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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第五章  個々の試練
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   第三十七話  大木の陰から


「考えろ、考えろ、考えろ。優花のように浮遊魔法は使えない。だから考えろ! 僕にできること、できること……なにか僕に――そうだ! 特異能力(シンギュラースキル)、これだ!」


 迫る死を前に焦りを募らせながら思考を巡らせた末、閃いたジークは迷うことなく行動を起こした。

 収納魔法を空中で発動させると、収納空間から愛剣ファルシオンを取り出して、右手で片刃の剣身を持った。

 ジークは用意ができたようで、意識を失って猫背の状態で正面から落下する優花と、距離を再度詰めていく。

 最初は一度、左手で優花の腕を掴もうと試みたが、先ほどと同様に掴めず掠りもしなかった。


 しかし、今度は剣を持つ右手を伸ばし、柄を優花に向けて挑んだ。

 彼は「届け、届け」と繰り返し口にし、歯を食いしばって柄頭を近付けようと呼吸する暇もなく唸り声も上げた。

 

 その瞬間、柄頭が優花の上腕に触れた。


 ジークの目が見開く。


「【魔力探知(マジカルサーチ)】」

 

 彼の特異能力(シンギュラースキル)が発動すると、剣を介してジークの魔力が細胞単位で移動を始め、ジークの欲する情報だけが優花の記憶から透過され、ジークの脳内に映し出される。

 その際に彼女の持つ記憶に一切の影響は出ず、プライバシーの領域に踏み入れることは決してない。

 そして細胞単位で移動をしていた彼の魔力は変換。優花個人の魔力となるが、彼女が意識を失っている今、魔力の性質上その魔力は空気中へと徐々に飛散していく。

 

 彼の特異能力は役目を終え、ジークは愛剣を収納魔法の収納空間へ。

 彼は求めていた情報を入手すると純白の魔法陣を足裏に展開。

 そして瞬間的に空色へと変色すると、風魔法が発動する。


「【風魔法・発動 ジェット】」


 優花の発動した風魔法に属する浮遊魔法を、今度はジークが発動させ飛行を開始。

 目前にいる優花の元へ行き小声で謝ると、真っ先に抱きかかえて港町チックへと向かう。

 未だに続く異空間のように歪む周囲の空間は、格子のような模様と網目模様の交互に変化し、歪みとは別のタイミングで無色透明か牡丹色の交互に変色を繰り返している。

 その奇妙な空間にいるせいか、優花を助け出してから間もなくジークに異変が見え始めた。


(やばい。平衡感覚が……意識が……)


 目を細めては睡魔に襲われるように、首をコクリと上下させて泥酔したように身体はふらついていた。

 それでもジークは、生じた異変と闘いながら先を急いだ。

 だが、その途端――


「なっ……!」


 黒紫色の渦を巻いて揺らぐ奇妙で小さな空間が、目前の至近距離で出現した。

 ジークは急停止しようと反射的な反応はできたものの、初めて発動して高速飛行した状態なうえ、優花を担いだままで浮遊魔法の風圧調整が間に合わず、急停止できないまま奇妙な空間に姿を消した。


 それは黒紫一色に染まる筒型の新たな異空間への入口であり、二人はその空間内でひたすら落下していた。落下する先は常に暗闇が支配し、光はない。

 優花は変わらず意識を失っているが、ジークはこの状況に一言も発さない。

 彼は口も目も閉じて、落下する現状。

 このとき、彼もまた意識を失っていた。


 が、突如として二人の落ち行く暗闇の先から閃光が現れると、二人を呑み込むようにして周囲は純白の世界に染まれば、二人の周囲の世界は純白世界から再び移り変わった。


 鈍音とともに草原で仰向けになって意識を失ったままのジークと、うつ伏せになって同じく意識のない優花。

 異空間や別世界を介して、最終的に辿り着いたのは立派に生える一本の大木の付近。

 草原が広がり二方向から挟まれるような形で左右に連なった山々があって、大木の隣を寂しい幅広な一本道が、山のない二方向へ伸びている。

 そして地上は、未だ雷雲によって太陽の恩恵はわずか。だが、完全には空を覆いきれておらず、多少は明るく影もあるが、晴天とは比較にもならない。

 

 まさしくこの景色は、二人がさっき見下ろして見ていた景色だった。

 二人は上空から地上へ移動させられていた。

 そのとき、空間の歪みはなく、異様な光景はなに一つとしてなかった。


「うぅ……――どこだ、ここ……」


 落下してから経った今、最初に意識を取り戻したのはジークだった。

 細い目をこすりながら、周囲を見渡しては寝ぼけながら立ち上がる。

 強風に揺れる木々の葉擦れが騒がしく聞こえ、強風もまた落ち着きがない。


 ジークは数秒ほど寝ぼけたようにボーっとして、再び意識を失いそうなふうにしていると、不意に我に返って優花のことを思い出したのか探し始めた。


 気が付けば自分の付近でうつ伏せになって倒れている姿が見えた。

 この場にいるということで安堵の息をついたジークだったが、優花の体勢が気になったのか優花の元へ行き、物音立てずに優花の左肩を持って手前へ移動。そのまま仰向けにして、その場で腰を下ろした。


「どうなってるんだ……」


 掴めない状況にジークは多少の困惑を露わにしていたが、優花を見てすぐに立ち上がった。


「優花には申し訳ないけど、チックまで抱き抱えてでも行かなきゃ……できれば目を覚ましてくれるとありがたいんだけど……」


 と言って、ため息をついた。

 冒険者関連の詳細を理解しているジークは、緊急クエストで発生する時間の猶予を考慮していた。

 頬を両手で叩き、一声上げて気合を入れると腰を上げて立ち上がり、すぐに優花を抱き抱えようとした。


「あら……お二人?」


「え?」


 だが、邪魔に入るかのように女声が不意に聞こえた。

 ジークたちの真横にある大木の陰から穏やかな足取りで姿を見せた。

 紫の髪色をしたロングヘアに、異性を魅了する体つきで妖艶な美女。ジークより背が高く、女性としては高身長、和装に近いような風情のある衣服を着ている。胸元や脚の肌の露出を自ら激しめにしたような衣服の着こなし。

 彼女の右手には、彼女の身長と同等の長さに相当する棒状の杖を持っている。

 そして彼女の頭の方にあたる杖の先端には、青紫色の宝石のような磨かれた球体が装飾とともに取り付けられている。


 ジークは女の妖艶な姿を、機械的な動作で振り向いて見つけた。

 彼の顔には、わかりやすく緊張の二文字が滲み出ている。


「だ、だれですか?」


「あら、ごめんなさいね。急に声をかけて。この道を歩いてても、ほかに人の姿が見えなくて心細くって……つい、話しかけちゃったわ」


「そ、そうなんですか……てことは、港町のチックから?」

「えぇ、そんなところよ。今はここで休憩していたの」

「なるほど、それで木に……」


(なんだか落ち着いてる?)


 首を傾げるジークは違和感でもあったようだが、彼は小声で密かにその違和感を否定して、自分に言い聞かせた。初対面の相手に失礼だと。

 そして、頬を両手で平打ち。

 女は突然の行動に心配そうな様子で、ジークに一声かけた。

 毎回のように言葉が少し詰まったりして、客観的に見れば彼の言動は若干挙動不審に思われるようなほど、彼は落ち着きが欠けて焦りを募らせている。

 それでも、なんとか平然を装い、誤魔化して問題ないことを伝えた。


「では、これで僕たちは失礼します。さ、先を急いでいるので」

「そう。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに。チックへ向かうのなら道のりはまだ長いし」


「いえ、大丈夫です。天候も不安定ですし……」

「そう……心配だわ」

「ホント。僕たちは大丈夫です……」


 と、改めて立ち去る意思を伝える。


「ところで……」


 が、語気を強めて引き止める女の声に、ジークは足を止めた。

 彼の呼吸は一瞬だけ止まった。手足は震えて一瞬の油断も許されないような張り詰めた状況へと、たった一言が作り替えた。


 ジークは一度、手を突き出そうとして魔法を発動させようと思ったようだが、発動には至らなかった。

 完全に彼の行動は抑制されている。


「な、なんでしょうか?」


「一つお聞きしてたいの。いいかしら?」


「別に、それくらいなら構いませんけど……」


「――アオハラジンヤ。って名前の方、ご存じない?」

「え……?」


 ジークにとって聞き覚えのある名が、女の口からこぼれ出た。


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