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神々の世界と因縁のペンダント【加筆修正中・更新休止】  作者: 海斗
第五章  個々の試練
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   第三十六話  避難民


     ◇


 仁也の後ろ姿を眺め、ゆっくりと腰を落とすデットはそのまま胡坐をかいて頭上の空を見つめた。

 (ドラゴン)が絶命してから少し経ち、気象の変化は徐々に戻りつつあった。

 再び強風が吹き、草花の葉擦れが辺り一帯に響き渡る。

 雷雲のわずかな隙間からは優しく地上を照らす光芒が差し込んで、ちらりと太陽が覗いている。


「あぁ……これじゃあ、次の戦闘は過剰になれねえな……。成長途中で荒削りにもなってない実力の相手に、ここまで体力と魔力を消費するとは……」


 と呟いて、痙攣する自分の手を見て握り締めるデット。


「ま、()()()()なら当然の結果か。あとは、あの二人がデータを収集してくれるかどうかだよなぁ……」


 デットはその後、空を見上げるのをやめると右ポケットに片手を突っ込んだ。

 ごそごそと手を動かして取り出すと、手の平の上には銀一色の細長い円筒型の装置。

 視認して収納魔法を無口頭で発動。そのまま収納空間と連結した魔法陣へ向かって放り投げた。


「データなしでもわかる……ま、あのお方が生み出したもんだ。さすがに俺も素で倒れせる代物じゃないが、あれくらいは倒せるはずだ。先が思いやられるアオハラジンヤ……。いや、こちらが変に焦っているのか、それとも過信だったか……。思ったより先が長そうだ……」


     ◇


 数刻前――。


 広域の草原に響き渡る竜の咆哮が優花とジークの背後から聞こえる中、二人は雷雲の下、浮遊魔法でその場をあとにして港町チックのある方角へ飛行を続ける。


「優花。仁也に言わなくてよかったの?」


「うん……今はね」


 悲痛な顔になって訊くジーク。

 優花は憂うような顔つきで声のトーンを下げて答える。

 竜の出現によって吹き始めた追い風に晒されて、髪は浮かぶ表情を隠すようにしつこくなびいた。

 優花は邪魔になる自分の髪を手で耳にかけて、気持ちを切り替えたのか憂うような表情から一転。力強い眼力でただ前を向く。


「心配?」

「え?」

「仁也の話してて、なんか心配そうな表情だったからさ」


「……うん。最初、仁也とエルッジさんと分かれて行動したからさ。ジークやクラリ、サリスを除いたら一番話してるのは仁也だから……このこと知ったらどう思うのかなって、つい思っちゃって」


「そうだね……」


 と再び雰囲気を戻してしまったジークは、即座に気付いて謝ろうとするが優花の表情は自然と和らいでいった。


「でも、私は仁也が大丈夫だって信じてる。だから今すぐに伝える必要もないし、伝えても引きずることはないと思う」

「そっか……というか、この際だから訊くけど二人ってどんな関係?」


「え?」


 この場にそぐわない突然の問いに優花は一瞬だけ魔力操作の集中力を欠き落下しそうになるが、慌てるジークが優花の右腕を掴んで、その間に彼女は風魔法の効力を再び維持させる。

 二人はひやっとしたようで、互いに安堵の息を漏らすが、優花の動揺は続行する。


「きゅ、急にそんなこと……」

「いや、神の眷属だってことはわかるよ。だから身内だってことも理解してる」


「身内っ……!」


 と赤面して赤くなった頬を両手で必死に隠してジークを視線から外す。

 ジークは自分の発言を振り返っているのか、顎を触って首を傾げた。


「あれ、僕なんか変なこと言った?」

「い、いやなんでも……少しびっくりしちゃって」


「そっか、まあ今はそれどころじゃないから、また今度にするよ」

「う、うん。あ、で、でも一つ訊きたいんだけど。身内ってどういう意味?」


「え? 神の眷属で身内だからパンテラ様に属する人っていう意味で言ったんだけど……」


 動揺を隠せずにいながらも必死に「身内」の意味を訊きだす優花に、ジークは不思議そうに答えた。

 優花はさらに頬を赤らめて視線を百八十度逸らした。


(私、勘違いしてた。恥ずかしいいいぃぃぃ。てか、どんな勘違いだよ!)


 羞恥心をジークのいない反対側で解放して、頬に両手を置きながら密かに悶えたうえ、ボケのような勘違いに自ら突っ込む始末。

 ジークはそんなことはつゆ知らず。ただテンパる優花を不思議そうに眺めるだけだった。

 優花は繰り返し深呼吸してテンパる自分を静めていると、ジークが心配そうに「あの……」と声を出し始めた。

 彼女のなにかしらのレーダーがそれを察知したようで、聞こえた途端に振り返ってとっさに対応する。


「べ、別に平気だよ。気にしないで。と、とにかく今はチックに急ごう」

「う、うん。そうだね」

「よし。じゃあ、加速するよ」


「え? 僕、飛ぶの初めてだし、なによりも時効までに到着できるかの問題はこの速度なら解消できるから、別に加速しなくても……」


 と、嫌そうにするジークを他所に優花は浮遊魔法への魔力供給を調整して、それに反応した浮遊魔法は風圧を上げて二人の飛行速度を加速させた。

 同時に優花は新たに二人とも抵抗を受けないように無属性魔法を発動させた。

 周囲の空間に風を極力逃がすような新幹線の先頭部分のような形の、無色透明なバリアが魔法によって作り出された。


「聞いてた?! 僕は、初めて空を飛んだんだよおおおぉぉぉ、やめてえええぇぇぇ」


 二人はロケット弾のように風を切って高速飛行を開始した。

 結局のところ彼女はまだ赤面状態のままで、落ち着きを取り戻せてはいなかった。


「うわああああぁぁぁぁ」


 二人の間にはジークの悲鳴と風切り音だけが鳴り響いていた。

 優花は未だ赤面したままだった。


 国土の一部分、そして景色の大部分を占める広域な草原を目下に、その後は二人でただひたすらに距離を稼いでいった。

 しばらくして、飛行している環境下に慣れたのかジークの悲鳴は自然と聞こえなくなり、取り乱した優花も落ち着きを取り戻していた。

 二人の目前には両脇に山々が連なって、その中央は草原の延長線のように平地が続いている。彼らの真下には上空からでも目立って見えるほど幅広な道が港町チックへと伸びている。

 それが唯一、地上から港町チックへと向かう平地のルートになっていた。

 だが、その幅広な道をジークは生唾を飲んで何度も視線を外しつつ懸命に確認していた。


「どうしたの? ジーク」

「あ、いや。ちょいちょい怖くなったら視線外して下を見てたんだ。下の道に人が歩いてないかなって思って……」


「緊急クエストの対象になったからいない、とか?」


「うーん、それで人の往来が減るのは確かなんだけど、一人もいないってことはないんだよ。まあ、道のほんの一部しか見てないから、まだ人が通ってないって断言はできないんだけど……」


「てことは、異常事態?」

「僕の判断からすればの話だけどね。今回みたいな緊急クエストは一年に二、三回か発生してて、たまに謁見の間で父上の隣にいたから近況報告だったりを耳にするんだ。色々と役割を与えられてる人間が多くてさ。大まかに言えばギルド内での役割や情報伝達部隊、討伐隊、あと討伐隊と同戦力かそれ以下の人たちが、対象地域での避難誘導の役割を与えられる。対象地域に住民がいれば基本的には避難してくるからね。時に王都みたいに都市が対象になったりすると、住民は大移動を行って周辺の地域に逃れる。だから今回もこの道を使ってみんな逃げてると思うけど……正直今回は色々と問題が起きてるからね。もしかしたら現地は悲惨な状況かもしれない」


「そうなんだ……もう結構時間経ってるよね」


「うん。本来なら討伐隊に同行してる避難誘導隊が避難民を見つけて対応。その場で次来る人たちのため中継地として野宿までしてその場を離れない。それも終了の報告があるまでね。だけど、今となってはそれもできない。でもそれ以前に、唯一の平地ルートを一切人が通ってないのは奇妙。右に見える王都に近いスダキリ山を越えるルートもあるけど、今は使わない。基本的に山々の多くは魔獣や魔物が蔓延ってるから、人間しか立ち入れない。大抵の人はスダキリ山を避けてこの下の道を通るんだ」


「なるほど……というか、なんか魔力の濃度が増してきてるように感じるんだけど……私だけ?」

「ん? そう言われてみれば確かに……」


 懸念が二人の間で広がっていく中で港町チックへ近づくにつれ、ふと魔力を感じ取る二人は警戒の色を濃くした。

 周囲を見渡し、地上も視野に入れる。


 浮遊魔法の効力で変わらずロケット弾のように飛行する二人はその速さから、ついに左右の山々の麓に差し掛かるが二人は高度を変えず飛行を続ける。

 感じ取る魔力量が増えたのか、警戒の色はより一層に濃くなり視線が正面を向くことは中々なくなっていく。 


 そんな中、二人はここまでなんら問題なく麓を進み、微かに見えて町並みを視界に入れた途端――。


「あ……――」


「優花!」


 空間が異空間と化したように歪み始め、二人が突入した瞬間に浮遊魔法という名の風魔法を発動させていた発動者である優花は、突如として魔力操作を停止。

 一秒にも満たない時間の中で魔法はその効力を消失。魔法陣は掻き消されるように消滅した。

 そして、彼女の意識も失われた。

 一方で魔法の対象になっただけの発動者ではないジークは意識を失わず、声を発さず行動を起こさない優花を見た彼は真っ先に意識を失ったと悟ったようだ。

 同高度で落下する優花に手を伸ばす。


「まだ旅は始まってもない! 途中でもない! こんなわけのわからないことで、死んでたまるか!」


 繰り返し掴もうと手を伸ばすが、中々掴めずにいるジーク。

 その二人の真下からは、死という地上が刻一刻と迫っていた。


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