第三十三話 熾烈な一撃
一気に緊張が走る。
デットは対峙を選んだ。戦うことを選んだ。
話し合いで解決できればこの上ない平和的解決法だ。最もは、争いがないことだけど。現時点での最善な解決方法は、不可能になった。
そして当の本人は無口頭で収納魔法を発動させると、魔法陣を取り出し口とした収納空間からグローブのようなものを取り出して武装した。
というのも野球のグローブではなく、簡潔に言えば手袋を戦闘用にしたもの。近未来的なデザインで輝いて見える。
大した専門知識はないけど近未来的なデザインとは裏腹に、純白の素材で守られたグローブは重厚で素肌の拳より殺傷能力が高いのは明らかだった。
それに魔力を吸収しているのか、一部の魔力の流れがデットの手元へと向かっている。
「お前の力のすべてを、この俺に一振りでぶつけてこい! 出し惜しみはしねぇ。なにを、とは言わねえが。俺を倒すか納得させることできたら……ここをどこう」
手っ取り早くこの場を去りたいのか、と一瞬思ったが、向こうからやってきた。さらに言えば。『行かせない』と言っていた割にはどこか優しく感じる。レアスや血の気が多い幹部相手ばかりで、感覚がおかしくなったのか。決してそんな理由じゃないはずだ、なんて疑う。
わずかだったけど、レアスたちと違うのはよくわかる。殺し合いというよりかは戦闘を楽しもうとしているようにも思える。ぶつかり合い、かな。少し優しく言えば。
でも、どのみち避けては通れないことは確かで、戦闘を望む姿勢は幹部たちと変わらない。多少のズレがあっても類似した思考は持ってるって結論になる。
ここは、応じるほかない。早く優花たちの元へ向かうためだ。
「――わかった」
デットは俺の返答を聞くと同時に、右手を頭上に突き上げた。グローブ自ら魔力の吸収を始めた。
正直言って本音は、ペンダントの力を借りたくない。
でも、グロマの『ボス』とか『あのお方』とか言うヤツの補佐だから幹部のはずだけど、その上の可能性が高い。
見下してるとことか。なんか、そういうヤツたまにいるし。
というか、単純に魔力量が異常だった。数字とか明確にわかる方法なんてないが、胸が締め付けられるような感覚があったり感覚的にその異常さが窺えた。
唯一、わかる情報といえば拳。武装したあのグローブ次第。近接戦だったらそれなりに想定できるけど不安要素しかない。
一騎打ちなら戦術よりも単純に力が優先される。だから、真っ向から斬り捨てることができる一撃のほうが、初見でも納得させる意味でも必要だ。
現在、風魔法によって魔力の吸収と放出を自動的に気力や体力で行ってる。これに関しては問題の範疇にないけど極神剣の特異能力はパンテラ曰く、一日一回のみと制限されているらしい。
でも、確証はない。
パンテラのことを疑いたいわけじゃないけど、神剣だって強力だし制限があってもおかしくないくらい応用も利く。
使えるかもしれない、その可能性が湧き上がってくると俺は賭けたくなった。できるような気がした。
最悪、発動できなかったら優花たちの元へ向かうことを優先する。
俺はすぐさま極神剣に発動させた火魔法を解除して瞬間的に自分で魔力を吸収。発動準備を完了させて両手の剣を構えた。
極神剣の特異能力は全属性に沿った八通りの豊富な能力。それも神剣のように強力かつ応用が利く。その選択はもちろん依然から使ってる無属性の身体強化。
もうこれしかない。
そんな中、魔力を空気中から吸収していたデットも同様に突き上げていた拳を下ろして戦闘態勢に入った。
竜が絶命してしばらく経つ現在、気付けば髪がなびいていた。本来吹いているはずの強風が存在を際立たせ始めている。
無言の対峙がしばらく続く。
合図は取り決めていない。
でも一撃勝負だから速攻が圧倒的に重視される。防御は単なる騙し討ちだからその心配はない。いかにして先手を放てるかが勝負。隙は見せられない。
俺は固唾を飲むこの状況で、微動だにしないデットの動きを直視して、視線は外さない。
実質、暗黙の合図がない限りは持久戦だ。
と、状況把握するとともに互いに睨みを利かせて行動を抑制・監視する中で、呼吸音がより鮮明に聞こえた。
その瞬間――
デットの右手が力んだ。
俺は風魔法の風圧を上げて間合いを詰め、デットも魔法であろう浮遊した状態から飛行を開始して間合いを詰める。
「「うおおおおぉぉぉぉぉ!」」
隙を突いたわけじゃないが、デットの行動に遅れを取らせることなく瞬間的にデットは拳を、俺は両手の剣を天に振り上げ、二本の剣の特異能力を即座に発動させ、流星のように振り下ろし――
俺とデットは衝突する。
「【合体・増強爆風】」
「【邪属・強拳】」
衝撃は凄まじく、一瞬は轟音によって聴覚が支配された。
だがその直後に、力負けしたうえに俺の全身から漏れた配管のように多量の出血が起きて、全身は鮮血に染まった。身体はふらつき、意識が一弾指にも満たない間だけ飛んだが、なんとか持ち直して時間が経つにつれその威力を上げていって、力負けも徐々に解消されつつあった。
両者はどちらが押し切れるか、鍔迫り合いが始まる。
本来なら拳撃とかで付け入ったほうが手っ取り早いけど、正々堂々と真っ向から斬り捨てることに意味があった。
通常より威力を底上げされた特異能力は、本来であれば直線状に爆発、爆風が発生して風刃も出現、爆風は竜巻状になって風刃を巻き込み攻撃する。
だが、デットの一撃もそれに引けを取らず、それどころか押されている感覚が強い。
そのため、風は多方向へと鍔迫り合いで分散されていく。
発動状態を維持して振るってはいるが振るい切れない。
どちらかに傾けばそこで剣同士は前へと抜けて鍔迫り合いは終わるが、身体の位置や剣の位置を修正していくデット。
身体には遠心力があるように感じる。おそらく、空中で互いに回転しながら落下を始めているはずだ。
もはや風魔法に魔力を供給する余裕はない。
たったの一撃はその一瞬だけに留まらず、今もなお続いている。
「なるほどなァ! 『出し惜しみはしねぇ』とは言ってたが、まだお前は弱すぎるッ! 貧弱なんだよッ! 悪いが俺はお前の成長が見たいんでね! 手加減入ってるけど、お前はそれでも威力を上げている。もっとだ! 俺を超えろ! 俺を倒してみろアオハラジンヤ!」
「らあああああァァァァァ――ッ!」
抗う。手加減は配慮や思いやりじゃない。デットは友情もライバル心も端からない。
そう真っ向からではあったけど、正々堂々ではあったけど目的が最優先。手加減されている。
完全に舐められているせいで、本来ならプライドはたまったもんじゃない。
でも、今の俺にはプライドはない。持てるほどのことはできていない。満足なんかない。
俺の念頭には今、ここを抜け出すこと以外ない。
巻き込んでしまった。
死なせてしまった。
俺だけがグロマに狙われていたのに。
たとえ不可抗力で防ぎようがなかったとしても。
俺は自分を咎めなきゃならない。
優花の元へ行かなきゃならない。
あんな光景、あんな惨劇、見たくない。
「そこを、どけええええぇぇぇぇ」
その絶叫とは裏腹に、俺の一撃はじわじわと威力を上げるデットに、弾き返されそうになっていく。
まるで。この状況を楽しんでいるかのように。
だが、俺のボルテージはデットに抗い、力を超えようとしているかのように上昇した。
高まる感情の数々。
溢れる感情の数々。
そして乗り越えた激痛、苦痛、悲痛。
今もこの先もあろうそれを乗り越えた先に、自身を許せる機会がある。過去にはなかった。でもこれからは、あると願いたい。
守れ、今あるわずかな人脈を。守れ、こんな俺の側にいてくれる仲間を。守れ、唯一の親友を。
「守れれれれれれぇぇぇぇぇぇ――――」
その瞬間、肌や感覚的で曖昧だった魔力という存在は、世界を照らすかのように青紫に色濃く光り出した。そして、俺のいちげきは 勢いを増し劣勢を徐々に覆そうと抗っては押され、抗っては押されてを繰り返し始めた。
そして、脳内に――
『それは、愛する人のためにも?』
「え?」
ふと声が聞こえた。
そして、すべてが最高潮に達してデットと熾烈な一撃で衝突していたはずの俺は、
轟音響く周囲は、
熾烈な攻撃は、
デットは、
時間は、
止まった。
そして俺の目の前に、見覚えのある女性の姿があった。
「母さん……」




