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第三章 礼拝所の碑文

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 城内を順番に探した。地下は発掘の跡だらけだった。床が剥がされ、土が掘り返され、壁際まで穴が開いている。天井から松明の煤が黒くこびりついている。誰かが長い時間をかけて、ここを掘り続けていた。


 ロゼットの部屋は二階の小部屋だった。山賊の頭の部屋に比べると質素だが、小物が整理されており、女らしい気配があった。棚の上に、ガラスの小瓶が置かれていた。


 アレクは足を止めた。


 小瓶の中に、何かがいた。


 緑色の光を放つ小さな存在が、瓶の底で腕を組み、明らかに怒っていた。


 「……遅かったじゃないの」


 エルフ語だった。


 アレクは瓶の蓋を外し、逆さにした。フィーアが掌に落ちてきた。服の袖が破れ、羽根の一枚が折れている。髪が乱れていた。


 「怪我はないか」


 妖精語で文句を言った。「怪我はないけど! パン屑よ、パン屑しかもらえなかったの! 私が虫に見えるの? もうほんとに失礼にもほどがあるわよ! ガラス瓶に詰め込まれて、どれだけ待ったと思ってるの!」


 「それは辛かったな。ごめん、遅くなった」


 「全然よくないわよ! 謝って済む話じゃないわ!」フィーアは腕を組んだ。「……まあ、ちゃんと来てくれたのは認めてあげるけど」


 アレクは荷物袋から針と糸を取り出した。フィーアの破れた袖口を広げ、端を揃えて縫い始めた。


 フィーアは黙って手元を見ていた。


 「……本当に器用ねぇ。なんでそんなことできるの」


 「冒険者になるなら手に職をつけろって言われてたから」


 フィーアは少し考える顔をした。「……誰に」


 「母と父と、旅の冒険者と」


 「三人全員に?」


 「はい」


 「……三人全員に同じこと言われたって、それ絶対騙されてるわよ。縫い物が冒険の役に立つわけないじゃない」


 「役に立ってるだろ、今」


 フィーアは言い返せなくて、むっとした顔をした。しばらく黙った。「……ありがとう」と言った。あまり言わない言葉だった。


 アレクは針を止め、フィーアを見た。「ロゼットから何か聞いたか」


 「聞いたわよ! たっぷりとね」フィーアは少し胸を張った。「ヴォルフが地下で何をしていたか——全部よ、全部。瓶に入れられてた時間、無駄にしてないから!」


---


 ハンスはその後、二階の部屋に移送した。


 エドモンがハンスに尋問した。アレクも同席した。ガストンが扉の脇で腕を組んで見ていた。ドレクは壁に背をもたれて立っている。ファビアンは窓際で、静かに聞いていた。


 「ヴォルフは地下で何を探していた」


 ハンスは眼鏡の奥で目を動かした。縛られた手を膝の上に置き、姿勢を正してから答えた。「言われて掘っていただけです。財宝があると聞きました。ヴォルフが古い文書で見つけたと言っていた」


 「財宝が何かは分からなかったのか。金貨なのか、それ以外の何かなのか」


 「詳しくは教えてもらえませんでした。ヴォルフとロゼットだけで話していて、私たちには最低限のことしか言わなかった。財宝がある、それだけです」


 ドレクが壁から背を離した。「財宝って、本当にあるのか。半年掘って出ないなら、ガセじゃないのか」


 ハンスはドレクの方を見た。「ヴォルフは確信していました。古文書にそう書いてあった。読める男でしたから」


 「ロゼットは知っていたのか。ヴォルフの考えを」


 「ヴォルフに一番近かったのはロゼットです。二人で毎晩話していた。でも——」


 「死んだ」エドモンの声が硬かった。一瞬だけ目を伏せた。「では、お前が知っていることを全部話せ」


 ハンスは淡々と答えた。最初の半月は礼拝所の床の交差点を掘った。何も出なかった。その後、城内をあちこち掘り返した。石の間、壁の中、地下室の奥——それでも出なかった。ヴォルフは怒っておらず、むしろ静かに考え込むようになった。最後の頃は礼拝所の交差点の話をよく口にしていたという。


 ガストンが低い声で言った。「傭兵が城を持つと碌なことにならんな。……まあ、あの男の強さは本物だった。場所が違えば、別の生き方もできたんだろうが」


 「最後の頃は、交差点の話ばかりしていたのか」


 「ええ。最初に掘った場所です。半年かけて他を全部掘り直して、結局やはりそこだと思う、と。どこかの計算が違う、もう一度考え直すと言っていました」


 エドモンはアレクを見た。アレクはしばらく沈黙した。「……礼拝所を直接見たいと思います」


---


 礼拝所は城の北側にあった。


 十字型の建物で、屋根の一部が崩れ、外から光が入っていた。床は惨憺たる有様だった。石畳はほぼ全て剥がされ、土が掘り返されている。建物の交差点付近だけ特に深く、穴の底は胸の高さほどある。


 アレクはゆっくりと内部を歩いた。


 壁に何かが刻まれていた。


 胸の高さほどの位置、石の表面に細かい文字が刻まれている。色は残っていないが、刻み自体は深く、読める状態だった。


 古代語だった。


 「何か書いてありますか」ガストンが声をかけた。


 「読めます」アレクは文字を指でなぞった。


 「盟約の証は、我らのしるしが指す先に眠る。しるしは我らの信仰そのもの。中心を見よ」


 しばらく沈黙があった。


 「それだけか」エドモンが言った。


 「それだけです。ただ、かなり古い文体です。刻まれた時期は相当前かと」


 「どういう意味だ」ドレクが声を出した。「しるしって何だ。財宝と関係あるのか」


 「……まだ分かりません。ヴォルフも同じ碑文を読んで、半年間ここを掘っていた。何かを信じてはいたはずです」


 アレクは碑文の前に立ち、床を見た。交差点の穴は深い。誰かが長い時間と労力をかけて掘った穴だ。


 しるしとは何か。中心とはどこか。ヴォルフはこの碑文を読み、交差点を掘り続けた。半年間、答えが出なかった。


 「礼拝所を調べたい」アレクは言った。「少し時間をください」


 エドモンは頷いた。「分かった。ドレク、城内の残りを確認してくれ」


---


 フィーアはアレクの外套の中で、小さな声で続けた。エルフ語だ。他の者には聞こえない。


 「あのね、私が瓶に入れられてロゼットの部屋に置かれてたじゃない。そこにヴォルフが来たの。二人でずーっと話してたわ」


 「何を話してたんだ」


 「ヴォルフが紙を持ってきて、『また交差点を掘り直した。やっぱり何もない』って言うのよ。そしたらロゼットが『六か月よ』って。ヴォルフは『分かってる』って。で、自分が古い文書でこの城を知って、碑文で財宝があると確信した、『しるしの中心』は礼拝所の交差点だと思ったからそこを掘った、って説明するの」


 「……半年かけて、出なかったのか」


 「出なかった! で、城の中をあちこち全部掘ったけどはずれ。ロゼットが『もうやめにしない?』って言ったら、ヴォルフが『俺はここで終わりたくない』って。ロゼットも『分かってるわよ、だから付き合ってる』って言ってた。最後は『どこかの計算が違う』ってぶつぶつしてたわよ。もうずっとその話」


 アレクは床の穴を見つめた。


 ヴォルフは間違えた。しかし、どこで間違えたのか。


 この城はゲルドの一族の城だった。礼拝所の壁には竜の絵があった。白竜を崇めた一族。碑文の「しるし」とは——十字教の十字架ではないはずだ。ゲルドのしるし。ゲルドのシンボル。


 何か、そこに引っかかりがある。


 アレクは知恵の書を取り出した。一人になったことを確かめてから、ゆっくりとページを開いた。


 何も現れなかった。


 まだ答えが出る段階ではない、ということか。あるいは自分がまだ何かを見落としている。


 アレクは礼拝所の外に出た。


 北の城壁の向こうに、崖が広がっていた。朝の光が石灰岩を白く照らしている。城壁の向こうは急な岩場で、下は見えない。


 ゲルドのしるし。しるしの中心。


 その答えは、まだ分からなかった。



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