第三十九話 テンプーム
突然の前書き失礼します。(新規の方は無視して問題ないです)
些細な修正点なのですが、念のため。
このお話の後半の台詞の一部分だけ言い方を変更しました、ということだけお伝えしたかったです。
新規の方でも飛ばさず見てくださった場合を考慮して正確な台詞をお伝えしていませんが、ご了承ください。
頻繁な修正で申し訳ないですが、できるだけ修正のないよう努めていきたいです。
(頑張ります……)
では、失礼致しました。本編へどうぞ。
(なお、この前書きは二週間以内に消去します)
「ジーク――」
「え?」
巨大なアリ複数が同時にジークを巻き込んで自爆。その最中、爆発に紛れて語気の強い女声が突発的に彼の耳に届き、驚愕していた。
だが、轟音に掻き消されるようにして間抜けな声を最後に、彼の声は途絶えて爆発に吞み込まれていった。
女が放つ魔法は地上を発端に被害を拡大。女の指先の動きに沿って天に昇っていくように連鎖的な爆発は起こった。
雷雲で影と陰の境目が曖昧になりつつあり、夜明け前のような薄暗いこの場所を広範囲に照らした。
殺意による狂気を孕んだ女の目は、三日月形に曲がって潤っていた。
やがて、涙を流して胸に手を置く。
「あぁ……私は……私は、ボスが魅せられた方の仲間を殺してしまいました……ですが、ですが! 次は必ず、あなたを魅了する不埒ものを殺してみせます! あなたの命も忠実に確実に、こなしてみせます。 ボス。いえ、私の愛を捧げる方。あなた様も、この私を愛してください……愛してください……。私は、私は! あなたの寵愛をだれよりも欲しております……」
まるで溢れるものを解き放つかのように空を仰ぎ、やや頬を赤らめながら幸福に満たされているような穏やかな表情を浮かべた。
「そこの方! 動かないでください!」
「……っ!」
突如として聞こえた警告の声。
女は我に返り、動揺のあまり周囲を見渡してから振り返ると、少年少女三人の姿があった。
三角形の陣を組み、その先頭で威風堂々と腕を組んで立つのは、鮮やかな赤紫の髪色に染まった長髪の美少女。
右に、童顔で淡黄色の毛色に染まった獣毛の兎の姿をした獣人。もう一方の左には、金髪で前下がりボブに翠玉の色をした瞳を持つ美少女。
「だれ!」
「見てわからない? アンタらの情報網だとおそらくわかるでしょ? そもそも、私たちだってアンタのこと知らないから。そう訊くのはお互い様よ」
「……はっ! あれ? 僕、爆発に巻き込まれて……――さ、サリス?! そ、それに――クラリシアとフルトも……」
「クラリを全面的に治療してたの。で、いざ目を覚ませばジークのとこに向かうって言って聞かなくて。それに、ここへの転移やフルトの疲労が取れたのも、クラリの力あってこその結果よ。まあ、本当はクラリには安静してもらいたかったけど。」
「お兄様! ご無事でホッとしました」
「ありがとう。よかった……クラリシア……」
衣類が点々と焼け焦げて土汚れの目立つ顔のジークは目を覚ますと、サリスたちの姿を見て困惑しながらも、側まで来たクラリシアに謝意を述べて、二人で無事を確認した。
二人の涙腺というダムは決壊している。
「ま、まあとりあえず全員復活かな。てか、なんだんだよあの人。怖い怖い怖い怖い、怖い!」
「そうね。ホント……私も怖いわよ。あの怪物」
フルトはサリスの後ろに隠れて、心情を言い漏らした。
サリスも同意見だと賛同はしていたが、隠れるフルトを見て多少立ちづらそうに表情を歪ませた。
そして互いに喜びを嚙みしめていたジークとクラリシアは、フルトやサリスの一言をきっかけに手で涙を拭い、ジークの真っ先に立ち上がると紳士的な対応でクラリシアを補助。
問題なく立ち上がると、女のいるほうに視線を移した。
「あら、怪物とは心外ね。それも、そこのかわいい顔した少年の反応を全員に期待してたのよ。お姉さん悲しいわ」
「え、この人なに言ってんの? わかんない。僕の感性とズレてる。やっぱ怖い!」
「ちょ、少しは落ち着きなさいよ。まったく……」
「ごめん、つい……」
「別に怒ってないわよ。さっき言ったように私だって怖いんだから」
「ホント、ごめん……」
「で、グロマの……おそらく幹部階級であろうあなた。僕から一つ質問します。先ほど、仁也の居場所を聞いていたけど……目的はなんですか?」
「あら、馬鹿も気になる?」
嫌味ったらしく質問を質問で返される始末だが、ジークは腹を立てて取り乱す様子はなく、至って冷静でいる。
だが、隣にいたクラリシアは頬を膨らませ怒気を露わにし、女へ睨みを利かせていた。
まるで沸騰したやかんのようだ。
最初は無言の激高を見せて感情の赴くまま一歩を踏み出したが、ふとジークの冷静な眼差しと表情を目にすると、それが怒りの抑止力となって暴走の一歩手前で収まった――
ものの、クラリの様子を見た女は軽蔑の眼差しとともに鼻で笑う。
その瞬間、暴走の一歩手前にあったクラリシアの怒りは再び沸点に達したのか。
口角をピクピクと動かして、小さく「許せない」と呟いた。
そして再び一歩踏み出せば、激高して競歩のように高速で歩き始める。今にも女へ飛びかかる勢い。
それを見兼ねたジークは、飛び出したクラリシアの脇に両腕を通して挟み、暴走を始めた彼女を必死に止める。
「お兄様を馬鹿呼ばわりとは! 素性の知れない女が、お兄様を馬鹿にしないでください! 許しません! えぇ、絶対に許しません! こちらへ来て私に一発殴らせろおおぉぉ!」
「お、おい。ちょっと、落ち着けってクラリシア。僕は平気だ。そんなに君が怒らなくてもいいんだ」
「いいえッ! 努力の才能をお持ちのお兄様を侮辱されて、兄を慕う妹として憤慨です! あんな女は許しません!」
「ありがとう! ありがとう! すごくうれしいけど一旦落ち着いて! 頼むから落ち着いてくれ!」
ジークの説得を二度は跳ね除けてなお、クラリシアの怒りは収まる気配もなく。
それどころか女はこの状況を見て面白がり、声は出さず口元を動かして馬鹿と罵ったりと、繰り返し挑発的な態度でいた。
それには、サリスとフルトも見兼ねてクラリシアを落ち着かせようと加勢に入った。
「僕のことを大切に思ってくれていることわかったから。ここは落ち着いてくれ。なあ、頼むって……クラリ!」
「「え……?」」
「え?」
「ん? あれ、クラリシア……どうしたの?」
「今、クラリって呼びました?」
「え、あ……ご、ごめん! つい……」
ジークは申し訳なそうにしてクラリシアを解放すると、一歩下がって淀んだ雰囲気になった。
「いえ、うれしいです!」
「そ、そうなんだ……でも……」
「一度は呼ばれてみたかったです。『クラリ』って」
「そう、か……でも……やっぱクラリシアでいい?」
「なんでですか……?」
と、若干涙目になりながら少し声を震わせるクラリシアだが、ジークは微笑んだ。
「だって『クラリシア』はさ、かわいいし魅力的な名前だと思う、なにより僕にとって一番親しみがある。確かに『クラリ』も親しみはあるけど。僕自身、『クラリシア』っていう名前が好きだからさ……。それにもちろん、人としてもね」
晴れ渡る空のように表情は緩んで、わずかに目元から涙を流してクラリシアも微笑む。
そこは兄妹二人だけの水入らずの空間であり、干渉は許されない。
そんな微笑ましい光景を前にサリスはニヤリと笑い、フルトは唖然としながらも二人は兄妹を見守っている。
だが兄妹によって蚊帳の外となった女は腕を組み、足で貧乏ゆすり。視線を外して不機嫌だと自己主張したような様子になっていた。
「はあ――。人目を憚らず……よくやるわねえぇ。まさか、馬鹿が妹好きとは……なにかこれで、罵れるような言葉作れそうね」
嫌らしい表情とともに相変わらずの言動に、クラリシアはため息をついて呆れた様子でいると目元を拭い、ジークから離れた。
「あの、一応サリスさんやフルトさんに誤解されると困るので、言っておきます。兄には……婚約者がいます」
「「え?」」
「しかも、相思相愛です。ですので、禁断の恋だとかはありませんよ?」
「「むむっ!」」
と、サリスやフルトにも向けてジークの恋愛事情を口にすると、ジークは赤面しながらそっぽを向いて頷いた。
聞かされたサリスやフルトは、最初だけ間抜けな声を漏らして、今となっては興味津々。
再び蚊帳の外となった女は舌打ちをして、「馬鹿でも食べたかった」と言い漏らした。
フルトの聴覚はその言葉を見逃さず、股間を手で押さえながら顔を真っ青にして機械的に震える。
「それでも私、ジークとクラリの兄弟愛は度を超すギリギリだと思うわ……ちょっと気を付けて。邪魔する気はないけど」
「あ、あはは……ごめん」
「ご迷惑おかけしました……」
サリスの苦言に苦笑いと謝意を述べるしかない二人は、深呼吸をして落ち着かせた。
「ああぁぁ――いつまでこの私を放置する気? 調子狂うのよねぇ、こっちは暇じゃないっていうのに。まあ私は、不意を突くような汚い大人じゃないから大人しく待ってあげてたけど……気持ち悪くてもう無理! 人の幸福なんてだれが見届けるか!」
狂気が息を吹き返すかのように彼女の言動に表れると、棒状を杖を華麗に振り回し、地面に突き刺して立たせた。
魔法陣を展開して水魔法を発動させると、腰を少々落とし、くびれをより目立たせるような艶めかしい姿勢で人差し指を口内に入れて、丁重に舐めていく。
その間に一つ、二つ。女の前方から、どさっという重々しい音が聞こえてくる。
女は隙を作ることなどお構いなしに、指一本ずつ色気を漂わせて自分の指を舐める。
やがて五本舐め終わると、最後に小指から手の平へ舐めていき、舌で二回ほど手の平で円を描いた。
その間にもまた一つ、どさっと音が鳴る。
そして口元を舐め回して口内に仕舞えば、舐めた右手に息を吹きかけた。
「【誘惑悪夢】」
その刹那、辺り一帯は黒混じりの撫子色に染まった煙霧が充満した状態となった。
女の目前ではサリスやクラリシア、フルトは倒れて反応はない。
唯一、頭を押さえて足がおぼつかないジークが辛うじて立っていたが、それも虚しく事切れたかのように倒れ込んだ。
彼ら全員が倒れ込んだことを確認した女は、不敵な笑みを浮かべた。
「わたくし、ローネ・ファンス。 私的領域内にて、五人全員眠らせました……これで、愛するあなた様の計画を邪魔するクソどもはもう、悪夢でおしまいです……」




