにもわざと外して楽しんでいるようだった。おそらくこの前の飛んできた矢もこの不気味な女の仕業だ。
「くっそ。優花。頼むから早く見つけてくれ…」




