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救世の闇魔法――魔王の子と光の王女――  作者: 藤原 光希
ネフェルナ一族のライナ編

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83話 戦いの決着

GWの祝日は毎日投稿をします!

ぜひ救世の闇魔法をご堪能下さいませ!

 ノクトの肩からは血が流れている。腹にも痛みが残っている。だが足はまだ動く。呼吸も乱れきってはいない。


 ここで倒れるほど、自分はもう弱くない。


 ヴォルツは舌打ちした。


「だったらその隙を突いてみろよ!」


 ヴォルツが両腕を広げた。


終焉烈界シュウエンレッカイ爆華連鎖バッカレンサ!」


 王室中に浮かんでいた火花が、一斉に花のように開いた。


 赤い爆発の花。


 一つ爆ぜれば、隣の花が爆ぜる。その爆発がさらに次の爆発を呼び、連鎖しながらノクトへ迫ってくる。逃げ道を読むより早く、逃げ道そのものが爆発で塞がれていく。


 ノクトは杖を床へ突き立てた。


「黒焔旋獄!」


 黒い炎の渦がノクトを包む。


 だが、爆発の連鎖は止まらない。黒焔を食い破るように赤い爆炎が迫り、螺旋の外側から少しずつ削っていく。


 ノクトの額に汗が滲んだ。


 防ぐだけでは足りない。


 黒焔では、ヴォルツの領域そのものを破れない。


 そのとき胸の奥の黒い塊が脈打った。


 ドクン。


 闇が広がる。


 ノクティルに埋め込まれた異物のような闇。気味が悪いほど冷たく、それでいて甘く囁くように力を貸そうとしてくる。


もっと使え。

もっと沈め。

お前には光など必要ない。

お前は自分自身の持つ闇の力だけで全てを支配することができる。


そんな声が聞こえた気がした。


 ノクトは眉をひそめた。


「黙れ」


 誰に向けた言葉か自分でも分からなかった。


 だが次の瞬間、ノクトは胸の奥の闇を拒絶するのではなく、強引に掴み取った。


 支配されるためではない。


 自分の意思で使うために。


「俺は、お前の道具にはならない」


 黒い塊が激しく脈打つ。


 その闇を、ノクトは自分の魔力へと無理やり流し込んだ。全身の血管が焼けるように痛む。視界の端が黒く染まる。


 だが意識はまだ保っている。


 ノクトは杖を握りしめた。


「冥印解放――」


 ヴォルツの目が見開かれる。


「まだ何かあんのかよ」


 ノクトの足元に、黒い魔法陣が展開した。


 黒焔が床を這う。だがそれは、先ほどまでの炎とは違っていた。燃え広がるのではなく、何か巨大なものの輪郭を描くように、王室全体へ静かに線を伸ばしていく。


 黒い線が、龍の鱗のような紋様を刻む。


 空気が沈む。


 爆発の領域であるはずの終焉烈界の中に、別の気配が混じり始めた。


 深い闇。

 黒い焔。

 そして、古い獣のような圧。


冥印解放めいいんかいほう――漆黒龍しっこくりゅう降臨こうりん


 ノクトの背後で、黒焔が大きく膨れ上がった。


 それはただの炎ではなかった。長い首。鋭い角。巨大な翼。闇と黒焔で形作られた龍が、王室の天井を押し上げるように顕現する。


 漆黒龍。


 その身体は夜そのもののように黒く、鱗の隙間から黒焔が漏れている。瞳は赤黒く輝き、口元からは灼けた闇の息が零れていた。漆黒龍は以前にヴァルグラン戦で現れたときよりも、更に巨大になっていて大幅に力強さを増していた。


 龍が咆哮する。その咆哮だけで、王室の爆発の花がいくつも消し飛んだ。


 ヴォルツは一瞬、息を呑んだ。


「……漆黒龍。これは魔王様の使っていた魔法‥‥‥」


「長くは保たない」


 ノクトは静かに言った。


「だから、これで終わらせる」


「上等だ!」


 ヴォルツが両手を叩き合わせた。


「爆神降臨・終焉烈界――爆界大葬バッカイタイソウ!」


 王室全体が赤く光った。


 床も壁も天井も、すべてが同時に脈打つ。今度は点の爆発でも、連鎖の爆発でもない。領域全体を一度に爆発させるつもりだった。


 逃げ場はない。


 防ぎきれる規模でもない。


 王室そのものを巨大な爆炎の墓に変えるヴォルツの最終攻撃だった。


 赤黒い光がノクトを包む。


 ヴォルツが叫んだ。


「まとめて消し飛べぇぇぇぇッ!!」


 世界が爆ぜた。


 轟音。


 閃光。


 王室が内側から崩壊する。柱は粉々に砕け、天井は吹き飛び、床は火山のように裂けた。爆炎が渦となってすべてを呑み込み、城そのものが震えた。


 だが爆炎の中心で、漆黒龍が翼を広げていた。


 その翼は完全には防ぎきれていない。黒焔の鱗が剥がれ、龍の身体の一部が爆発で欠けていく。ノクトの腕にも裂傷が走り、口元から血が滲んだ。


 それでも倒れない。


 漆黒龍は爆炎の中で首をもたげ、ヴォルツを睨んだ。


「な……」


 ヴォルツの顔から笑みが消えた。


「耐えただと……?」


「耐えたんじゃない」


 ノクトが言った。


 その声は荒い息の中にあっても、妙に落ち着いていた。


「爆発を喰わせたんだ」


 漆黒龍の身体が脈打った。


 ヴォルツの爆炎を受けたはずの黒い鱗の奥で、赤黒い光が揺れていた。爆発を完全に消したのではない。漆黒龍がその爆発の魔力を身体の内側へ呑み込んでいたのだ。


 黒焔と爆炎。


 相反する二つの破壊力が、龍の喉元で絡み合う。


 ヴォルツの目が大きく見開かれる。


「まさか……俺の爆発を……」


「お前の魔法は強い」


 ノクトは杖を構え直した。


「だから利用させてもらう」


 漆黒龍が口を開いた。


 喉の奥に黒い炎が集まる。そこへヴォルツの赤黒い爆発の魔力が吸い込まれていく。黒と赤が混ざるのではない。黒焔が爆発を縛り、爆発が黒焔の威力を押し上げる。


 龍の口内に、巨大な黒赤の光が生まれた。


 ヴォルツは本能的に後ろへ下がった。


「ふざけんな……」


 彼は両腕を前へ突き出す。


「まだ終わってねぇ!爆獄崩星バクゴクホウセイ天墜終界テンツイシュウカイ 」


「無駄だ。」


 ノクトが静かに言った。


 漆黒龍の翼が大きく広がる。


 黒焔の灰が王室の残骸を舞った。


 そしてノクトは、この戦いを終わらせるための魔法を唱えた。それはこの戦いで生まれた最初で最後の魔法。


漆黒龍奥義しっこくりゅうおうぎ――黒焔爆喰咆こくえんばくじきほう


 漆黒龍が咆哮した。


 それはただのブレスではなかった。


 黒焔の奔流が、呑み込んだ爆発魔力を内側に封じたまま一直線に放たれる。黒い炎の中で赤い火花が暴れ、しかし外へ散ることは許されない。爆発しようとする力を黒焔が喰らい続け、その喰らった力でさらに前へ進む。


 爆発を燃料にする黒焔の咆哮。


 ヴォルツは巨大な核爆発を作る。それが隕石のように龍に迫る。だがノクトの魔法はそれすらも呑み込んだ。


「くそがああああああッ!!」


 巨大な核爆発が大きく膨れ上がる。だが黒焔爆喰咆は、その爆炎すら喰らって進む。そして黒焔は更に勢いを増していく。


 ヴォルツの足元が砕けた。


 腕の魔法陣がひび割れる。


 爆炎の壁が崩れる。


「俺の……爆発が……!」


 ヴォルツの声が、黒焔に呑まれていく。


 次の瞬間、黒焔の咆哮が彼を完全に飲み込んだ。そして王室の奥が吹き飛んだのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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