9話 黒翼将ザイモンとの戦い
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ザイモンは五十代半ば。背が高く、痩せぎすで骨が浮く。肌は乾いた大地のように黒ずみ、首から頬へひびが走る。
土色の髪を後ろで束ね、泥で固まったまま。濁った琥珀の瞳が熱だけを宿す。笑えば口角が不自然に吊り上がり、乾いた息が鳴る。
「まさかザイモン様の邪魔をするのが貴様だとはなぁ!冗談だろう?喰い千切ってやろうかぁぁぁ⁉︎」
ノクトは沈黙した。
「さっきの戦いを見ていたが、どうやら本当に魔法が使えないみたいだなぁ!
魔法も使わずにザイモン様に勝てるわけがないだろぉぉぉ⁉︎絞め殺してやろうかぁぁぁ⁉︎」
ザイモンの大声とノクトの沈黙が著しいコントラストを作る。
「ライナ。護衛だけ頼む。余りこの戦闘に深入りしすぎるな。」
ライナは全てを了解した。自分の目の前にいる相手は、これまで相手にしてきた者とはレベルが違う。
まだ相手の魔法も見ていないのに、ザイモンから漂う異様な殺気で全身が震えていた。
「大丈夫。心配するな。俺が皆を守るから。だから自分を守ることだけを今は考えて。」
ライナはノクトの優しい言葉に感謝した。私はいったい何に怯えているのか。
人を助ける。物怖じしない。それがアタシのモットーじゃん!
「任せてノクト。アタシ必ずノクトをサポートするからね!」
ザイモンの笑い声が響く。彼が笑う様子はまるで狂人だった。
体がねじれる。顔がゆがむ。その気味の悪い笑い声が響き続けた。
「ザイモン様も舐められたものだなぁ⁉︎殺してやるぅ。殺してやるよぉ!
どうせ貴様、しょせんは黒翼将だって舐めてるんだろう⁉︎でもなぁ、俺の実力は六魔星に勝るとも劣らないぜぇ⁉︎
女は殺すぜぇ。ノクトー!貴様は生け捕りにして魔王様に進呈だぁ!ならばザイモン様も出世するもんなぁ⁉︎」
ライナはザイモンの会話に違和感を抱いた。ザイモンとノクトは面識がある。
いったいノクトは何者なのか。でも今はそのことを考えずに、目の前のことだけに集中しようと決めた。
ザイモンの雰囲気がガラッと変わる。ひしひしと伝わる魔力。
「ライナくるぞ!かまえろ!」
「土穿血命、地底蠱王」
次の瞬間。地が震えた。
ザイモンが口を裂けるほどに笑い、両腕を広げる。外套の裾が風に裂け、深紅の内布が血のように翻った。
大地が悲鳴を上げる。足元の土が泡立ち、ひび割れの中から黒い液体が噴き出した。
それは血でも泥でもなく、地そのものの怨念だった。
ザイモンの肌がひび割れ、内側から無数の節足が突き破る。骨が軋み、背骨が波打ち、肉が蠢く。
人間の輪郭は崩れ、甲殻が音を立てて生まれ、脚が地面を掴んだ。
「見ろォ……この姿こそ、大地の真理だァ!」
声はもはや人ではなかった。低く、震え、空気を噛み砕くような咆哮。
外套の背が裂け、そこから漆黒の脚が百本、千本と溢れ出す。巨体が地を這う。うねる体節は黒鉄のような光沢を放った。
大地は泣き、風は逃げた。その中心には巨大なムカデに変わり果てたザイモンがいた。
「これはやばすぎじゃないかな?」
思わずライナが苦笑いをした。ザイモンの魔法が予想を超えていた。
「殺してヤルゥ。殺すゾォ、殺すゾォ!」
巨大化したザイモンがノクトたちに近づく。
ノクトは冷静だった。勝てる勝てないじゃない。自分には守らないといけないものがある。だからもうやるしかない。
ノクトは剣を構え、目の前の巨躯を睨みつけた。
巨大なムカデと化したザイモンは、もはや人の形を完全に捨てていた。
節の一つひとつが不気味に蠢き、全身からは土と血の臭いが混じった瘴気が立ちのぼる。
「ハハハハハァ!!剣士ヨォ!!貴様ノ足場ハ、俺ノ体ダァ!!」
その声が響いた瞬間、大地が爆ぜた。
足元から無数の脚が伸び、ノクトの脚を絡め取ろうとする。
ノクトは跳躍して回避する。
だが次の瞬間、地中から飛び出した黒い節足が背後を襲った。
反射的に剣で弾く――だが、衝撃は重く、腕に鈍い痛みが走る。
「クッ……!」
ノクトは後方に転がり、間合いを取る。だがザイモンの攻撃は止まらない。無限の節足がノクトに襲いかかった。
「紅蓮獅霊召喚。焔獅子乱舞‼︎」
ライナの拳が燃え上がり、紅蓮の魔法陣が地を走る。地表が赤く焼け、空気が熱で歪む。
瞬間、火花が円を描き、地を這うように炎が駆け抜けた。そこから立ち昇るのは、鬣を燃やす紅蓮の獅子。
咆哮と共に、燃え立つ炎の獣がザイモンに突進する。
ムカデと化したザイモンの巨体を、炎が呑み込んだ。轟音。閃光。獅子がザイモンに喰らい付く。しかし巨体はピクリともしない。
「ハハハハァァァ!!ヌルイナァァァァァ!!」
煙の中から、笑い声が響く。炎の中で、黒い巨影が蠢いた。
なんとザイモンの体表が、黒鉄のように硬化していたのだ。無数の脚がライナを襲う。ライナはその衝撃に吹っ飛ばされた。
ノクトの剣がザイモンを斬る。しかし黒鎧は硬い。ノクトは連続で斬撃を振るう。すると黒鉛が少し欠けた。
ザイモンが牙を向ける。ノクトは一瞬距離を取った。
ザイモンの背から、巨大な岩の棘が噴き出した。それが矢のようにノクトへと降り注ぐ。
ノクトは剣術でそれらを捌いた。一本の棘だけ彼の頬をかすった。薄い血が流れる。
ザイモンが地を叩く。大地が爆ぜ、土の波が津波のように押し寄せる。
ノクトはそれを剣で受け止めるが、爆風の衝撃で後ろに下がる。
「どうしたタァ⁉︎ノクトォォォ。魔法は使えないノカァ?魔法を使わないとザイモン様ニハァ勝てなイゾォ?」
剣が閃く。風が裂けた。ザイモンの突き出した脚が、瞬間、半ばで止まる。
「ナニ……?」
遅れて斬撃の光が走り、脚が崩れ落ちる。その切り口は鏡のように滑らかだった。
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