第九話 さらなる激化
「じゃあ。二人は引き続きここでロックウルフを減らして。私は飛行して一気にボスのところまで行くから」
「うん」
「気をつけてね」
「わかってる」
サリスはそう言って深呼吸。彼女の目付きは鋭くなり新たに威圧を感じさせる。そしてジークとクラリシアはサリスの無茶に心配を抱いているようだ。ボスを倒せばこの状況が変わる、という確証は得ていない。無謀でもあり、戦闘方法も変わらず敵陣に突っ込むことになる。
彼らはここで魔獣を殲滅しなければ、先には進めない。進もうとするならば、その一瞬で隙を作ることとなる。狩りのプロはけして見逃しはしない。
「魔獣は酷いよ。狩るまでしつこくいるんだもん」
「お兄様。大丈夫ですよ。きっと勝てます」
「そうよ。ジーク。じゃあ行ってくる!」
サリスは魔法陣を展開させ飛行魔法を発動させた。それにより飛行を可能にしたが、上空に上がるなりそのままボスのロックウルフに突っ込んでいく。かなり突発的な飛行だった。仁也や優花が使った飛行魔法は安定性があったが、サリスが発動させた飛行魔法はスピードと突撃力を兼ね備えた飛行魔法だった。魔法が個人によって違うその利点はこういうことでもあるのだろう。
「さあ。僕たちも負けられないね。クラリシア」
「はい。と言っても私に残された手段は少ないですが…」
「きっと大丈夫。僕だって努力したんだ。それに微力と感じても力がないわけじゃない。倒せない相手でもない。だからできる!」
「はい!」
そう言って戦闘態勢に入った二人。二人はけして自分から攻撃を仕掛けない。向かってきたロックウルフの攻撃を防ぎ、返り討ちにする。体力的にはサリスより余裕があるが、対峙するということではプレッシャーから耐える忍耐力が大事となる戦闘だ。
一方、サリスはというと――――。
当然、飛行魔法でボスのところへ向かったのだが、さらに無謀な行動でボスとの戦闘を始めた。それは落下と同時にそのままボスに殴りかかる。
「はあああぁぁぁ――!」
空中からの突発的な攻撃にボスのロックウルフは数秒遅れて反応したが、落下速度はすさまじくロックウルフの反応速度はそれに勝ることができなかったようでその場に居座ったままだった。
「食らいなさい!」
その言葉と同時にサリスのガントレットがロックウルフの背に激突。ロックウルフはその攻撃を無防備なまま受けた。
はずだった。
「え…?」
『小娘。我がその程度で終わるとでも?甘いわ!』
「え…?喋ってる…?」
ボスのロックウルフは攻撃を受けても影響があるような様子はなく、サリスに話しかけた。サリスは一旦、離れて地面に足を着ける。
ボスのロックウルフは視線をサリスのほうに向けた。
「な、なんで…」
『ハッ!逆にこちらが聞きたい。私がここで君達の戦闘を見ていたことくらいわかるだろ?どんな人間かお見通し。小娘の単純な攻撃も予想できる。空から急降下したまま攻撃を仕掛けるとは思っていなかったけどね』
「で、でも魔獣は…知能なんて」
『そう!魔獣や魔物だって知能は人間に大いに劣ってしまう。けど、その魔獣や魔物が特殊だったら、どうするさ?』
「え……?」
『別の魔獣部隊はもう実験体として役目は終えたようだけど、私らは完全体!これからが本番さね』
「そ、そんな…。しまった!ジーク!クラリ!」
『ハハハハッ。この距離で聞こえるわけなかろう。それに彼らはプレッシャーとの闘い。視野が狭くなっている状態で気付くわけがない』
ボスのロックウルフが言う特殊。それはサリスも、もっと言えばこの場にいない仁也達だって目にしたことは当然ある。しかしながら、魔獣と言えども言葉を話せる魔獣をサリスは知らない。彼女は目の前の前例のない魔獣に、ただ鋭い視線を向けるしかなかった。
未だかつて、そのような魔獣は現れていない。そもそも人以外で言葉を話せる動物がいただろうか。コミュニケーション能力を兼ね備えた動物はいるが、それ以上はありえない。言葉は話せない。ましては人が使う言葉など。
『はいはい。そんな敵対した目をしなくても。あたしらは初めから敵対してるよ。ねえ』
『ああ。そうだな』
「え……」
サリスの目の前に現れたもう一匹の巨大なロックウルフ。会話からするに明らかに夫婦。
この群れが襲いに来る瞬間。この巨大なロックウルフは二匹いた。そのことをサリスは忘れていた。なぜならこの二匹目はさっきまでいなかったからだ。
「なんで…さっきまでいなかったのに」
『別にお嬢ちゃんが気にすることでもないさ』
『たっく。アンタはどこに行ってたのさ』
『それは今、どうでもいいだろう。今は、このお嬢ちゃんを…殺さないと』
『そうね』
「……絶対に負けない!」
『威勢だけはいいお嬢ちゃんだ。受けて立とう』
『私も』
サリスはこの二匹を前にして退こうという考えは、みじんもないのだろう。多少うろたえても後ろに足は動かさず前に一歩。きっと己のプライドと責任、勇気でこの場に立っているのだろう。余裕そうな様子ではなく二匹の巨大なロックウルフだけにただ視線を向ける。
『お嬢ちゃん二対一は分が悪いんじゃない?』
「私にだってプライドがあるの」
『プライドねえ…。まあ。とりあえず、開始といきますか!』
先制攻撃は男性口調で話すロックウルフ。前足を上に上げてそのままサリスに脳天から振り下ろす。
サリスは身軽に後方へ飛んで回避。ロックウルフの前足は地面をえぐって凄まじい破壊力を見せた。地面には巨大なクレーターができてしまった。
「危なっ…!」
『かかってきなさいよ!』
続いて女性口調のロックウルフの攻撃。次は属性攻撃で優花が後方に着地した瞬間に地面から剣山を作り出しす。が、それも回避して剣山の前方に飛んで一番手前にいた女性口調のロックウルフの首を狙って一振り。
しかし、ロックウルフも簡単には攻撃を受けずに引き下がって回避。そこに割って入るように男性口調のロックウルフが遠吠えをしながら地面から鋭利で突起のある岩を作り出してそのままサリス目掛けて一直線に飛んでいく。
「……っ!」
サリスは再び後方に退いて回避。
『ちょこまかと!』
「お互い様でしょ!」
『フッ。これでは先が見えぬわ!』
『変えるよ』
「え?」
突如として攻撃の手を止め、場を動かない二匹の巨大なボスのロックウルフ。サリスはなにをすると思いきや、驚愕の光景を目にする。
「溶けてる……」
二匹のロックウルフの全身から、体を伝って滴り落ちていく勢いのない液体。落ちた液体は地面に広がっていき、二体から出た液体はそこで一つとなり新たになにかが形成される。さらには周りにいたロックウルフまでもが液体となって集まっていく。
それにはサリスの近くにいないジークとクラリもわからず、サリスのほうに慌てるようにして向かう。
そんな中で、サリスの目には禍々しい姿の魔獣が映った。恐ろしくてただ震えが止まらない威圧感。そしてなによりも、この世で見たことがないほどに……。
「大きい…」
上をただ見上げて絶句するしかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「い、痛い…。重い…」
「ん……」
目を覚まそうとしない優花。俺の上に堂々と乗っかる。
「起きろ!」
「はっ…!え?!」
「起きたか。早く…どいてくれ!」
「え?!なんか吸い込まれたんじゃ…」
「いいから!」
「あっ。ご、ごめん」
俺達はあのブラックホールのようなやつに吸い込まれてから目を覚ますと山道に戻されていた。と言っても、入り口からだいぶ置くに入ったところ。さすがに入り口のような道の幅はなく、狭かった。辺りは少し異常な静寂に包まれていて居心地がいいとは言えない。
「なあ。どうする?」
「どうするって言われても…。さっきの矢が気になるから…」
優花はさっきの木々の中での出来事を気にしているようだ。俺も当然。どう考えてもなにかあるとしか思えない。それに女の子の行方を知っているかもしれない。しかし、矢を射るってことは敵視…。
「仁也!」
「え?!」
突然耳にした優花の叫び声。俺はなに事かと思って辺りを見回すがなにも視界には入らない。が。右手の木々に体を向けた瞬間、左足のふくらはぎになにかが刺さった感覚がした。




